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メールマガジン「法円坂」No.210(2018/10/15)(独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター)



いよいよ秋です。
梨、ぶどう、柿、さんま、さつまいも、栗など秋の味覚を楽しみたいと思います。
できれば松茸も、、、。
今月のメールマガジンをどうぞ。
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   メールマガジン「法円坂」No.210(2018/10/15)
          (独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター)
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今月号の目次
 ・院 長  是恒 之宏 です 
 ・最新の診断治療  インプラント義歯(歯科インプラント治療)について
 ・最新の診断治療  病理診断について
 ・「臨床検査における精度管理とは」 
 ・看 護 の こ こ ろ
 ・研 修 医 日 記

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      院 長  是恒 之宏(これつね ゆきひろ) です       
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ご高齢の心房細動

  今月はちょっと専門領域のお話を。10月14日に後期高齢者心房細動患者さんの
登録研究中間報告会があり、中央委員の一人として参加してきました。
このANAFIEレジストリーはこれまでとは桁違いの3万例を登録する予定で2016年
10月に開始し、登録期間は2年の予定のところ1年3ヶ月で33278例に達し、前倒
しで登録期間を終了しています。現在登録にご協力いただいた患者さんが2年間で
どのような経過になるのかを見ているところです。75歳以上の高齢者においても9
割以上の方に抗凝固薬が処方されていることには驚きました。ご高齢になると抗凝
固薬による出血リスクも増加するので、無投薬あるいは抗血小板薬でのフォローが
もう少し多いと予想していました。おそらく参加していただいた先生方が心房細動
の脳梗塞予防に積極的であり、また文書同意を患者さんから得るという時点で患者
さんの選択バイアスがかかっているのではという意見も出ました。
ワーファリンの使用が25%、ワーファリン以外の直接経口抗凝固薬DOAC(プラザ
キサ、イグザレルト、エリキュース、リクシアナ)が66%でした。ワーファリン
を使われている患者さんのコントロールは極めて良好でした。おそらく、以前か
らワーファリンのコントロールがよく大出血などの合併症もない患者さんがご高
齢になっても継続されている可能性があるかと思います。一方、DOACを使われて
いる患者さんのうち多くは低用量でした。2020年の1月には観察期間が終了し、
オリンピックイヤー以降多くの結果が報告されると思います。


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       最新の診断治療 12      
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インプラント義歯(歯科インプラント治療)について

                     口腔外科科長 有家 巧

 当科では口腔癌等で顎骨を切除したのちに、腓骨や肩甲骨などご自身の骨を用
いて顎の形を元に戻す顎骨再建術を形成外科の協力を得て施行しています。その
際喪失した歯は義歯で補いますが、支えの無くなった所に義歯を入れても、十分
に噛めません。一般に齲歯、外傷や歯周組織炎で歯を失った場合、自費診療で人
工歯根による歯科インプラント治療が行われることがあります。自費診療のため
1歯につき十数万から数十万円と費用は高額です。
以前は先進医療として限られた施設でのみ歯科インプラント治療が保険治療とし
てその費用の一部が認められていましたが、平成24年4月の診療報酬改定で保険
導入されました。ただし歯科インプラント治療を保険で適応するには症例が限ら
れています。腫瘍、顎骨骨髄炎、外傷等により、広範囲な顎骨欠損又は歯槽骨欠
損症例(歯周疾患および加齢による歯槽骨吸収は除く。)若しくはこれらが骨移
植等により再建された症例であることです。なお、欠損範囲については、上顎に
あっては、連続した1/3顎程度以上の顎骨欠損症例若しくは上顎洞又は鼻腔への
交通が認められる顎骨欠損症例であり、下顎にあっては、連続した1/3顎程度以
上の歯槽骨欠損(歯周疾患および加齢による歯槽骨吸収は除く)又は下顎骨を区
域で切除した顎骨欠損であることとなっています。すなわち病気やけがで顎の骨
を広い範囲で失った場合に適応されるとご理解下さい。

この歯科インプラント治療ができる施設基準を下記に示します。
1)歯科又は歯科口腔外科を標榜している保険医療機関であること
2)当該診療科に係る5年以上の経験および当該療養の3年以上の経験を有する
  常勤の歯科医師が2名以上配置されていること
3)病院であること
4)当直体制が整備されていること
5)医療機器保守管理及び医薬品に係る安全確保のための体制が整備されている
  ことです。

「病院」というのは「ベッド数20床以上を保有する入院施設」と定義されており
ます。したがって一般の歯科医院の場合はそのほとんどが「診療所」であって
「病院」ではありませんので、いくら経験豊富で腕が確かな先生でも保険診療で
歯科インプラント治療は行えません。
当科では一般的な歯科治療および歯科インプラント治療は行っておりませんが、
術後の咀嚼機能の回復のために広範囲顎骨支持型装置(歯科インプラント)を導
入しています。上記のように適応が限られていますが、手術後の咀嚼障害が残存
している場合にはご相談ください。


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       最新の診断治療 13    
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病理診断について                    
                     病理診断科 臨床検査診断部長
                     眞能 正幸

  病理診断科で、病理診断業務に従事している眞能正幸です。
私共は、直接、患者さんを診察したり治療をしたりはしていませんが、臨床医、
特に腫瘍を扱う診療科にとっては、なくてはならない存在だと自負しています。
 病理診断とはいったいどんなことなのかご存じない方も多いと思います。
日本病理学会のホームページをご覧いただくと、病理診断について、以下のよう
に記載されています。

(引用開始)
患者さんが病院に来院されると、適切な治療のために適切な診断が必要になりま
す。「病理診断」は最終診断として大きな役割を果たします。患者さんの体より
採取された病変の組織や細胞から顕微鏡用のガラス標本がつくられます。この標
本を顕微鏡で観察して診断するのが病理診断です。そして、この病理診断を専門
とする医師が病理医です。

病理診断には以下のようなものがあります。
・ 細胞診断
・ 生検組織診断
・ 手術で摘出された臓器・組織の診断
・ 手術中の迅速診断
・ 病理解剖

病理診断は主治医に報告され、治療に生かされます。病院に病理医がいることは、
より良質の医療を提供することにつながります。
※病理診断は、医師免許が必要な"医行為"です。日本病理学会は、実地試験による
「病理専門医」および「口腔病理専門医」の認定を毎年行っています。
(引用終了)

 簡単に申し上げると、臨床医に治療法の選択根拠になるよう、腫瘍の性質を良い
ものなのか悪いものなのかを判断する、また、手術などで腫瘍を取った際に、取り
切れているかどうかや、術後の治療方針を立てるのに有用な情報を提供するのが病
理診断なのです。
上記のとおり、病理診断は、病理専門医が行うのが望ましいのですが、2018年9月
10日現在の病理専門医数は2483名で、不足状態にあります。
幸いにして当センターでは、常勤病理専門医3名と、非常勤病理専門医6名の合計
9名の病理専門医が、病理診断業務に従事しており、すべての診療科から出される
組織や細胞の病理診断を適切に行っています。
 厚生労働省では、病理医不足に対応するため、保健医療分野におけるICT活用推
進懇談会提言書の中で、AI(人工知能)を用いた病理診断の技術を確立すると提
言しています。現在、数施設で、実際に開発が進んでおり、先日も、オリンパスの
2018年9月3日のニュースリリースで、“オリンパスが独自開発したディープラー
ニング技術を使用、呉医療センター・中国がんセンターとAI病理診断支援ソフトウ
ェアを共同研究、臨床現場における病理医の負担軽減に期待”との見出しで、「胃生
検材料を用いたAI病理診断支援ソフトウェア」の開発に取り組んでいることを発表
しました。
 今後そう遠くない未来には、病理診断をコンピュータが行い、病理医はそれをチ
ェックするという時代になっていくようです。


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       「臨床検査における精度管理とは」      
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                        臨床検査科 臨床検査技師長
                        佐野 隆宏

 臨床検査は血液をはじめとして、髄液、尿、便などを分析し、その中に含まれる
様々な物質を検出・測定したり、細胞レベルでの形態変化を捉え腫瘍細胞を見つけ
たり、遺伝子解析やゲノム分析など生体試料を用いる検体検査と、心電図や脳波の
ような生体中の微弱な電気信号を捕えたり、超音波を当てて臓器の形や密度などを
知る生理検査の2つに大別できます。今回はこの検体検査分野における精度管理に
ついてお話しします。

 臨床医の先生方が処置や治療を行う際には、根拠となる検査を依頼し、その結果
から治療法や薬の量などの判断を下します。もし、その検査結果が真値から大きく
ズレていれば、診断を誤ったり、適切な処置が行えなくなったりする可能性が高ま
ります。つまり、検査報告値は常に真値を含む近似値でなければなりません。この
検査結果の精度を担保するための作業が精度管理です。
例えば血液中の血糖値をある分析装置を用いて測定した時の測定値は、機器の正確
度と精密度に左右されます。正確度とは「真値」にどの程度近いかを示す尺度であ
り、精密度とは同じ条件で複数回の測定をした時の結果のばらつきの小ささの尺度
を示します。今、血糖の真値が100mg/dLだった時に5回測定した際の値が96〜104
mg/dLとなった場合、いずれも真値には近いがバラツキが大きく、この装置の正確度
は高いが精度が良くないとなります。85〜87mg/dLとなった場合は、真値から離れ
ていて正確度は低いが、値が収束していることから精密度は高いと言うことになり
ます。
真値は、この正確度、精密度が共に高い状態にある分析装置で測定した時に得られ
ます。そこで我々臨床検査技師は日々、機器の正確度と精密度を維持する為に、
「精度管理」という作業を行ないます。これは主としてヒト由来の管理血清という
各測定対象成分濃度が判っている試料を測定して、機器の状態を常に把握するため
の作業です。正確度が下がってきた(真値から外れる)場合はキャリブレータ(校正
用試薬)を用いて校正作業を行ないます。精密度が低下してきた場合は清掃や部品
交換などのメンテナンスを行ないます。勿論、検査結果を左右する要因は他にも沢
山ありますが、我々は日々この精度管理を行なって、検査データの精度保証に努め
ています。

 これまで様々な医療機関や検査委託機関における「検体検査の品質、精度管理の
基準」については明確な規定はなく、各施設・機関に任されていましたが、昨年6
月に「医療法の一部を改正する法案」が参議院を通過し、この中で「検体検査の精
度の確保に関する事項」が明文化されました。本法は、本年12月1日より施行され
るため、検査を実施する全ての医療機関において検査責任者を明確化し、その作業
手順や記録(日誌、試薬管理簿等)を文書として管理する義務が発生します。また併
せて、医師会や臨床衛生検査技師会などの外部機関が主催する精度管理調査への参
加義務も明示されました。
 当院、臨床検査科では改正医療法でも推奨されている臨床検査室の国際規格「ISO
 15189」を2014年11月に取得しており、既に今回の法改正に伴う精度確保の事項
については、全てクリアしております。今後も高い検査精度を維持し、患者さんや
臨床へのサービス向上に努めて参ります。


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      看 護 の こ こ ろ        
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					 西6階病棟 副看護師長
                       齋藤 さえ子

 秋風が心地よく、虫の合唱が賑やかな季節となってまいりましたが、皆様いかが
お過ごしでしょうか。朝夕は冷えてまいりましたので、お体には気をつけてお過ご
しください。

 私は2年前の4月から、小児科・整形外科で勤務しています。今回病棟で担当さ
せていただいた患者さんとご家族との関わりを通し感じた、自分の大切にしている
看護についてお話したいと思います。
 担当させていただいた患者さんは認知症があり、自宅で妻と長男と生活されてい
ましたが、階段で転倒し骨折をしたため入院されました。入院当初、骨折部の痛み
と環境の変化から興奮状態であり、点滴を抜去したり大きな声を出しておられたた
め、患者さんの安全を守るため身体抑制をし、治療に臨めるようにしました。しか
し、担当看護師として患者さんの安全を守ることも大切ですが、何に対し苦痛や不
快に思っているのかを知り、少しでも取り除くための援助が必要であると感じまし
た。そこで患者さんの苦痛や不快に思っていることを知るためにコミュニケーショ
ンをとろうとしましたが、脳梗塞の既往があり会話は困難でした。しかし骨折側の
足を触った時や、オムツ内に失禁した時に、苦痛様の表情や自分の名前を言ってお
られました。初めはなぜ名前を言われているのか理解できませんでしたが、何度か
関わるうちに苦痛や不快を表現されているのだと理解できました。その後は、患者
さんの思いをくみ取り、痛みの軽減への援助や、適切なタイミングにオムツ交換を
すると穏やかな表情で過ごされていました。また、これからすることをわかりやす
く説明すると、大きな声を出さずにケアを受け入れておられたため、スタッフ全員
で統一した関わりができるようにしました。
また、キーパーソンである妻に、患者さんがこれまでどんな生活をされていたのか、
これからどんな生活を望まれているのかを知るために、面会の度にコミュニケーシ
ョンをとりました。患者さんは右半身麻痺がありましたが、杖歩行をしデイケアな
どの社会資源を活用しながら生活されていたことや、自宅では大きな声を出すこと
がなく温厚であったこと、今後患者さんが歩けるようになったらまた自宅で一緒に
暮らしたいという思いを話されました。得た情報から、患者さんが見える位置に好
きな絵を飾ると笑顔になることがありました。また、よく童謡を歌っておられ、一
緒に歌うことで穏やかに過ごすことができました。患者さんのこれまでの生活や関
わり方を知り、入院中もできるだけ同様の関わりをすることで、患者さんが安心し
て生活できることにつながったと思います。
会話が困難な患者さんにとって、表情や行動には色々な思いがあり、それが何を意
味しているのか理解し、患者さんの思いをくみ取り、援助につなげていくことが大
切であると思います。これからも、日々患者さんやご家族とのコミュニケーション
や関わりを大切にし、患者さんやご家族の思いから、望む援助は何か、常にスタッ
フと考える機会を持ち、一人一人に合わせた看護につなげていきたいと思います。

 最後になりましたが、夏バテは秋にも出ると申しますのでお気をつけ下さい。


ホームページ→http://www.onh.go.jp/kango/kokuritu.html


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          研 修 医 日 記
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                     研修医2年目 清木 祐介 
 
 はじめまして。初期研修医2年目の清木祐介と申します。2年目も半分が過ぎ、
必修科のローテもほとんど終わった今この病院にもずいぶん慣れてきたと感じて
います。1年半の研修を通じて、この日記を見てくださっている方々に大阪医療
センターでの研修の魅力を綴ろうと思います。
 この病院は600床以上もある大規模な市中病院であり、一般的な診療科はほと
んど揃っています。なので、研修が終わるころには内科、外科の一般的な知識、
手技は全て獲得することができ、上級医の先生方も皆指導熱心なので、希望すれ
ば各科でそれ以上の高度な手技も学ぶことができます。また、夜間休日の救急外
来は初期研修医2人が主体となって動くので、問診、診察から採血、画像検査の
解釈まで一通り自身の判断で行うことができ、救急疾患の初期対応が学べます。
また、様々な背景を持った初診の患者さんを見る機会も多く、社会的な事情など
も考慮した高度な対応を学ぶことができます。このように、大病院の欠点として
挙げられがちな、一人当たりの経験の少なさを感じることはなく、むしろ豊富な
経験をすることができたと感じています。また、先生方も穏やかで優しい人が多
く、その科のローテ中以外でも、共観している患者さんの事などを電話で気軽に
相談したりできる環境です。仲よくなれば、ご飯や飲みに行ったりすることもよ
くあります。
1年半が過ぎた今、この病院で研修することができて本当によかったと感じてい
ます。病院の雰囲気を感じ取るためにも、ぜひ一度見学に来てみてください!

臨床研修のホームページ→http://www.onh.go.jp/kensyu/index.html


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総編集長:病院長 是恒之宏
編 集 長:副院長 関本貢嗣、上松正朗
     看護部長 伊藤文代 
編   集:百崎実花
発  行:独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター院長室
         (〒540-0006 大阪市中央区法円坂2-1-14)
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ずいぶん涼しくなってきました。夏の記録的猛暑が遠い昔のように感じます。
皆様、体調管理にご注意下さい。

メールマガジンのご感想をお聞かせ下さい。
www-adm@onh.go.jp

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