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メールマガジン「法円坂」No.288 (2025/4/21)(独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター)




 春らしい風を感じる頃となりました。
新しい環境でスタートされている方も多いのではないでしょうか?
ほっと一息、4月のメルマガをお読みください。

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   メールマガジン「法円坂」No.288 (2025/4/21)
          (独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター)
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今月号の目次
 ・院  長  松  村 泰  志
 ・口腔外科 吉本です。この度、異動いたします
 ・就 任 の ご 挨 拶 
 ・看 護 の こ こ ろ
 ・研 修 医 日 記

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       院長  松村 泰志     Personal Health Recordについて
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 新年度となり、春らしい日々となりました。先週は近畿グループ内の3つの看
護学校の入学式に参加してきました。今年は桜の開花が少し遅れ、それぞれの入
学式の日に丁度満開となり、新入生の門出を祝ってくれていました。特に姫路で
は、お城の前の公園に並んだ桜が一斉に咲きほこり、白鷺城と合わさって日本ら
しい美しい景観を作り出していたのがとても印象的でした。
 今週末の4月19日の内科学会総会のシンポジウムで発表する機会を頂きました
ので、先週末から、その準備に取り掛かっています。発表だけでなく論文も同時
に提出しなければならないので、なかなか大変です。今は頭の中が発表内容でい
っぱいですので、今月の記事は、その内容をご紹介させていただきます。
 シンポジウムのテーマは「医療Dxの現状と課題」です。Dxとはデジタルトラン
スフォメーションのことで、ICT(情報通信技術)を使って抜本的な改革をする
との意味となります。Dxは、今は流行り言葉となっており、これまでのICT導入
と違うようには思わないのですが、何かと行き詰まりを感じる世の中で、抜本的
な改革を期待している世情がDxを流行り言葉にしているように感じます。
 私はPersonal Health Record(PHR)についてお話しします。私が大学時代の
後半に取り組んでいたテーマです。私がシステムデザインをし、三井住友銀行が
運営主体でNECがシステム開発を担当し、今も継続しているプロジェクトです。
 私はかつて紙に記録されていた診療記録をどのようにしてデジタル化し、電子
カルテにするのかの課題に取り組んでいました。阪大病院では2010年には完全ペ
ーパレス化ができました。この時点では海外に遅れはとっていませんでしたが、
まだ、道半ばの状況でした。世界が目指しているのはElectronic Health Record
(EHR)です。EHRは、医療機関を超えて医療記録をプラットフォームで管理する
仕組みで、各医療機関の医療記録のコピーをここに送り、患者の診療に関わる医
療機関が医療情報を共有するものです。患者さんが自分の医療記録を閲覧する機
能をPHRと呼び、自宅での症状、体重や血圧等の日々計測データをここに記録す
ることもでき、この情報を治療医と共有することも可能とするものです。EHR/PHR
の実現において、日本は海外に大きく後れをとってしまいました。
 日本でも、1人の患者さんに複数の医療機関や福祉サービスが関わります。し
かし現状では、医療記録はそれぞれの施設内にしかなく、共有されません。また、
慢性疾患の場合、生涯の記録がありません。若くして糖尿病を発症した場合、多
くは生涯糖尿病とお付き合いすることになりますが、その間に転居することがあ
りますと、医療機関も変わることになります。これを繰り返すと、現在の主治医
は、発症当初の状況の詳細は分からなくなります。このことは、臨床研究におい
ても難しい状況を作り出しています。本来糖尿病の治療薬は糖尿病性合併症のリ
スクを減らすものであるべきですが、今は、血糖を下げる薬を有効と判定してい
ます。どの薬が最も糖尿病性合併症のリスクを下げてくれるのかは分かりません。
EHR/PHRは、こうした問題を解決してくれます。海外のEHRは、コロナ禍で威力を
発揮しました。イスラエルではEHRが整備されているのですが、コロナのワクチ
ン接種がコロナ感染率を下げることをEHRのデータを利用していち早く評価し発
表していました。
 日本でも病院の電子カルテを外部から閲覧できるようにする原理で診療記録を
共有する仕組みを日本版EHRと称し、一定の成果を上げてきました。阪大病院で
もこのサービスを行っています。しかし、共有が地域に限定されること、人の生
涯の医療記録を管理することにはならないこと等に制限があります。コロナ禍の
際に、日本ではコロナの発症記録を紙に記録してFAXで集めていて大変な混乱が
ありました。その反省もあって、政府は医療Dxと称して電子カルテ情報共有サー
ビスを打ち出し、今年度に開始する計画をしています。是非、成功させて欲しい
と思います。ただ、現時点での計画では、共有されるのは病名、禁忌、アレルギ
ー、感染、一部の検体検査結果、処方に限定されており、患者さんの病状を理解
するのには全く不足しています。
 私の提案は、電子カルテ情報共有サービスをベースにしながら、個々の患者さ
んの病状を表す核となる情報を共有情報に加え、EHR/PHRとして運用するという
ものです。これまでの日本版EHRと区別するためにPHRと呼んでいます。これを可
能にするためには、電子カルテに、一連の入力フィーム(テンプレート)の入力
を誘導し、これへの記録が診療録になると同時に、PHRのプラットフォームにデ
ータを送り出すシステムを組み入れる必要があります。これまで、阪大病院にお
いて、既存のシステムを使いながら実施し、必要な要件を調べていましたが、目
標とすべきシステムのイメージができましたので、より広い範囲の疾患で情報が
送れるように改めてシステムを開発し、阪大病院に組み入れてテストを開始しま
した。私は、阪大時代に、電子カルテから直接疾患レジストリのための臨床デー
タをデータセンターに送信する仕組みを開発し、疾患レジストリを効率化させて
いましたが、これの機能を向上させたような仕組みとなります。テストが終われ
ば、次に新しい大阪けいさつ病院に導入してサービスを開始する予定になってい
ます。当院でもやりたいのですが、当院の電子カルテのバージョンが古く、シス
テムの組み込み費が高くなりますので、研究費が獲得できないかを探していると
ころです。遅くとも2年後には、電子カルテシステムを更新する予定ですので、
その時には、この仕組みを組み入れて、当院もPHRに参加する施設になりたいと
考えています。
 PHRが普及すれば、診療所の先生から患者さんの紹介を受ける際、当院で治療
を終えてフォローアップをお願いする際に、詳細な診療情報提供書を書かなくて
も、双方で必要な情報が閲覧できます。免疫チェックポイント阻害剤のように、
治療後後発して現れる副作用に対しても、多くの目が届きますので見逃すことな
く対応できると思います。また、高齢の患者さんの場合、お子さんが遠方におら
れ心配されているケースもありますので、患者さんのお子さんにPHRを閲覧でき
るように設定することで、日々の状態を知らせることができ、医師も家族にお願
いしやすくなり、しっかりした見守り体制ができると思います。また、介護士と
主治医が情報連携することも容易になりますから、介護士からの医師への相談、
医師から介護士への依頼もスムーズとなると思います。旅行先で倒れた場合や、
災害でいつもとは異なる医師に診てもらう際でも、その人の重要な医療情報はそ
の人のPHRにありますので、本人が見せる操作をするだけで確認できるようにな
ります。臨床研究においても、新規薬剤を使用した場合の副作用の発症状況、新
規の体内植え込みデバイスを入れた場合の長期の予後などを比較的容易に調べる
ことができます。必要な情報が迅速に得られることは、新規の薬や医療機器の開
発コストを下げることにも繋がります。日本の未来の医療が、そうなる夢を思い
描きながら、PHRのプロジェクトを支援しています。

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        口腔外科 吉本です。この度、異動いたします        
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                                   口腔外科科長 
                                                               吉本 仁

この度、大阪医療センターを離れることとなりました。
定年まで大阪医療センターで勤めるものと思っていたので、今回の異動はまさに
寝耳に水でした。

3年前、松下記念病院 歯科口腔外科から大阪医療センター 口腔外科へ赴任して
まいりました。そういえば、松下記念病院へ赴任する際、大学の医局から「お前
はそこで定年まで頑張ってくれ」と言われたことを思い出します。その4年後、
「異動だ。大阪医療センターへ行ってくれ。そこで定年まで頑張ってくれ」と言
われ、大阪医療センターへ赴任してきました。そして今回、「異動だ。次は大阪
公立大学に行ってくれ。そこで定年まで頑張ってくれ」と。……さすがにもう
「定年まで頑張ってくれ」は信用していませんので(笑)、次の異動に備えるつ
もりでおります。

わずか3年という短い期間でしたが、本当に忘れられない3年間となりました。
今まで勤めたどの病院よりも規模が大きく、働くスタッフの数、そして患者数も
桁違いでした。その分、初めて経験することも多く、自分自身が大きく成長でき
た期間だったと感じています。

特に印象に残っているのは、「HIV医療体制整備のための近畿ブロック三者協議」
への出席です。それまでHIV医療に関して深く関心を持ったことはありませんで
したが、この機会を通じて、新たに学び、考え、実践すべきことが見えてきまし
た。

また、大学時代を共に過ごし、卒後の数年間を医局で苦楽を共にした同期・鹿野
先生と、約20年の時を経て再び一緒に働けたことも、大きな喜びでした。彼との
再会は、自分の過去を振り返り、今を見つめ直す貴重な機会となりました。

大阪医療センター 口腔外科では、私と鹿野先生を含め常に6名の医員で外来・手
術を行ってきました。毎日のように、1日の終わりに全員で西10病棟を回診し、
病棟エレベーター前から皆で眺めた夕焼けの空は、今でも目に焼きついています。

数年後、次の異動でまた大阪医療センターに戻って来られたら——と願いながら次
の赴任先、大阪公立大学医学部附属病院に向かいます。願いが叶ったその時には、
ぜひ快く迎えていただければ幸いです。そして「定年まで」お世話になりたいと
思っております。

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                    就任のご挨拶         
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                                                口腔外科科長 
                                                               鹿野 学 

 2025年4月から大阪医療センター口腔外科科長に就任いたました鹿野学です。
私は1998年大阪歯科大学卒業後に大阪大学歯学部付属病院にて臨床研修を終了し
た後、大阪歯科大学附属病院口腔外科第二講座に入局しました。同大学大学院修
了後、大阪赤十字病院歯科口腔外科に勤務、2007年から大阪医療センター口腔外
科に赴任し、今年で18年目となります。これまでの大阪医療センターでの治療経
験をもとに、より一層患者様に寄り添い信頼されるよう前任の有家科長、吉本科
長に続き医療活動に精進していきたいと思っております。
 大阪医療センター口腔外科では口腔の悪性腫瘍を中心に顎顔面の外傷、重症口
腔感染症や埋伏歯、嚢胞などの小手術、周術期の口腔管理などを行っています。
当科では一般的には虫歯や義歯の治療等はおこなっておりませんので、歯科治療
が必要な場合には、かかりつけ歯科医院や近隣の歯科医院へ紹介させていただき
ます。
 口腔癌は癌全体では発生率が低く、認知度が低いため専門機関を受診する時に
は進行している場合が多く、治療が困難な癌とされています。口腔癌が発見され
るのはほとんどが歯科医院で指摘されて専門機関を紹介される場合です。定期的
に検診を受けることで口腔内の異常を早期に発見することにより治療の侵襲を低
減することができます。そのためかかりつけ医での定期的な口腔管理を推奨して
います。当科も地域の歯科医院の先生方や大学病院、病院歯科から御紹介いただ
き連携させていただいております。
 現在当院の口腔外科スタッフは5名おり、日々の忙しい日々の業務の中でもコ
ミュニケーションやチームワークを大切にし、みなとても仲が良くまとまってい
ます。私たちは治療困難な癌や外傷、重症感染症など、どんな病気であってもで
きる限り治療ができるようにそれぞれ医療技術の向上や専門性を発揮し、あきら
めずチーム一丸となって立ち向かっていきます。患者様にとって最適な治療を提
供することを目標にしています。

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                   看護のこころ
                 「患者さんの思いに寄り添う看護とは」     
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                                CCU病棟 副看護師長
                                                        石井ひとみ

 春の日差しが感じられるようになり、外に出るのも気持ちの良い季節となりま
した。4月を迎え新たな環境に行かれる方も多いのではないでしょうか。私は、
人生の半分近くを看護師として過ごしていますが、CCUという集中治療室で勤務
するのは初めてのことで日々学ぶことも多く、学習を重ねながら看護を実践して
います。そんな中で集中治療室でも一般病棟でも患者さんの思いに寄り添った看
護を実践するのは変わらないと日々感じています。そんな私が患者さんの思いに
寄り添った看護を深く考えるきっかけとなった出来事を今回お話しします。
 私は2年目の時に口腔外科病棟で勤務していました。その時の患者さんは下顎
歯肉癌にて腫瘍の切除術を行いました。手術後に嚥下機能が低下し、食事訓練を
行ってもなかなかうまくいかずに食事摂取が困難でした。私は患者さんに、1日
でも早く退院できることを目標に食事を摂取できるように頑張りましょうと声掛
けを行っていました。ある日、食事介助のときに「もう少し口の奥に食べ物を入
れてみましょう」と提案すると、患者さんから「そんなことわかっている。した
くてもできない。口から食べたいけど口も開かないし、食事があるのに食べられ
ない人の気持ちがあんたにはわからんやろ。」と言われました。その時、私は食
事を摂取するという患者さんの身体的な機能の回復ばかりに目をむけていること
に気づき、患者さんの思いに寄り添えていなかったことに気づきました。その後
しばらくは患者さんにどう声をかけていいかわかりませんでした。先輩看護師や
リハビリの先生にも相談し食事だけではなく看護師で実施可能な嚥下訓練を教え
てもらいました。口から食べたいという患者さんの思いに寄り添うため嚥下訓練
の実施方法を他看護師にも共有し、実施することで患者さんは嚥下訓練をがんば
ってくださり、術後1か月半で柔らかい食事を摂取できるようになりました。患
者さんからは退院時に「あんたが根気よくがんばってくれたおかげで食べれるよ
うになったわ。ありがとう」と言ってくれました。2年目の私は患者さんから言
われた言葉に「患者さんのことを思って看護実践していたのに・・・」と思うこ
ともありましたが、その経験からは患者さんの思いに寄り添った看護とは何かと
より深く考えるようになりました。日々患者さんからは学ぶことも多く、今の
CCUでも患者さんの思いに寄り添えるよう病棟スタッフとともに看護を実践して
いきたいと思います。
 新年度が始まり多忙な日々が続くかと思いますが、どうぞお身体に気をつけて
ください。
 
ホームページ→https://osaka.hosp.go.jp/kango/index.html 

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             研 修 医 日 記        
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                               研修医2年目
                                                             芦田 泰
 はじめまして。初期研修医の芦田泰と申します。
先輩方も同じように書かれていると思いますが、研修医生活というのは本当にあ
っという間に過ぎていくもので、もう2年目に突入したのかと驚くばかりです。
「あ」から始まる苗字というのは本当に不便なことだらけで、今年度の日記当番
のトップバッターになってしまいました。
 私は循環器内科に進むので当院循環器内科の魅力についてじっくり書きたかっ
たのですが、4月ということもあり当院を受けるか悩んでいる皆さんに向けて広
く一般的な内容について書かせていただこうと思います。
 当院はいわゆるハイボリュームセンターで、ほとんどの診療科が充実しており
昼夜問わず多くの患者さんが訪れます。目指す診療科がすでに決まっていて多く
の経験を積みたいという方はもちろん、初期研修中に色々な診療科を見て進路を
決めたいという方にもおすすめです。
 自分が見学生の方の対応をするときには必ず伝えていることなのですが、当院
の最も優れていると思う点は「良い先生が多いこと」です。大阪府内には高水準
の医療技術を提供出来る病院は他にもたくさんありますが、その忙しさの中でも
患者さんやスタッフに親切に出来る余裕を持った優しい先生方が当院には特に多
くいらっしゃいます。初期研修の2年間というのは医師としての当たり前が形成
される大切な時期です。当院の先生方の知識・技術のみならず患者さんに対する
姿勢を当たり前にできれば、良い医師へ一歩近づけること間違いなしです。これ
は私自身が当院を第一志望とした理由でもあります。
 建物自体は少し古めかしい風貌ですがそれに勝るだけの魅力がありますので、
少しでも気になってくれた学生さんはぜひ見学にいらしてください。みなさんと
お話できるのを楽しみにしています。
                   
臨床研修のホームページ→
https://osaka.hosp.go.jp/kyujin/syokikensyu/nikki/index.html
 
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総編集長:院長 松村 泰志
編 集 長:副院長 平尾 素宏 渋谷 博美
     看護部長 水戸 祥江
編   集:池永 祐子
発  行:独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター院長室
         (〒540-0006 大阪市中央区法円坂2-1-14)
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 今月のメルマガは、いかがでしたでしょうか?
季節の変わり目、体調に気を付けてお過ごしください。

408-osaka@mail.hosp.go.jp


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