政策医療

脳梗塞(総合内科脳卒中グループ)

総論

脳梗塞は半身の麻痺や言語の障害などの症状をきたす疾患で、多くはある日突然起こり緊急対応が必要となります。歩きにくい、どちらか一方に偏ってしまう、ものをうまくつかめない、字が書きにくい、しゃべりにくいなどの症状がみられ、医療機関を受診するケースが多く、症状を自覚し始める時期がはっきりしている(朝起きてみると、日中活動している時急になど)のが特徴です。1~2ヶ月くらい前からだんだんと調子が悪くなってきた場合は脳梗塞以外の病気の可能性が高いと考えられます。脳梗塞は、以前は確立された治療法がほとんどなく経験的な方法に頼られていましたが、診断機器の進歩に伴い、病型別の治療が行われるようになってきました。脳梗塞診療に詳しいスタッフによるチーム医療が望ましく、入院加療では指針に基づく急性期の治療や合併症のコントロールが行われます。麻痺などの機能障害に対しリハビリテーションを必要とすることがあります。
さて、症状が続く脳梗塞は主に3つの病型に分類されます。1)心原性脳塞栓症、2)アテローム血栓性梗塞、3)ラクナ梗塞のタイプ別に治療が選択されます(使用される薬剤も異なります)。その他、24時間以内に症状が消失する一過性脳虚血発作や、症状はないが検査で見つかる無症候性脳梗塞があります。以下に各々について順に述べてゆきます。

心原性脳塞栓症

心臓に原因があって、心臓から流れてくる血栓により脳梗塞をきたした場合を心原性脳塞栓症といいます。心臓の中の特に左心系に血栓ができた場合、あるいはシャント性心疾患(心臓の仕切りに穴が開いていて静脈の血液が肺のフィルターを通らず直接動脈に流れ込む)を有する場合、静脈や右心系にできた血栓がその穴を通って流れ、脳血管を閉塞することで生じます。脳梗塞全体の15~20%を占めており、突発性に症状が出現し、重篤なことが多い傾向にあるタイプです。塞栓源となる心疾患で多いのは、非弁膜症性心房細動(NVAF)、リウマチ性心疾患(特に僧帽弁狭窄症)、心筋梗塞(心室瘤)、心筋症人工弁などです。これらのうち、もっとも高頻度なのはNVAFで、心原性脳塞栓症の約4~5割を占め加齢とともに有する頻度が増加します。

8~9割が突発完成型です。本症の診断には、塞栓源となる心疾患の検出が前提となります。既往歴に不整脈(心房細動)、心筋梗塞や心筋症、弁膜症、人工弁置換術などがないかの問診は重要です。検査としては心電図は必ず施行され、心房細動の有無のチェック、心疾患を示唆する心電図異常の有無を評価します。NVAFの30%くらいは発作性といわれているので、24時間心電図も施行されることがあります。器質的心疾患を見るのには心エコーが有用です。左房内血栓やシャント性疾患の検出には経食道心エコーが有用です。頭部画像診断では境界明瞭な皮質梗塞や、広範な基底核部梗塞の形をとることが多く、一部の患者さんで一定時間後に、血栓による閉塞が自然溶解などによって血流が再開通したときに出血性梗塞がみられることも本症の特徴です。

本症は広範梗塞をきたしやすく、急性期の再発率、出血性梗塞への移行(合併)、高度の浮腫を呈しやすいため、画像所見をはじめとする情報でその危険度の高いものをカバーするように、治療を選択しなければなりません。梗塞巣があまり広範でなければ(中大脳動脈領域の1/3以下といわれます。)、急性期の再発予防のため抗凝固療法を開始します。発症から6時間以内の脳梗塞に血栓溶解療法(t-PAやUKの局所動注)や3時間以内のt-PAの静注が試みられることがあります。(ただし、t-PAはわが国では2003年2月の時点で未承認です。)梗塞巣が大きい場合は、浮腫が高度に生じるため、早い時期から抗脳浮腫薬(グリセオールやマンニトールなど)が用いられます。状態が落ち着いた慢性期には再発予防のための経口抗凝固薬ワーファリンの内服を行います。血液データを指標にコントロールを行います。

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運動機能障害(麻痺)の程度に応じた機能回復訓練(リハビリテーション)を受けて頂くこともあります。

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アテローム血栓性梗塞

頭蓋外・内主幹脳動脈のアテローム硬化性病変が原因となり起こる脳梗塞です。3つの発症メカニズム、血栓性(完全閉塞した動脈から血栓が進展して生じる)、塞栓性(狭窄性病変から遊離した栓子が血流に乗って遠位の動脈を閉塞する)、血行力学性(閉塞性病変末梢の脳実質灌流圧降下による)が病態に影響する可能性があります。このうち、複数の要因が絡んでいると考えられる場合も多くみられます。治療は、発症メカニズムを考慮したうえで決められます。血栓性メカニズムでは、微小循環の増悪を予防すること、血栓そのものの進展を予防することが重要です。血行力学性メカニズムには、血圧を高いレベルに維持し虚血領域での灌流圧を保つこと、低分子デキストランによる血液希釈は微小循環を保つのに有用と考えられています。血栓進展や再発予防に抗トロンビン薬(アルガトロバンなど)や抗血小板薬(アスピリンなど)が有効です。中等大以上の梗塞の場合では、脳浮腫軽減目的にグリセオールなどの抗脳浮腫薬が使用されることもあります。血行力学性メカニズムでは、脳灌流圧を保つことが最も重要と考えられ、脱水を予防するための補液を行い血圧を低下しないようにします。

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運動機能障害(麻痺)の程度に応じた機能回復訓練(リハビリテーション)を受けて頂くこともあります。

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ラクナ梗塞

ラクナ梗塞は、大脳深部あるいは脳幹を灌流している小動脈(穿通動脈)が閉塞することにより起こり、運動麻痺、感覚障害、言語障害などの症状がみられることが多いタイプで、ふつう意識障害はみられません。本邦では脳梗塞全体の約30-35%を占め、欧米に比べると頻度が高いタイプです。
症状としてみられるのは、半身の運動麻痺、半身の感覚障害, 失調を伴う麻痺, 構音障害などが主なものである。それぞれの症状により、歩きにくい、どちらか一方に偏ってしまう、ものをうまくつかめない、字が書きにくい、しゃべりにくいなどを自覚することが多い。X線CTやMRIによる脳の画像検査で、症候に対応する直径15mm以下の小梗塞巣を検出できれば診断はほぼ確実です。
わが国では、機能予後改善を目的とした急性期のオザグレルナトリウム投与が適応とされています。再発防止には、高血圧、糖尿病、喫煙、高脂血症など危険因子の管理が中心となるが、中でも関連の深い高血圧のコントロールが重要です。また再発防止を目的としてアスピリンなどの抗血小板薬が使用されることもあります。

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ラクナ梗塞の予後は、一般に良好で、約80%が日常生活の自立が保たれます。症状が動揺する方を除けば、早期より安静度の拡大が可能で、運動機能障害(麻痺)の程度に応じた機能回復訓練(リハビリテーション)を受けて頂くこともあります。

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一過性脳虚血発作

短時間の局所的脳虚血により神経脱落症状を呈しますが、血流回復とともに症状がすみやかに消失する病態を総称する、臨床的症候群です。発作持続は数時間以内が多いですが、定義上24時間以内に完全に症状が消失するものをいいます。TIAは脳梗塞の切迫発作と考えられ、完成型脳梗塞に至る前の、それを阻止しうる病態として意義があります。

TIA治療の第一目標は脳梗塞への移行を防止することですが、経過観察中に虚血性心疾患の発症も多く、危険因子のコントロールなど全身の管理も忘れてはなりません。TIA治療は脳梗塞に準じ、早期から発症機序に応じた対処が必要で、再発の危険が高い症例は入院治療の適応となります。

無症候性脳梗塞

無症候性脳梗塞とは症状のない脳梗塞をいい、多くは脳深部の小さな梗塞です。狭義には脳卒中発作の既往がないのにCTやMRIで脳梗塞が認められ、その病変に起因する症状や症候が認められないものを言います。MRI上(T2強調画像で高信号かつT1強調画像で低信号の)3mm以上の限局性病変を梗塞巣、それ以下を血管周囲腔の拡大ととり、無症候性脳梗塞の有無を判断します。無症候性脳梗塞の頻度は年齢とともに増加します。また、無症候性脳梗塞ではありませんが、同様に脳の細動脈硬化と関係する白質病変(脳室周囲高信号域)も見られることがあります。

これら無症候性脳梗塞や白質病変の危険因子として重要なのが加齢と高血圧です。また無症候性脳梗塞のある方は、脳卒中特にラクナ梗塞と脳出血の発症率が高くなるという意見もあります。治療に関しては血圧のコントロールなど危険因子の管理が主体です。主幹動脈病変や心疾患を有する例では抗血小板・抗凝固療法が適応になる場合もあります。

抗凝固療法

現在脳梗塞治療に用いられる抗凝固薬は、注射薬ではヘパリン、アルガトロバンがあり、経口薬ではワーファリンがあり、慢性期の再発予防に対して用いられます。脳梗塞の病型にあわせ、進行状態に合わせて薬が選択されます。

アルガトロバンはアテローム血栓性脳梗塞に対して有効性が認められており、発症後48時間以内の投与に適応があります。

ヘパリンの適応は心原性脳塞栓症急性期の再発予防、進行型脳梗塞、一過性脳虚血発作で心原性が考えられる場合、脳静脈血栓症などがあります。

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  1. 心原性脳塞栓症急性期の再発予防

    心原性脳塞栓症は急性期特に2週間以内の再発が多いとされるが、一方で急性期には出血性梗塞が高頻度で見られ、ヘパリンが増悪因子となる危険性もあるため、その開始時期と投与量は慎重に検討されます。

  2. 進行型脳梗塞

    アテローム血栓性脳梗塞や穿通枝領域梗塞(ラクナ梗塞)の中には進行性の経過をたどるものがあり、梗塞巣の拡大を阻止する効果が期待されます。

  3. 一過性脳虚血発作で心原性が考えられる場合

    この場合にもヘパリン投与を行い、早期に経口抗凝固薬や抗血小板薬に移行します。

  4. 脳静脈血栓症

    急性期はヘパリンの持続静注を行い、ワーファリンなどの経口抗凝固薬へ切り替えます。上記の抗凝固療法の禁忌は脳出血を合併している場合です。副作用も出血性合併症があるということです。

ワーファリン服用について

慢性期の再発予防に用いられるワーファリンは心疾患の種類でコントロール目標を定めて投与されます。指標となるのがPT-INRでPT-INRの至適範囲は1.6~3.0といわれており、疾患や素因などでどのくらいのコントロールとするかを決定します。例としては、人工弁置換術後や僧帽弁狭窄症の人は2.5~3.0くらいの強めのコントロールとし。非弁膜症性心房細動の人で70歳以上の高齢者は若干弱めの2・0前後のコントロールが望ましいとされています。薬を飲み始めて2~3日後から効果があらわれます。ワーファリンの副作用は出血性合併症を起こしやすいことです。そのため定期的な血液検査により、コントロール量を決める必要があります。また、ワーファリン服用されている方は、摂取してはいけない食品があることや他の薬との相互作用を受けやすいことなど知っておく必要があります(肝臓でビタミンKの作用を阻害することで抗凝固作用が発現するので、ビタミンKを多く含む食品である納豆・クロレラの摂取、そして青汁・緑葉野菜やブロッコリーの大量摂取は効果を減弱するので禁止です)

脳梗塞急性期の抗血小板療法

アスピリンは、大規模臨床試験にて、発症後48時間以内の脳梗塞患者において再発予防効果と予後改善効果があることが示されています。トロンボキサンA2合成酵素阻害剤(オザクレルナトリウム)は、わが国において発症後5日以内の脳血栓症を対象とした試験で有効性が示され、現在主にラクナ梗塞にみられる運動麻痺に対する効果を期待し使用されています。

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脳梗塞慢性期・TIAに対する抗血小板療法

アテローム硬化が原因で起こる血栓症や一部の塞栓症に対し抗血小板療法の投与が行われます。また、単剤で効果が不十分な時、異なった作用機序を有する抗血小板薬を併用することによって、相加的または相乗的な効果を期待できます。非弁膜症性心房細動(NVAF)に対しても、ワーファリンに劣るものの、脳梗塞発症防止効果があることが知られています。