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メールマガジン「法円坂」No.287 (2025/3/19)(独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター)
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寒い冬を越え、ようやく春の足音が近づいてきました。春は、自然が目覚め、
すべてが新たに息を吹き返す季節です。心機一転、新たな気持ちで新年度を迎え
る前に、今年度最後のメルマガをお楽しみください。
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メールマガジン「法円坂」No.287 (2025/3/19)
(独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター)
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今月号の目次
・院 長 松 村 泰 志
・魅惑の日本酒とその底力
・臨床研究コーディネーターという仕事
・看 護 の こ こ ろ
・研 修 医 日 記
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院長 松村 泰志 保健医療概論の教科書
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私は看護学校の校長を併任しています。私が着任する前から、病院幹部が保健
医療概論の授業を担当しており、私が校長になってからも継続しています。教員
から教科書は変えなくて良いでしょうかと相談がありました。これまで使ってい
た教科書の内容が古いように感じていましたので調べてみますと、著者の先生は
既に亡くなられていました。変える方が良いと思い候補の教科書を探したところ、
その中に現在東大の臨床疫学の教授である康永秀生先生が書かれたものがありま
した。私は大学時代に、臨床疫学を学生に教える必要性を感じ、生物統計の先生
と共同で臨床疫学統計の講座を作り講義をしていました。ですので、康永先生の
講演を何度か拝聴し、一緒にシンポジウムの演者になったこともありましたので、
康永先生のことは良く知っていました。康永先生は私より10才ほど若い先生で、
きわめて聡明な先生との印象で、お話しも上手でした。康永先生が書かれた本で
あれば優れたものに違いないと思いましたので、これを当学の教科書にすること
としました。
看護学校の教育はなかなか難しいものがあります。3年の短期間で、一般の学
生を教育して、いっぱしの医療者に育て上げなければなりません。無意味な講義
をしている余地はありません。幸い真面目な学生が多いですから、ちゃんと教え
ればしっかり吸収してくれるような気がします。
さて、保健医療概論で、いったい何を教えるのか疑問に思われると思います。
新教科書に基づきシラバスも作成し直しましたので、以下に紹介します。
1)人の生涯と医療[生命、健康、老年、終末期]
2)医療の歴史/新しい医療を生み出す方法[医療の歴史、臨床疫学とEBM]
3)医療と社会[人口構造・疾病構造、公衆衛生と保健]
4)医療の構成[医療機関の構成、医療従事者の構成、救急医療・集中治療、が
ん治療、周産期医療、放射線診断、チーム医療、リハビリテーション]
5)福祉/医療の基本姿勢[介護、医の倫理、医療安全]
6)医薬品/最先端医療[医薬品、最先端医療]
7)医療情報/医療経済学と医療政策[医療情報、医療経済学、医療政策]
私自身、医学部でこうしたことを系統的には教えてもらいませんでした。昔か
ら変わらない概念もありますが、殆どは私が卒業してから出てきた概念ですので、
医師として働きながら理解するようになったように思います。ですので、改めて
体系的に教科書としてまとめておられるのは、私としても新鮮で大変興味深く思
いました。最初の章についても、生命の尊厳、看護の心のような普遍的なことが
記載されていますが、QOL、サイトロジー、グルーフケア、健康の定義、ICF、ヘ
ルスプロモーション、ソシャルサポート、ソーシャルキャピタル、サクセスフル
エイジング、認知症、緩和ケア、リビングウィル、ACP、胃瘻の課題といった内
容で、最近出てきた重要な概念が網羅され、それぞれ端的に説明されています。
抽象的な内容が続くと読むほうは辛くなりますが、それに配慮され、コラムが沢
山掲載されています。このコラムが、心に響くような実話が多く、ついつい面白
くて読み進むことができます。期待していた以上の内容でした。
この本の最後に医療経済学と医療政策について記載されています。先月、この
メールマガジンに記載させていただきましたが、日本では医療費の問題が悩まし
く、病院経営もかなり厳しくなっています。「転換が求められる医療政策」との
項で、康永先生のお考えが、これも分かりやすく端的に記載されています。経済
学では、人になんらかの効果を与えるものを財と呼び、財には、必需財と奢侈財
に分けられます。日本では医療は必需財と考え、公的保険が適用されています。
一方差額ベッド代などは奢侈財と見なし、民間保険の対象となります。日本の総
医療費は増加する一方ですが、経済成長期には問題にならなかったものの、経済
成長が緩やかになった頃から、医療費の伸びがGDPの伸びをはるかに超えるよう
になり、社会問題となってきています。この医療費の伸びは、高齢化による医療
需要の増加と医療の高度化による増加の2つの要因がありますが、実際には、殆
どが後者とのことです。従って、2040年頃からは高齢者も減り始めますが、この
ままの制度では、おそらく伸び続けるだろうとの予測です。日本では、これまで
様々な医療費抑制策を取ってきましたが、一つで十分な効果が上がったものはあ
りません。こうした中、これから取り入れるべき考え方として費用効果分析が紹
介されていました。これを実施するためには効果を定量化する必要がありますが、
例えばED-5Dの質問票を使って生活状態に対して効用値を定め、これと生存年数
を掛けたQALYsを求め、新規治療と従来治療でQALYsの差をコストの差で割って増
分費用効果比を求め、これが、ある一定以上でなければ、新規治療を公的保険の
対象としないとする考え方です。海外では既に始まっているそうです。日本でも
導入を検討する価値がありそうです。今は、医療費の問題は、どこまでを公的保
険で賄うかは、どの国でも悩んでおり、絶対的な正解はない中で、それぞれで模
索しているところです。こうした中、康永先生がまとめられたような、基本的な
ことを押さえ、新しい手法も理解した上で、少しでも良い方法を見出し、舵を切
ることが必要と思います。
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魅惑の日本酒とその底力
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泌尿器科科長
西村 健作
学生の頃、日本酒はべっとりした悪酔いする飲み物としか思っていなかった気
がする。
それが、毎日日本酒を呑むようになったのはいつからだったのか。思い起こす
と30年以上前、大阪下町の島之内の雑居ビルにある居酒屋での日本酒との出会い
からなのだと思う。そのお酒は香り立つ芳醇なもので、神経が刺激されたことを
今でも覚えている。今、その居酒屋は職場近くの閑静な住宅街にひっそりと佇み、
名店となっている。
それからというもの、自宅の冷蔵庫には一升瓶を欠かすことがない。数年前、
冷蔵庫がついに機能しなくなった。新調する冷蔵庫の必須条件は、一升瓶を三本
以上縦に立てて保存できることである。そこで家電量販店に一升瓶の空瓶を持参
し、条件を満たす冷蔵庫が一機種しかないことを知り、もちろん購入したのです。
コロナ明けの海外旅行で一万円以上する凡庸な四号瓶をワイングラスで飲む人
を目の当たりにした。ユネスコ無形文化遺産となり、酒蔵が海外向け商品をオー
トメーションで造り、輸出しているのを知り、最近は今後の日本酒の行く末を憂
いているのです。
昨年FM大阪でラジオ番組に出演した時に与えられたお題が「一番好きな楽曲は
?」で、考えた末に用意した答えは「ベートーヴェン第九」。DJから「第九を聴
く時にはどんなお酒を?」と瞬時に切りかえされ、「まあシングルモルトですか
ね」とすかして答えた日本酒への裏切りに今も自責の念が拭えていない。でもそ
もそも日本酒に合う楽曲って何と思う自分もいるのである。
最近、年を重ねると嗜好が変わっていくことを感じるようになっている。もう
香り高い豊潤なお酒だけを枯れてきた身体が求めていないのである。土壌と米そ
のものの力を感じるお燗にして旨味が増す日本酒に惹かれるのです。
そんな日本酒を提供する居酒屋が職場から歩いて五分にあることを教えてくれ
たのは、長崎の居酒屋で知り合った東京在住の友人で、今は感謝してもしきれな
い。聞けばその居酒屋は十周年を迎えるという。なぜ今のいままで知らずにいた
のか、後悔とともに足繁く通っているのである。
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臨床研究コーディネーターという仕事
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臨床研究推進室長
森下 典子
メールマガジン「法円坂」のご愛読者の皆様、はじめまして。臨床研究推進室
長の森下と申します。臨床研究推進室は臨床研究センター1階にある部門で、医
師(併任)、看護師、薬剤師、事務員の総勢20名が働いています。
当院を受診しておられる患者さんの中には、主治医から治験や臨床研究への参
加を勧められた経験がある方がいらっしゃるのではないかと思います。ですが、
多くの患者さんにとっては治験や臨床研究という言葉はまだまだ耳馴染みのない
ものだと思います。
現在、様々な病気に対して用いる薬物療法や手術療法といった治療法が世に出
るためには、安全性や効果を確認する「治験」や「臨床研究」が必要です。「臨
床研究コーディネーター(Clinical Research Coordinator: CRC)」は、患者さ
んが安心して「治験」や「臨床研究」に参加できるようサポートする専門職です。
医師や医療スタッフと協力しながら、新しい薬や治療法の開発を支える重要な役
割を担っています。具体的には、以下のような仕事を行います(当院のCRCは現
在、治験への支援を中心に行っています)。
●患者さんへの説明と相談対応
治験の内容を分かりやすく説明します。患者さんが不安を感じることなく参
加できるよう、疑問や悩みに寄り添い、納得したうえで治験に参加できるよ
う支援します。
●治験のスケジュール管理
治験には、決められたスケジュールがあります。CRCは、患者さんが適切な
タイミングで通院できるよう調整したり、検査や診察の予定を管理したりし
ます。
●データの記録と管理
治験では、薬の効果や副作用を正確に記録することがとても重要です。CRC
は、医師や看護師と連携しながら、必要なデータを正しく記録し管理します。
●医師や医療スタッフとの橋渡し
治験に参加する患者さんの体調や不安を医師に伝えたり、医師の指示を患者
さんに分かりやすく伝えます。
<私たち、臨床研究コーディネーターが大切にしていること>
CRCは「患者さんが安心して、ご自身の意思で治験に参加できるようサポート
すること」を何よりも大切にしています。新しい薬や治療法の開発は、患者さん
の協力があってこそ成り立ちます。治験や臨床研究が安全に進められ、患者さん
が不安を感じないよう、寄り添いながら支えることがCRCの使命です。
将来、治験や臨床研究を勧められた時にはCRCのことを思い出し、気軽にご相
談いただけると嬉しいです。
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看護のこころ
「患者さんと共にある伴走者として」
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HIV地域医療支援室看護連携係
副看護師長 東 政美
春の訪れを身近に感じる季節となりましたが、皆さんいかがお過ごしでしょか
?この季節は、卒園・卒業を迎える人、そして新たな門出を迎える人、4月から
新年度として1年の始まりを迎える人、様々な人々の変化となる時期でもあるの
ではないかと思います。
私は、外来でHIV陽性者の支援に携わっています。看護師になってからの年数
はすでに生きてきた年数の2/3近くになり、HIV陽性者の支援に携わっている年
数は、私の看護師人生の半分以上を占める時を経てきたことを改めて認識すると、
我ながら少々驚きを隠せません。その間の患者さんとの関わりにおいては、良い
思い出や苦い思い出、時には苦しく、寂しく感じる思い出など、様々な経験をさ
せていただく貴重な時間だったと思っています。
私が携わっているHIV感染症という病気は、日本においてエイズパニックを引
き起こしていた時代、薬害エイズ被害が起こり、当時は“死の病”と言われてい
ました。そして、薬害HIV被害患者さんに対しては、恒久対策のもと、当院も近
畿ブロック拠点病院として医療を提供する役割を担い、HIV感染患者さんへの医
療と必要な支援の提供をしてきました。近年では、治療の進歩は目ざましく、
HIV感染症はコントロール可能な慢性疾患となり、生命予後も感染していない人
と同じくらいまで改善した一方で、新たに高齢化や併存・合併疾患による治療の
複雑さという課題もでてきました。
また、HIV感染症については、感染性疾患であることや感染経路に関すること
などから、現在においても疾患の理解が十分に得られず、偏見や差別が残存して
いる問題もあります。HIV感染患者さんは、慢性疾患として長期的な療養を続け
る中では、病名を打ち明けた際の相手の反応への不安から病名を打ち明けられず、
また周囲へ病気を知られることへの不安など、人との関係を築くこと、本来の自
分を出せずに他者との関係に消極的になる人、仕事や学業などの社会生活と療養
の両立を維持することの難しさなど、様々な苦悩を抱えながら過ごされている患
者さんもいます。それでも、何とか病気と生活に折り合いをつけながら生きてい
こうとしている患者さんに、時には叱咤激励し、そして時には労い、時には共に
悩みながら、私は患者さんに寄り添い支援を続けています。
治療は、どんどん進歩して治療環境は変化していきますが、患者さんの抱える
思いや苦悩、困り事など支援が必要な状況は変わりません。それぞれの状況に応
じて、患者さんと共に考え、支援をしていきたいと考えます。私は、これからも
患者さんの病気を持ち療養をしながら“生きる”を支える伴走者として息長く頑
張っていきたいと思います。
それでは、季節の変わり目ですので、体調など崩されませんようお健やかにお
過ごしください。
ホームページ→https://osaka.hosp.go.jp/kango/index.html
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研 修 医 日 記
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研修医2年目
渡邉 久遠
皆さん、初めまして。研修医2年目の渡邉久遠と申します。恐れ多いですが、私
が今年度の研修医日記の締めを担当させていただきます。含蓄のある話をするの
は苦手ですので、気軽に読んでいただければ幸いです。
他の研修医の日記を読んでいると、当院の素晴らしい点をいくつも挙げていただ
いていたので、自分も便乗して、当院の誇るべきところを挙げていこうと思いま
す。まず、第一に病院の近くに居酒屋が多くあるところです。やはり仕事をして
いるとストレスがたまり、`飲まなきゃやってられない時`があります。そういう
状況に陥ってしまった場合に、近くにバラエティーに富んだ居酒屋たちが軒を連
ねていますので、店選びに苦労せず、ストレス発散(飲酒)することができます。
数ある居酒屋の中でも特に、蕎麦屋がおいしかったです。皆さん、信じられます
か?蕎麦屋なのにお酒が飲めるのです。このように当院を研修先にすれば、スト
レスフリーで仕事に集中できること間違いなしです。私は来年度以降も当院で後
期研修を受ける予定ですので、来年度以降当院に就職される予定の方たちは、一
緒に飲みにでも行きましょう。
仕事の面でも、当院は素晴らしい点がいくつもあります。診療科が数多く揃って
いるため、2年間の研修で様々な経験をすることができます。CVや腰椎穿刺など
研修医の間に習得すべき手技を一通り経験することができました。救急外来での
初期対応力もこの2年間で培うことができました。そういう意味でも私は当院を
研修先にして本当に良かったと思っております。
最後になりますが、私がこのように充実した2年間を過ごせたのはひとえに当院
の先生方の支援や協力があったからだと思っております。ご迷惑をお掛けしたこ
とも多々あったかと思いますが、2年間ご指導ありがとうございました。来年度
以降は血液内科のレジデントとして働きますので、皆様方のお力になれるように
精進していこうと思います。
臨床研修のホームページ→
https://osaka.hosp.go.jp/kyujin/syokikensyu/nikki/index.html
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総編集長:院長 松村 泰志
編 集 長:副院長 平尾 素宏 渋谷 博美
看護部長 水戸 祥江
編 集:池永 祐子
発 行:独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター院長室
(〒540-0006 大阪市中央区法円坂2-1-14)
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今年度最後のメルマガはいかがだったでしょうか。春の訪れと共に、別れの季
節がやってきます。仲間との別れは寂しいものですが、新しい門出を迎える方々
に、心からの感謝とエールを送りたいと思います。令和7年度も皆さまが充実し
た毎日を送られることを願っています。
408-osaka@mail.hosp.go.jp
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