政策医療

くも膜下出血(脳神経外科)

クモ膜下出血とは

脳を包む3枚の膜(内側から軟膜、クモ膜、硬膜)のうち、軟膜とクモ膜の間に出血を起こしたものをクモ膜下出血といいます。突然の激しい頭痛で発症し、嘔吐や意識障害を伴うこともあります。多くの場合、脳の血管に発生した脳動脈瘤(血管のコブ)が破れることが出血の原因になります。典型的なクモ膜下出血は50~70代の健康な人に何の前ぶれもなく発症し、命を奪われたり、重大な後遺症が残ってしまうことの多い、恐ろしい病気です。

クモ膜下出血の診断

頭部CTを撮影してクモ膜下出血の存在を確認します。ただし出血量が少ない場合は診断が難しく、腰椎穿刺(背骨の隙間から脳脊髄液を取ること)を行ったり頭部MRIを撮影することもあります。
クモ膜下出血であることが診断された場合、脳血管造影を行って出血の原因と部位を確認して治療方針を立てます。

クモ膜下出血と脳血管造影

クモ膜下出血の原因として脳動脈瘤、脳動静脈奇形、モヤモヤ病などの可能性がありますので、原因となっている疾患を確定するために、脳血管造影を行います。脳血管造影は動脈内にカテーテルという細い管を留置し、造影剤を注入して脳内の血管を精密に撮影するものです。その結果、「脳動脈瘤の破裂によるクモ膜下出血である」ということが確認された場合、角度を変えて何度も造影を繰り返し、破裂した脳動脈瘤の正確な位置やサイズを確認し、そのデータをもとにして治療方針を立てます。

クモ膜下出血の治療

ここでは最も数の多い「脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血」の治療について、3段階に分けて述べます。

クモ膜下出血の治療の第1段階(脳動脈瘤の再破裂予防のための手術)

まず第1段階として、脳動脈瘤の再破裂防止を行います。脳動脈瘤は破裂して出血した後、一旦、自然に止血されてしまいます。ところが、このまま放置しておくと、2週間以内に約20%、6ヶ月以内に約50%の方が再破裂をきたすといわれています。再破裂の破壊力は初回の破裂に比べてはるかに大きく、再々破裂まで起こすと救命はほぼ不可能となってしまいます。そこで、手術を行って再破裂を防止いたします。Z

クモ膜下出血の治療の第2段階(脳血管攣縮の予防と治療)

次に第2段階として、クモ膜下出血による「脳血管攣縮」に対処しなくてはなりません。脳血管攣縮とは、クモ膜下のスペースに拡がった血液の刺激によって脳の血管が細くなって、脳の血流が悪くなることをいいます。クモ膜下出血の発生後、一旦よくなった意識が1週間目頃から再び悪くなるのは、主として脳血管攣縮が関与しているものと考えられます。脳血管攣縮によって脳血流が悪くなった場合、脳組織が壊死(脳梗塞)を起こし、手足の麻痺や言語障害、意識障害の原因となってしまいます。
このような脳血管攣縮を防止するために、脳血管攣縮が発生する前から予防的に約2週間にわたって薬剤を点滴いたします。また、脳血管の攣縮はクモ膜下出血の発生後10日目前後が最も強くなるので、この時期を見計らって、再度、脳血管造影を行い、脳血管攣縮の部位と程度を確認し、血管拡張剤を直接に脳血管内に注入することもあります。

クモ膜下出血の治療の第3段階(水頭症の治療)

最後に第3段階として、クモ膜下出血による水頭症の治療を行います。脳は通常、髄液という透明な液体に浮かんでいますが、クモ膜下出血が起こると、その血液によって髄液の流れがせき止められ、脳の中に髄液がたまってしまいます。これを水頭症といいます。水頭症が発生した場合、頭痛、不穏、意識障害、尿失禁、歩行障害などの症状がみられます。このような場合、「脳室腹腔短絡術」という手術を行って、脳の中にたまった髄液を腹腔内で吸収できるようにします。なかには水頭症が発生しない患者さんもおられますので、そのような場合には脳室腹腔短絡術を行わずに経過観察することもあります。

クモ膜下出血の予後

クモ膜下出血には「どうも頭が痛い」と歩いて来院される軽症の患者さんから、発症と同時に即死してしまう最重症の患者さんまでおられます。もちろん、軽症の患者さんと重症の患者さんでは大きく予後は異なりますが、おおよその目安として「3分の1ルール」ということがいわれています。
すなわち、最善の治療をしたとしてもクモ膜下出血の3分の1の方は残念ながら死亡されます。一方、3分の1の方は社会復帰することができ、残り3分の1の方は生存できるものの後遺症をもった状態になります。この場合の「後遺症」は色々あり、軽いものは「手足の動きが悪くなったり、言葉がもつれる程度」、重いものは「意識のない植物状態」など、様々です。
私どもの治療の目標は、まず命を救うこと、次に意識を回復させること、そしてできるだけ後遺症を少なくすることです。もし、何らかの後遺症が出た場合には、それを克服するために早期にリハビリテーションを開始いたします。さらに長期のリハビリテーションが必要と考えられる方には、当院と協力関係にある回復期リハビリテーション病院で、訓練に専念していただくようにしています。