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メールマガジン「法円坂」No.290 (2025/6/18)(独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター)




 色とりどりの紫陽花に心癒される季節になりました。梅雨時も体調管理に気を
付けながら、少しでも快適に過ごしたいところです。では今月のメルマガをお楽
しみください。
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   メールマガジン「法円坂」No.290 (2025/6/18)
          (独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター)
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今月号の目次
 ・院  長  松  村 泰  志
 ・シニアから見たネット社会が及ぼす影響について
 ・思わぬ殺し文句 “We love transparency” 
 ・看 護 の こ こ ろ
 ・研 修 医 日 記

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                院長  松村 泰志   梅雨に思うこと
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 梅雨の季節となりました。人々は、雨が降ると傘をささなければならず、強い
雨になると濡れてしまいますので、うっとうしく思います。しかし、木々や作物
にとっては、命の源の水が降り注ぐ恵みの季節です。人々は、秋になると、育っ
た作物を収穫し、幸せな気持ちになります。日々の気分から離れて見ると、四季
があることが本当の恵みであり、良い季節、悪い季節があるわけではないことに
気付かされます。今年の梅雨が例年通りであることを祈ります。
  人生においても、厳しい状況に置かれ、辛い時期がありますが、その時に得た
ことが、その後の人生を生きて行く上での土台となり、豊かに生きて行くための
糧となったというお話しは良く聞くことです。私自身もそのような経験をしてき
ました。今は、病院の経営状態が厳しくて、なかなか気分が晴れない日々が続い
ていますが、自分にとって貴重な体験なのだと思うようにし、この状況に臨んで
います。
  病院の経営状態が悪いのは、当院だけではないと聞きますが、この厳しい状況
にありながら、NHOの東京医療センターは、一昨年度よりも収支状況を改善させ
て黒字化を達成していました。似た状況にある病院が、どうして病院経営状態を
改善させたのかを知りたいと思い、私、看護部長、事務幹部で訪問をお願いしま
したところ、快く受け入れて頂き、大変丁寧に時間をかけて説明して頂きました。
訪問して多くのことを学びました。やはり、多くのポイントで改善策を練ってお
られ、病院運営の改革に取り組まれていました。その成果が出てきたのは取り組
みをしてから4カ月を過ぎた頃だったとのことでした。ここでは重要と思われた2
点をご紹介します。
  一つ目は、診療の依頼を受けたら、救急も含め100%応需する方針に転換された
ことでした。これにより、それまで不応需としていた患者だけでなく、紹介患者
数そのものが増加したとのことでした。地域の開業医から信頼されるようになっ
たからだと思われます。当院でも、地域の開業医からの依頼に対して、できるだ
け応需するように言ってきましたが、100%応需にはなっていません。応需しなか
った患者さんについて医師に事情を聞くと、それなりの理由があるのですが、こ
の部分を改善させる必要があると感じました。
  もう一つは、病棟看護師長に、病院の経営管理に参画するよう促したことでし
た。当院でも、そうした意識は持ってもらっていますが、どちらかというと診療
科の科長の方をより重視していました。新入院をコントロールしているのは医師
であり、病棟看護師は、医師が入院させた患者を担当しますので、受け身的立場
になります。しかし、入院してからの患者への関わりは、医師よりも看護師の方
が強くなります。特に、今日では高齢の患者さんが増えていますので、入院の目
的となった疾患の治療以外に多くの療養上の課題があることがあり、これへの対
応も患者さんにとっては重要です。また、そもそも院長は、各科、各病棟の活動
の結果を集計しているだけの究極の受け身的立場です。病院を各病棟に分割し、
病棟看護師長に院長の分身的な役割を担ってもらうのは良いアイデアと思います。
  大阪医療センターでは、これまで院長が定期的に病棟をラウンドすることはし
てこなかったのですが、東京医療センターをはじめ、NHOの多くの急性期病院で
しているとのことでした。本部からも実施すべきとの指導もありましたので、こ
れを機会に、今月から院長と看護部長とで、毎週のペースで院内ラウンドを開始
しました。病棟以外にも手術室や集中治療室、救急外来、地域医療連携室を含め
て、半分ずつラウンドし、各部署には月2回の頻度でラウンドします。各病棟で
は、思っていた以上に病院方針が理解され、懸命に努力している様子がうかがえ
ました。「本当に良くやってくれている」というのが、私の率直な印象でした。
  病院経営の問題が、病院の基本的な姿勢、考え方を見直す機会となりました。
そう考えれば、今の試練は意味があることになります。そう自分にも言い聞かせ
て、大阪医療センターがより良い病院になるよう、改善させるべき点を見つけな
がら、日々努力していこうと思います。

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        シニアから見たネット社会が及ぼす影響について         
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                             感染症内科
                                                 白阪 琢磨
  
 スマホが登場し、今や生活の必需品となった観があります。何を今更と言われ
るでしょうが、小生が困っているスマホ関連の弊害の1つに衝動買いがあります。
〇〇は何だっけとか、あれは結局どうなったのだろうとか、ふと脳裏をかすめた
時に、スマホに入力しポチッとすると、瞬く間にザーッと画面に情報が並び、そ
れで付け刃の知識を得て満足してしまうのですが、時に、深く知りたいと思い、
画面に現れる関連書籍をポチッとすると、ポストまで届けてくれ、絶版などの中
古本までも入手可能な場合も多く、書籍代が小遣いを大きく圧迫しています。し
かも、読み終える間もなく次から次に本を購入してしまうので、机の周りには読
みかけの本の山また山の状況を築き上げてしまっています。もちろん、今も本屋
には立ち寄り厳選の後一冊を買い求める事もあります。中身を斜め読みし、厳選
して買った本の完読率はポチッとして購入した本よりも高率だと思います。しか
しながら、自分の中でヒットと思われる作品とネットでしか出会えなかったので
はと考えるときもあります。そういう一冊が、森博達氏の「日本書紀 成立の真
実-書き換えの主導者は誰か」(中央公論新社、2011年)です。氏は1949年兵庫
県の生まれで、大阪外国語大学外国語学部中国語学科卒業。名古屋大学大学院博
士課程(中国文学専攻)中退。愛知大学専任講師、同志社大学助教授、大阪外国
語大学助教授を経て、京都産業大学教授。専攻、中国語学。『古代の音韻と日本
書紀の成立』(大修館書店、第20回金田一京助博士記念賞)、『日本書紀の謎
を解く』(中公新書、第54回毎日出版文化賞)などの著書があります。氏は大
学三年生で、中国語音韻学と「日本書紀」に出会ったとされ、その研究成果を29
年後に「日本書紀の謎を解く」として世に問われました。日本書紀は漢字が書か
れています。「漢字には形・音・義の三要素があり」、著者は音韻分析による区
分論を立て、漢字音の相違によって、2群(α群とβ群)に区分されることを発
見されました。β群には複数の字音体系に基づく仮名が混在し、倭音(漢字の日
本語)によって表記されており、一方、α群の仮名は単一の字音体系(唐代北方
音)に基づき、原音(漢字の中国音)によって表記されていると言います。すな
わち、β群は倭音で書かれ、α音は正音で書かれたのだと言います。この研究成
果は本の副題「書き換えの主導者は誰か」に繋がります。今では同氏の分析方法
と結果は学会でも主流となっていると言います。種明かしはここでは控えます。
興味のある方は本書を是非、お読み下さい。「書紀30巻は1人の撰者によって著
されたものでは」なかったのです。こんな所属する筈も無い学会での重要なテー
マに関する情報も手軽に入手できるのもネット社会の凄さだと思いました。

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           思わぬ殺し文句 “We love transparency”         
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                                               血友病科
                                                             西田 恭治

 私が医学生の頃は、血友病患者は成人に達することが困難で首尾よく成人して
も重篤な関節出血後遺症を残すと教科書にありました。しかし治療薬の進歩で、
現在では年間出血ゼロの患者も少なくなく、小児では出血を経験しない患者も現
れています。治療は出血ゼロの達成で、利便性を求める時代になっています。出
血ゼロをもたらす凝固因子の自己静脈注射による定期補充療法は、その半減期の
短さから基本的に週2~3回程度の頻度を要します。しかし、一昨年末に週1回の
投与が可能な凝固Ⅷ因子製剤が発売されました。静脈穿刺が減るのは患者さんに
とって大きな魅力で多くの患者さんが製剤変更するだろうと見なされていました
し、実際に移行しつつありました。一方で、遺伝子組み換えⅧ因子の半減期を延
長させるために従来にないタンパクを3種類も結合させていることから、免疫原
性に変化はないのかという懸念が専門家の間でありました。なぜなら、血友病患
者に発生するインヒビター(中和抗体)はその後の凝固因子治療を無効にするた
めに血友病治療医を最も恐れさせる副反応であるからです。しかし、幸いなこと
に治験の期間中にはインヒビターの発生報告はありませんでした。
 ところが、発売後1年余りで日本の既治療患者3名にインヒビター発生したこと
が本年1月に発覚しました。従来にも既治療者でのインヒビター発生報告は脳内
出血時や大手術時の凝固因子大量投与時に稀に発生することはありましたが、今
回の3例は通常の定期補充療法中に発生したことが、日本の医師や患者を震え上
がらせました。しかし、発売元のS社はもちろん、患者に寄り添う世界血友病連
盟(World Federation of Hemophilia:WFH)までが全体の使用患者からの発生
率は低くて今後の展開を見るべきという鈍い反応でした。
 本年の4月にドバイでWFH会議があり、インヒビター問題の世界的な周知の必要
性を説くべく参加しました。最初、WFH理事たちは発生率の推移を見守るべきと
いう相変わらずの鈍い意見でした。しかし、発生率の問題ではなく発生状況の問
題で日本の医療者や患者会は驚いている。インヒビター発生原因が科学的に詰め
られていなくても警鐘のために公表すべきだ、“We love transparency (透明性)”
と伝えると潮目が変わりました。その通りだ、一刻も早くWFHの医学雑誌に投稿
してくれと変化しました。グローバルのS社との面談も同様でした。ビッグ・マ
ネーが動くので腰の引けた対応は覚悟していましたが、“We love transparency”
でアッパーカットを受けたように報告を受け入れました。
 透明性の反対は隠ぺいということになるのかしれません。しかし、Transparency
という一言がそれほどの威力を持っているとは予想していなかったので、ラッキ
ー・パンチだったのかもしれません。

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                   看護のこころ
             ~一人の人として生き抜くことを支援する看護~
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                                     ケアサポートチーム 
                                                      がん看護専門看護師 
                                                             櫻井 真知子 
                                                             
 紫陽花が色鮮やかに咲く季節となりました。みなさまいかがお過ごしでしょう
か。
 私は、がんの予防から診断・治療・共生・終末期のケアを、時期を問わずに行
うなどの役割がある「がん看護専門看護師」という資格をもった看護師です。私
が看護学生の頃はがん看護という科目はなく、周手術期看護の中でがんの看護を
学びました。その後、就職し外科病棟に配属されましたが、がん看護は手術だけ
でなく、化学療法、放射線療法、緩和ケアの知識が必要でした。看護学校で学ん
だことは時代の流れの中、物足りなくなっていました。外部の研修に参加し新し
い看護の知識や技術が増え、それを臨床で活用すると、患者さまやご家族がどん
どん良い方向に変化される経験をしました。「がん看護にはエビデンスがある!」
と感じ、ますます学習に励むことになりました。その学びは楽しく、苦痛を感じ
ることなく様々なことを吸収することができました。私が、がん看護に夢中にな
るきっかけになった50代の腹膜中皮腫の女性との関りについて記載したいと思い
ます。
 まだまだ緩和ケアや療養場所の選択という概念が世の中に周知されていない時
代で、腹膜中皮腫の診断期から担当看護師として関わらせていただいていました。
抗がん剤治療をしましたが、残念ながら効果が得られず、今後のことを考えてい
く時期になり、私は、「これからどう過ごすか考えていきましょう。」と声をか
けましたが、「人が頑張ろうとしているときにそんなこと言わないで!」と叱ら
れました。声がかけづらい日々が続きました。私のペースで進めようとしていて、
その方の心の状態に合わせたタイミングで話ができていなかったことに気づきま
した。しばらくすると、その方が「注文住宅で建築した家が完成したので、家に
帰りたい」という希望を話されました。呼吸困難が出現していましたが、ご家族
も同意され、指導を受け外泊されました。深夜になるにつれご家族も不安が募っ
てきたのもあり、深夜帯に帰院されました。外泊は叶いませんでしたが、「家に
帰らせてもらって、ありがとう」と言ってくださいました。この経験から、患者
さんが一人の人として生き抜くためにできる看護がないかを模索し、「がん看護
専門看護師」の道に進みました。 
 資格取得後は、学習してきた理論や技術を基本に試行錯誤しながら看護実践を
行い、手ごたえを感じながら経験を積んできました。がん看護に興味のある看護
師さんにエビデンスのある知識や技術を知ってもらい、がん看護の輪が広がって
いくのは楽しい経験です。                     
 これからも日々精進していきたいと思っています。
 梅雨明け後には厳しい暑さとなりますので、健康には十分にご留意なされ、素
敵な日々をお過ごしください。
 
ホームページ→https://osaka.hosp.go.jp/kango/index.html 

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             研 修 医 日 記        
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                              研修医2年目
                                                          島田 理人

 こんにちは。大阪医療センターで初期研修2年目の島田理人です。来年度から呼
吸器外科に進む予定です。外科志望でマッチングを検討している学生さんに向け
て、この病院の魅力をお伝えできればと思います。
 まずお伝えしたいのは、外科スタッフの先生方がとても教育的で、熱心に指導
していただけることです。研修医にも積極的に手技や処置の機会があり、見学だ
けで終わることはまずありません。指導の中では、ただやらせるだけでなく、ど
うしてこの方法なのか、何を注意すべきかなど、手技の背景や考え方まで丁寧に
教えていただけるので、理解を深めながら成長できます。
 大阪医療センターは症例数が府内でもトップクラスで、一般的なものから稀な
症例まで、幅広く経験できるのも大きな魅力です。手術件数も多く、外科志望に
は最高の環境だと思います。私は呼吸器外科を志しているのですが、ロボット手
術など高度な手術を間近で学べる環境に、日々刺激を受けています。
 オンとオフのメリハリがしっかりしているのも魅力の一つです。勤務中は厳し
くも真剣に指導していただき、勤務後や休日には、飲み会やイベントにも積極的
に誘っていただけます。先輩やスタッフ、コメディカルの方々とも距離が近く、
楽しく温かい雰囲気の中で研修生活を送れています。
 病院は谷町四丁目にあり、アクセスも良好です。周囲には谷町六丁目や空堀商
店街など、おしゃれなカフェや居酒屋が多数あり、仕事終わりにリフレッシュで
きる場所も充実しています。
 外科を目指す皆さん、ぜひ一度見学に来て、大阪医療センターの雰囲気を実際
に体感してみてください。
                   
臨床研修のホームページ→
https://osaka.hosp.go.jp/kyujin/syokikensyu/nikki/index.html
 
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総編集長:院長 松村 泰志
編 集 長:副院長 平尾 素宏 渋谷 博美
     看護部長 水戸 祥江
編   集:池永 祐子
発  行:独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター院長室
         (〒540-0006 大阪市中央区法円坂2-1-14)
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 梅雨空に気分も沈みがちな季節ですが、心も体も元気に過ごしていきましょう!
来月のメルマガもぜひお楽しみに。

408-osaka@mail.hosp.go.jp


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