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メールマガジン「法円坂」No.209(2018/9/18)(独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター)



 敬老の日の始まりは、ある村でお年寄りを大切にし、知恵を借りて村づくりを
しようと敬老会を開催したのが始まりとされています。中国でも重陽節として年
長者を敬う日があり、アメリカでも9月の第一月曜日の次の日曜日が祖父母の日
とされているそうです。年長者を敬い、人生について教えてもらうことは、いつ
か役に立つと思います。今月はそういうことを考えてみたいと思います。
では、今月のメルマガをお楽しみください。
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   メールマガジン「法円坂」No.209(2018/9/18)
          (独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター)
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今月号の目次
 ・院 長  是恒 之宏 です
 ・臨床研究、臨床試験、そして治験とは
 ・最新の診断治療 「災害時における糖尿病患者さんの心得」
 ・最新の診断治療 「腎臓内科」
 ・看 護 の こ こ ろ
 ・研 修 医 日 記

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      院 長  是恒 之宏(これつね ゆきひろ) です       
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元気な向日葵

 9月4日は、私がこの病院に来て一番大きな台風に見舞われました。テレビで
第二室戸台風以来の大阪湾高潮という報道があり、私の年代では印象に残ってい
る台風で懐かしく感じました。昭和36年、小学校1年のとき当時福島区に住んで
いましたが、淀川が溢れ床下浸水しました。それ以降、2号線にある淀川大橋の
堤防箇所に防潮鉄扉が出来たと記憶しています。今回の台風は当院でも暴風に見
舞われ、駐車場で車が風で移動したり、木が折れたり窓が数枚割れる被害があり
ましたが幸い大きな事故にはならずほっとしています。帰宅時には阪神高速が市
内全域通行止めとなっており、43号線で尼崎を抜けるまで1時間半ほどかかりま
した。途中、43号線の淀川から弁天町へ抜けるバイパスの上でトラックが横倒し
になっており、今回の暴風の凄さを改めて感じました。
 当院では、例年この時期に地下鉄谷町4丁目出口から玄関まで向日葵を見るこ
とができます。ボランティアの方々が暑い中もお世話くださり、夏に元気をもら
います。今年は少し満開が遅くちょうど今の時期になりました。背丈より大きな
立派な向日葵ですが、今回の台風できっと全滅だろうと心配しましたが、翌朝確
認したところ半分以上がしっかりと立っていました。改めて、向日葵の力強さに
感動したところです。台風一過、晴れてまた暑い日がやってきています。今年の
夏は台風と猛暑で大変でしたがまだ9月初めですので油断せず熱中症にも気をつ
けて過ごしましょう。

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       臨床研究、臨床試験、そして治験とは      
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                      副院長・臨床研究センター長
                       上松 正朗

 今回のメルマガはやや堅い話で恐縮ですが、診療所や病院で出されるお薬の開
発に関係する話をします。しばらくおつきあい下さい。皆様は「治験」「臨床試
験」「臨床研究」という言葉を聞かれたことがあると思います。その違いをご存
じでしょうか。この3つは似ているようですが、それぞれ意味合いが異なります。
簡単に整理してみましょう。

「臨床研究」とは、人を対象として行われる医学上の研究全てを指します。すな
わち病気の予防方法や診断方法および治療方法の改善、病気の原因やなりたちへ
の理解、患者さんの生活の向上などを目的として行われる医学上の研究のうち、
人を対象とするものをいいます。臨床研究のうち、薬や手術、放射線治療など様
々な治療法や予防法が有効かどうかを評価する目的で行われるものを「臨床試験」
といいます。臨床試験のうち、薬や医療機器の製造販売の承認、またはその変更
を申請するために行う臨床試験が「治験」です。お薬は勝手に製造販売すること
は許されません。国の承認が必要です。その承認申請を目的とした臨床試験が治
験です。つまり治験は臨床試験に含まれ、さらに臨床試験は臨床研究の一部であ
るということができます。
 治験は患者さんの協力があって初めて可能です。皆様がのまれるお薬は、過去
の患者さんの協力の下に行われた治験の結果、有効性、安全性が確認されたと国
が判断し製造販売が承認されたものです。血圧を下げる薬、コレステロールを下
げる薬、尿を出す薬、細菌やウイルス、がん等をやっつける薬等、新しい薬の誕
生により人類はいろんな恩恵を受けてきましたが、薬の開発には大変な時間、費
用、人手が必要です。
 新しい薬を開発するためには、まず候補となる物質を探すことから始まり、様
々な研究が行われます。まず将来薬となる可能性のある新しい物質をみつけたり、
化学的に創り出すための基礎研究を行います。候補となる物質が得られたら、培
養細胞や動物を用いて有効性と安全性について確認します(非臨床試験)。非臨
床試験で有効性と安全性が確認されたら、やっと治験にたどり着きます。治験に
は通常3つのステップがあります。すなわち第I相試験、第II相試験、第III相
試験です。第I相試験では、健康なおとなの人を対象に、安全性を確かめます。
また薬がどのように吸収されて体から出ていくかも調べます。第II相試験では、
比較的少ない人数の患者さんに対して何通りか使用法を試し、効果と有害な作用
の両方を詳しく調べ、最適と思われる使い方を決めます。第III相試験では、よ
り多くの患者さんに対して第II相試験で有効と考えられた投与方法を用いて効果
と有害作用をしらべ、いままでの薬に比べてよりよく効くか、または有害な作用
が少ないかをみます。新しいお薬が必ずしもよいとは限らないからです。第III
相試験で有効性、安全性が確かめられたお薬は、申請をへて承認審査が実施され
た後、製造販売が認可されます。薬にもよりますが、一般的に約10年から18年
の長い開発期間と200〜300億円もの巨額の費用がかかるとされています。認可さ
れ製造販売が開始された後にも、製造販売後調査が行われ、医薬品の有効性、安
全性の確認が行われます。薬の値段が高いのにはこのような理由があるのです。
 治験には患者さんの協力が必須ですが、参加していただくにあたっては患者さ
んの人権と安全性を確保し、倫理的な配慮のもと、科学的かつ適正に行われなけ
ればなりません。そのため治験には法律で定められた基準(省令GCPと呼ばれて
います)があります。GCPでは、患者さんの人権の保護、安全性の確保について、
治験の質の確保について、データの信頼性や責任・役割分担について、記録の保
存についてなど、細かく定められています。製薬企業等治験を行おうとする者は、
まず国へ治験実施計画を届け出、審査をうけます。ここで問題があれば指導をう
け、修正されます。治験が許可されると、病院に治験が依頼されます。病院では
治験が開始される前に、治験に参加する人の人権や安全性を守りつつ薬の効果を
科学的に調べることができるか等を治験審査委員会で審議します。この委員会に
は医療の専門家だけではなく、法律の専門家や院外の一般の方も参加します。治
験を行っているということは、その病院ではスタッフや設備が整っており、医療
レベルについてもGCPの定める高い基準を満たしているということにもなります。
大阪医療センターもその一つです。
 治験では未だ認可されていない新しいお薬が使われますが、まだ人では必ずし
も有効性が明らかではありません。治験に参加しても必ずしも新薬が投薬される
とは限らず、対象薬として従来使われている薬や、「プラセボ」といって薬の作
用のないものを投薬されることもあります。このような内容を予めしっかりと説
明しなければなりません。治験はGCPの規制の下、体制の整った医療機関で、患
者さんの人権と安全に配慮しつつ、医師だけではなく複数のプロの監視の下に粛
々と行われます。決して「モルモット」にされるわけではありませんのでご安心
を。
我々が現在恩恵をうけている薬は、過去に病気に苦しみながらも治験に参加され
た大勢の患者さん達からの大切な贈り物であるといえます。


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       最新の診断治療 10      
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災害時における糖尿病患者さんの心得
                     糖尿病内科科長 瀧 秀樹  

 記憶にある方も多いと思いますが、1995年阪神淡路大震災が起こりました。多
数の死傷者とともに避難生活を強いられた方も相当数に上りました。この震災の
経験を基にして、震災時における医療の体制に関してさまざまな検討が行われま
した。その結果2005年に災害派遣医療チーム・DMAT(Disaster medical
assistance team)が組織されました。その後の東日本大震災、熊本地震におい
て各地よりDMAT隊が派遣され、災害医療の初期活動にあたっておられます。当
院でもDMATが組織され、西日本の災害拠点病院として災害に備えています。近
年では2016年の熊本地震発生後、当院からDMATが派遣され災害初期活動を行い、
その後医療班も派遣され避難所での医療活動を行いました。
 日本糖尿病学会では2011年の東日本大震災後、糖尿病医療従事者、糖尿病患者
にアンケート調査を行い、震災時の糖尿病診療における問題点を検討し、ガイド
ラインを作成しました。
 糖尿病患者の治療では食事・運動・薬物療法が重要です。東日本大震災時のア
ンケート調査から患者が実際にこれらに対応し始めたのは、インスリン注射療法
が平均7.8日後 内服薬療法が8.6日後、食事療法が22.1日後 運動療法26.1
日後でした。薬物療法に関しては平均1週間前後で早期に対応できていましたが、
食事運動療法に関しては平均3週間後と遅れ気味でした。特に津波被害を受けた
沿岸部では津波被害のなかった内陸部に比較して時間を要したことが分かってお
り、津波被害の深刻さが伺えました。薬物療法に関しては震災前と同様の治療の
継続が必要ですが、薬剤名が判明したのは6割で残り4割は不明でした。薬剤名
判明の決め手はお薬手帳もしくは処方箋の控えでした。早期の治療再開において
薬剤名を医療従事者に的確に伝えることは大変重要です。薬手帳もしくは処方箋
の控えを災害非常袋に入れておくか常々身に着けておくことが、震災後スムーズ
に治療を継続するうえで重要と考えられます。近年日本列島での災害の増加が著
しいと皆さんも感じられているのではないでしょうか。是非震災時に必要なもの
を時々ご確認いただければと思います。                    


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       最新の診断治療 11    
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最新の診断治療 腎臓内科
                     腎臓内科科長  岩谷博次

 本邦の透析導入原因の第一位は糖尿病性腎症、第二位は慢性糸球体腎炎、第三
位は腎硬化症、第四位は多発性のう胞腎です。
 糖尿病性腎症は、糖尿病が進行して、微量アルブミン尿、顕性蛋白尿、そして
腎機能が低下するというのが典型的なパターンです。しかし、最近あまりアルブ
ミン尿・蛋白尿がでることなく腎機能が低下する、いわゆる腎硬化症タイプが増
えていることがわかってきました。そのため、糖尿病性腎症という表現ではなく、
典型的なものと非典型的なものを含め、糖尿病性腎臓病(DKD)という表現される
ことが増えてきました。DKDの治療においては、血圧、血糖の管理が重要です。
最近では血糖を管理する抗糖尿病薬が数々開発され、心、腎、脳などを保護でき
るような薬剤も開発されてきました。当科では、DKDの診断、治療に積極的に取り
組み、DKDの病態を考えて治療法を選択しております。
 慢性糸球体腎炎は、透析導入原疾患として年々減少しております。これは原発
性糸球体腎炎のうちで、最多であるIgA腎症の治療に変遷があったためと思われま
す。本邦では、学校や職場での優れた健診制度を基礎に、発見されたIgA腎症に
対して、早期から扁桃摘出・ステロイドパルス治療が広く行われ、これが腎炎に
よる透析導入を減らしつつある大きな要因ではないかと思われます。ただ、その
ような治療でもうまく寛解しない患者さんが一定の割合でおられます。そのよう
な方々に対しても、当科ではこれまでIgA腎症の基礎的、臨床的研究を行ってきた
経験をいかし、患者さんの病状を改善すべく創意工夫をもって治療に取り組んで
おります。現在、北は北海道、南は九州と日本全国の基幹病院、大学病院よりご
紹介をいただいており、またIgA腎症のセカンドオピニオン外来も行っております。

 多発性のう胞腎については進行を遅らせる治療薬が開発されており、一定の条
件をみたせば、難病にも認定され使用可能です。現在当科では積極的な診断と治
療、ならびに合併症の精査加療に取り組んでおり、多くの患者さんを治療してお
ります。


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      看 護 の こ こ ろ        
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					 手術室 副看護師長
                       吉川 啓子

 9月になってもまだ残暑が続いておりますが、皆様お元気でお過ごしでしょう
か。
 私は看護師になって20年目となり、現在手術室の副看護師長をして10年目とな
ります。手術室は病棟と比べると特殊な環境であり、手術室についてよく聞く言
葉として、「手術室の看護が見えにくい。」があります。そこで今回は手術室の
看護についてお話させていただき、皆さんに少しでも理解していただけたらと思
います。
 手術室看護師の業務は主に手術の介助で、医師に器械や機器を準備し手渡した
り、麻酔科医の指示で輸液を準備したりします。最近の医療系テレビドラマは、
主人公のようなスーパードクターがいるかいないかはさておき、患者さんを取り
巻く手術室の環境、医療機器や医療スタッフの動きは本物に忠実に作成されてい
ると思います。ドラマの中でも手術室看護師は器械を執刀医に手渡す姿が映し出
され、患者さんと直接関わる場面はあまりありません。器械を医師に渡すだけな
ら看護師でなくてもよいと思われるかもしれません。
手術室看護師は、周術期を通して患者さんと関わります。術前は術前訪問やカル
テから患者さんの全身状態、薬剤アレルギーの有無、皮膚の状態や手術に対する
不安についてなどの情報を収集します。それらの情報から看護の視点でアセスメ
ントし、抽出された問題点に介入することで術中、術後の安全、安楽に繋げます。
もともと膝を伸ばすと痛みがある患者さんには、膝下に入れるクッションを準備
し、体位を整えて固定するほんの数分の時間にクッションを入れます。そのクッ
ションが無くても手術は同じように終了します。しかし、そのクッションにより
術中、術後の膝の疼痛を防ぐことができます。
医師はとにかく手術を成功させることに集中しています。外科的治療を受けられ
る患者さんにとっても手術は1番大事な場面です。それを1番近くでサポートし、
声の出せない患者さんの気持ちを代弁できるのは手術室看護師です。ひとたび手
術が始まれば何時間も動かせない患者さんの身体を良肢位に保ち除圧すること、
羞恥心を配慮した環境作り、体温調節、麻酔科医と連携した全身状態の観察と管
理、手術がスムーズに進行するための診療科を越えた医療機器の提案や延長した
手術では待機しているご家族への声かけなど術中に看護師がするべき看護はたく
さんあります。私は、手術台に上がり麻酔がかかる直前の患者さんの横に立つと
きはそっと手のひら付近に自分の手を持っていくようにしています。するとぎゅ
っと私の手を握られる患者さんが多いです。ある患者さんから当院に「手術の後、
看護師の優しい声で麻酔から目を覚まし安心できました。」というご感想が寄せ
られました。もしかしたらそれは麻酔科医師だったかもしれませんが、私たちの
日々行っている声かけで患者さんが安心してくれることがわかりとても励みにな
りました。そのようなご意見を頂けて本当に感謝します。人生の中で一大事であ
る手術を受けられる患者さんの気持ちに寄り添い、安全安楽にそして安心して手
術が受けられるよう手術室看護師一同で頑張っていきたいと思います。

 最後になりましたが、夏バテは秋にも出ると申しますのでお気をつけ下さい。


ホームページ→http://www.onh.go.jp/kango/kokuritu.html


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          研 修 医 日 記
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                     研修医2年目 茂木 孝友

 初めまして、国立大阪医療センター初期研修医二年目の茂木孝友と申します。
この文章を読んで下さっているのは、メールマガジンの出る時期的にマッチング
の面接や試験を終え、国試や卒試に向けて勉強中の六回生の方々でしょうか。そ
れとも受ける病院に悩んで、国立大阪を知るためにバックナンバーを追って読ん
で下さっている五〜六回生の方でしょうか。ご多忙な中、貴重なお時間を割いて
お読み頂きありがとうございます。

 当院の初期研修の特徴としては、やはり研修医の人数が多いことでしょうか。
1学年におよそ14人ずつ、2学年で約30人もの研修医がいる病院はなかなか無い
のではと思います。研修医一人一人に自分の机が割り当てられている研修医ルーム
があり、そこの共用PCで電子カルテも見られるため、研修医同士で分からないと
ころや、当直で気になったところなどを気軽に聞きあえる環境となっています。
また、研修以外での良い点としては、寮があることが挙げられます。私は当院の
寮で初めての一人暮らしをしており、自炊は満足に出来ませんが、寮の隣のスー
パーや近くの弁当屋さんがあるおかげで、食事に困ることはないです。遠方の方、
一人暮らしが初めての方でも安心して仕事に就けると思います。
当院のことをもっと知りたい場合、研修医日誌のバックナンバーを追いかけて頂
いたり、または見学に来て頂くのもいいかと思います。実際目にしないとわから
ないこと、直接でなければ聞きづらいこともあるかと思いますので、当院での研
修を少しでも考えていらっしゃる方はぜひ一度見学にいらして下さい。


臨床研修のホームページ→http://www.onh.go.jp/kensyu/index.html


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総編集長:病院長 是恒之宏
編 集 長:副院長 関本貢嗣、上松正朗
     看護部長 伊藤文代 
編   集:百崎実花
発  行:独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター院長室
         (〒540-0006 大阪市中央区法円坂2-1-14)
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 台風21号が9月4日に近畿地方を直撃しました。そして9月6日は北海道で震
度7の地震が起こりました。この自然災害は猛威を振るい、多くの人の人生に影響
を与えています。自然災害に私たちはどのように対処していかなければならないの
か、何度も考えさせられます。経験から学び、「他人事」ではなく「自分事」とし
て備えておくことが大切だと切に思います。


メールマガジンのご感想をお聞かせ下さい。
www-adm@onh.go.jp

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