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メールマガジン「法円坂」No.245 (2021/9/16)(独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター)



 オリンピック、パラリンピックが終了しました。思えばこの夏の楽しみは、テ
レビで熱戦を観賞することでした。極限まで追い詰めた人々の活躍は、感動をよ
び明日の活力となりますね。それでは、今月のメルマガをどうぞ。
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   メールマガジン「法円坂」No.245 (2021/9/16)
          (独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター)
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今月号の目次
 ・院 長  松村 泰志 
 ・肝臓の話 −ウイルス性肝炎から脂肪肝・脂肪性肝炎−
 ・お  さ  え  た  い  ツ  ボ
 ・看 護 の こ こ ろ
 ・研 修 医 日 記

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         院 長  松村 泰志  パラリンピックを観戦して        
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 9月5日、東京2020パラリンピックも無事終えました。コロナ禍の厳しい状況の
中、運営を担当された方々は大変だったと思います。オリンピックをこの時期に
開催することについて賛否両論ありましたが、やはり日本の国としての面子がか
かっており、無観客であれ開催でき、無事終えることができたことは良かったと
思います。
 パラリンピックでは、オリンピックと違う感動がありました。テレビでは、選
手のこれまでの人生が紹介されていました。生まれた時から障がいを持つ人、あ
る日突然の事故で障がいを持つことになった人など、様々な経緯がありました。
それぞれに苦労があり、気持ちが沈んでいた時期がありながら、障がいがあるこ
とを受入れて、自分の身体を最大限に生かして挑戦することで、輝きを放たれて
いました。
 テレビで、競技が始まる前に山田美幸選手のことが紹介されていました。山田
選手を見て、正直驚きました。両腕がなく、片足も不自由で、この体で背泳ぎを
するとのこと。背泳ぎは、腕をぐるぐる回して、足をバタバタさせて泳ぐものだ
と思っていましたので、この体で、どうして泳げるのだろうかと疑問でした。テ
レビでは、山田選手自身が、どのようにして泳ぐのかを一生懸命説明していまし
たが、半信半疑でした。ところが、競技で泳いでいる姿を見ると、他の腕をぐる
ぐる回して泳いでいる選手よりも速く、けっこうなスピードで泳いでおられ、つ
いに銀メダルを獲得されました。その時のコメントでは、金メダルが取れなかっ
たので悔しいと...その挑戦者としての力強さに圧倒されました。
 パラリンピックの選手がメダルを取った後の会見で、パラリンピックで競技が
できることに感謝していますとのコメントを残す人が多くおられました。パラリ
ンピックの起源は、第二次世界大戦後にイギリスのグッドマンさんが脊髄損傷の
患者さんの治療にスポーツを取り入れたことが始まりとのことです。日本では、
整形外科医の中村裕先生が、イギリスに留学してその様子を見て、是非、日本で
も取り入れないといけないと強く思い、その普及に情熱的に取り組まれました。
そのご苦労の様子をテレビのドキュメンタリーで放送されていたのを記憶してい
ます。中村先生は、1964年の東京オリンピックで、第二回パラリンピックを開催
することに尽力されました。パラリンピックの選手達は、こうした先人達、また、
今の運営者の人達に、感謝しておられるのだと思います。
 考えてみると、私達は、それぞれに活躍する場があり、その中でがんばってい
るのですが、その場があることに感謝する人は多くはないように思います。私達
医療者の場合でも、医療の制度、医療保険の体制が作られ、それぞれの病院が作
られたことで、はじめて医療を提供することができます。日本にいるとあたり前
に思っていますが、海外から見ると、恵まれた状況です。日本の医療体制も、多
くの先人達が大変な努力をして作り上げてこられたものです。私達も、パラリン
ピックの選手のように、まずは、自分達が活躍できる場があることに感謝し、山
田選手のように、自分にある能力を最大限に生かす工夫をして、努力を積み重ね
て成果を挙げていくことで、職業人として輝きを放つことができるのだと思いま
す。

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     肝臓の話 −ウイルス性肝炎から脂肪肝・脂肪性肝炎−      
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                                                   消化器内科 科長
                                石田 永

 消化器内科は消化管、肝臓、胆嚢、膵臓といった臓器を診療の対象としていま
すが、今回は肝臓病の話をいたします。肝臓病が見つかるのは主に血液検査であ
り、健康診断やかかりつけ医での検査でAST(GOT)やALT(GPT)の異常を指摘さ
れるケースであろうと思われます。一過性ですぐ正常に戻れば良いのですが、長
期に異常が持続する間に徐々に肝臓が悪化していき、肝硬変へと進行していくこ
とがあります。そのため、詳しい検査をして、原因を明らかにし、必要であれば
治療をすることになります。
 そのような肝臓病の代表的なものはウイルス性肝炎(B型肝炎、C型肝炎)です。
C型肝炎は、昨年その原因となるC型肝炎ウイルスを発見した3人の研究者がノー
ベル生理学・医学賞に輝いたことでも話題になりました。ここ数年で副作用の極
めて少ない経口薬が登場し、100%近くが治療成功(=ウイルスの消滅)できるよ
うになりました。一方、B型肝炎ウイルスは現時点で消滅させることのできる薬
は存在しないのですが、それでもほぼ完全に押さえ込める経口薬があり、継続し
て内服している限りは肝臓が悪化することは食い止めることができます。このよ
うに、かつては治療に難渋していたウイルス性肝炎は克服できつつあると言って
も良いでしょう。
 一方で、近年増え続けている肝臓病が脂肪肝です。肥満と関連しており、メタ
ボリック症候群の一病型といえるものです。体重が増えると皮下脂肪だけでなく、
内臓にも脂肪がたまります。肝臓に脂肪がたまった状態が脂肪肝で、極端な例と
して「フォアグラ」といえば想像しやすいかも知れません。脂肪肝も強くなって
くると肝臓で炎症が起こってきます。それを脂肪性肝炎といい、ASTやALTが異常
値を示すようになります。脂肪性肝炎になると、ウイルス性肝炎と同様に、長期
経過で肝硬変、肝癌に進行しうるとされ、この脂肪性肝炎に起因する肝細胞癌が
年々増えてきているのです。脂肪肝・脂肪性肝炎の治療は体重管理が基本となり
ます。肥満は肝臓だけではなく、様々な内臓疾患のリスクで有り、適正な体重を
維持することが健康で長生きの秘訣とも言えるのです。

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                 おさえたいツボ    
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                            放射線診断科医長
                                                              井上 敦夫

 令和3年4月に、放射線診断科医長を拝命しました井上敦夫です。
スマホを持つことが標準になりつつある現在、大量の情報が急速に広がり、錯綜
する世の中になりました。正しい情報、誤った情報をいかに素早く判別するか、
つまり情報判断能力が問われる時代です。
 放射線診断科の仕事も同様です。CT、MRI等の大量の画像がサーバ−に転送さ
れ、モニター上で読影しますが、一人の患者で1000枚以上の画像の場合もありま
す。大量の画像をきちんと読影するのは至難の業です。そこでまず何をするか。
それぞれの患者に必要な撮像方法を決め、情報量が過多にならない設定を行いま
す。「必要な時しか大量の画像を作らない」。これは検査時間の短縮、CTにおけ
る被ばく線量の低減とも関係します。情報を作る時に、不必要な情報を混ぜない
ことも重要になります。研修医の時に上司から言われた言葉があります。「検査
する時に勝負が決まるんだよ!」。呼吸が止まってない画像、金属のアーチファ
クトだらけの画像、造影剤の至適注入がされてない画像。検査終了後、サ−バ−
に転送されてからでは、読影でリカバリーできません。質の高い情報は、検査の
現場でしか作れないのです。
 日々、画像診断をしていると、大量の情報から現実逃避したくなるのか、まだ
ガラケーを使用しています。情報の取捨選択は、永遠のテーマです。
                                    
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            看 護 の こ こ ろ        
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                                東11階 副看護師長
                                                            太田 寛恵
                                                         
 まだまだ暑さの残る昨今ですが、皆様におかれましてはいかがお過ごしでしょ
うか。7月には東京オリンピックが開催され、コロナ渦ではありますが日本代表
の選手の方々が世界を舞台に活躍する姿には感動を覚えました。なかなか思うよ
うに外出はできず、運動不足になりがちですが、心身の健康のためにも体を動か
してリフレッシュしたいなあと思う今日この頃です。
 私は、脳卒中内科病棟の東11階に配属され3年目を迎えました。また、認知症
看護認定看護師として、認知症のために入院生活を安心して過ごすことに困難さ
を抱えている患者さんの手助けができるよう、多職種でチームを組み、院内を組
織横断的に活動しています。
 Aさんは90歳代の男性で、2013年にS状結腸がんの手術のため、ダブルストーマ
(排尿、排便ともにストーマ(人工肛門)からの排泄となる)を造設し、以後、
ストーマの手入れを含めて身の回りのことはすべて自分で行われていました。し
かし、家族から見て最近物忘れが目立つ印象があり、ストーマ管理が自身では難
しくなっていたようでした。足腰も弱り、外出は難しくなっていましたが、屋内
はつたい歩きで移動ができ、食事や入浴も自身でされていたので介護認定は未申
請であり、在宅介護サービスは受けられていませんでした。ある日、左手の動か
しにくさが出現し、翌日になっても改善しないために当院を受診され、右放線冠
ラクナ梗塞の診断でSCU(脳卒中ケアユニット)へ入院となりました。入院後に
せん妄を発症し、入院している必要性の理解が難しく、急に家とは違うどこか違
う場所に連れて来られてしまったと思い、イライラして看護やリハビリへの抵抗
を示すようになりました。集中治療が必要な重症の場合にせん妄が発症すると、
安全に治療が受けられなくなってしまうために、薬剤を使用して「鎮静」をかけ
る場合があります。しかし、Aさんは元々足腰が弱っていたうえに左上下肢に軽
度の麻痺が残存しており、積極的にリハビリを行わないと元の生活に帰れなくな
ってしまう可能性がありました。そこで私は、Aさんのリハビリがきちんとすす
み、かつ不安な気持ちを増強させずに安心して過ごせることを目標にしました。
担当看護師へは、Aさんが怒っている時にどんな気持ちになっているか想像し、
どのようなコミュニケーションやケアを行えばよいのか自分達で考えられるよう
に認定看護師として関わりました。また、Aさんの混乱した会話の中から、Aさん
が大事に思っていることのヒントを得て、みんなで共有できるようにしました。
医師へは、過鎮静にならないように薬剤の微調整をお願いしました。そしてAさ
んは次第に落ち着き、リハビリにも取り組めるようになって自宅退院が可能なま
でに回復されました。
 今回の経験では、急性期から回復期へ移行する中で、患者さんのせん妄の要因
を多職種で共有してケアにあたることの大切さを改めて学び、チーム一丸となっ
て取り組んだ結果、患者さんが回復した時の達成感や看護のやりがいを感じるこ
とができました。この経験を今後の看護にも活かして行きたいと考えます。
 最後になりましたが、残暑の折り、くれぐれもご自愛ください。
 
ホームページ→https://osaka.hosp.go.jp/kango/index.html

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             研 修 医 日 記
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                             初期研修医 2年
                               小川 和也

 初期研修医2年目の小川と申します。研修生活1年間で感じた当院の特徴を記載
しますので、当院での研修を考えておられる方に少しでも参考になれば幸いです。

 まず、当院は686床の大規模な医療センターであり、高度・急性期医療を提供し
ていることが大きな特徴です。様々な救急疾患を診断から治療まで経験できるこ
とは大きなメリットだと感じます。小規模〜中規模の病院であれば他院へと転院
搬送となる症例でも、当院では多くの場合に自施設で治療できます。脳梗塞の血
管内治療、心筋梗塞のPCI、吐血に対して緊急の内視鏡処置や、外科での緊急手術、
交通事故などの3次救急と幅広い症例に対応できる病院は意外と多くないです。
臨床研究にも熱心に取り組んでおり、古い建物の見かけによらず最先端の医療を
経験できます。

 また、病院の規模が大きいため、研修医の人数も多いです。研修医は2学年で
30人程度おり、皆で仲良くわいわい過ごしています。ただ、人数が多い分、当
直回数や症例、手技を分け合うことになり経験が少なくなります。COVID-19流行
の影響で入院患者や救急外来の症例が減っているため、物足りなく感じる部分も
多いです。

 これ以外にも研修先として良い面悪い面ありますが、ここで全て伝えきること
は難しいので、是非見学に来て自分の目で確かめてみて下さい。研修医室では勉
強したことを同期と話し合ったり、テレビを見ながらおしゃべりしたりと自由な
雰囲気が流れています。そんな自由で和気あいあいした雰囲気を感じることがで
きると思います。
                                                              
臨床研修のホームページ→
https://osaka.hosp.go.jp/kyujin/syokikensyu/nikki/index.html

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総編集長:病院長 松村 泰志
編 集 長:副院長 三田英治 平尾素宏
     看護部長 西本京子 
編   集:池永祐子
発  行:独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター院長室
         (〒540-0006 大阪市中央区法円坂2-1-14)
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 今月のメルマガいかがでしたでしょうか?
少し暑さが和らぎ良い季節となりました。自粛の日々が未だ続いていますが、秋
の夜長に虫の声を楽しんでみてはどうでしょうか?

408-osaka@mail.hosp.go.jp


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