心不全(循環器科)
概論―心不全とは?
心不全は病名ではなく、心臓のポンプ作用が全身の循環需要を満たせないことに伴う症候をいう。心不全の原因疾患は過去においてはリウマチ熱に伴う心弁膜症に起因する心不全が多く経験されたが、最近ではリウマチ熱による心弁膜症は著しく減少し、虚血性心疾患や高血圧症、心筋症に起因するものが増加している。また、高齢化とともに心不全は増加している。このように、心不全の原因疾患の移り変わりとともに心臓の何が不全になるのかの病態が明らかになるにつれ、心不全の定義も原因と無関係に、①心拍出量の低下、②左房圧の上昇と肺うっ血、③右房圧の上昇と体静脈のうっ血をきたす状態と規定された。
分類
心不全の分類にもいろいろな分け方がある。まずその時間経過によって急性と慢性に分けられる。慢性心不全が急性増悪することもあるが、これも急性心不全に含めることが多い。さらに急性心不全には心原性ショック、肺水腫などがある。
心原性ショック
急激かつ著明な心ポンプ不全が原因で循環不全に陥った状態と定義され、(表1)の診断基準が使用されている。この状態の予後はおおむね不良で、病因を適切に修復できない場合には85%以上死亡するといわれている。最大の原因疾患は広範囲急性心筋梗塞症で、壊死量が左室心筋の40%を越すと心原性ショックをきたすといわれている。そのほかの原因として心筋梗塞に伴う心室中隔穿孔、乳頭筋断裂、左室自由壁破裂などの合併症や、劇症心筋炎、心タンポナーデ、緊張性気胸、重症肺動脈血栓塞栓症、心室頻拍、心室細動などがある。心拍出量の低下に伴う症候として、血圧低下、頻拍、顔面蒼白、冷たい皮膚、冷汗、乏尿、行動力の減退、意識混濁などをみる。
肺水腫
肺水腫とは、肺毛細管から間質、さらにリンパ系への体液の輸送を調節する諸因子の不均等によって、肺胞毛細管間質や肺胞に体液を貯留をきたす症候群である。心原性肺水腫は、左室不全による肺毛細管圧の上昇が原因で生じるが、非心原性肺水腫は、肺毛細管膜の透過性亢進によって起こる成人呼吸促拍症候群(ARDS)である。心原性肺水腫では肺野の湿性ラ音、喘鳴、発作性夜間呼吸困難、起坐呼吸、泡状桃色痰、チアノーゼ、頻拍、III音、IV音、奔馬性調律などがみられる。
慢性心不全の急性増悪
心収縮能が低下した慢性心疾患(陳旧性心筋梗塞症、拡張型心筋症、慢性的な弁膜症など)では、うっ血と心拍出量低下が慢性的に存在するものの、種々の代償機構によって心不全はコントロールされている。しかし、病因の悪化や、容量負荷、左室拡張末期圧の上昇、心拍出量の低下などの誘発因子によって、急激な代償不全となり慢性心不全が急性増悪することがある。心不全増悪因子としては(表2)が挙げられる。
重症度
病歴
労作時の息切れの有無が重要である。具体的に”階段の昇るときに何か症状がないか?”と聞く方がよい。重症度からみた治療指針としては無症候性ならACE阻害剤、アンジオテンシンII受容体拮抗剤などを使用する。軽症では(ただし、労作時の息切れがある場合にはその程度で入院の上)利尿剤および安静を要する。中等度から重症では血管拡張剤および強心剤などの静注やスワンガンツかテーテルによる心機能評価を要する。また、重症例では心移植、補助循環(IABPなど)を要する(表3)。また、心不全の原因の半数は虚血性であることを考えれば胸痛の既往を聞くことや場合によれば心臓カテーテル検査を要する。ただし、心筋炎も少なからず存在することを考えれば心不全の発症と感染の関与も忘れてはならない。
身体所見
身体所見では、肺うっ血を示唆する所見と低心拍出に伴う末梢循環障害を示唆する所見に分けて検討する必要がある。肺うっ血所見は、①呼吸困難、②湿性ラ音、③III音、④頚静脈怒張などが重要である。ちなみに、呼吸困難に関しては、労作時息切れ→発作性夜間呼吸困難→起坐呼吸の順で重症である。低心拍出に伴う末梢循環障害所見は、①四肢冷感、冷汗、チアノーゼ、意識障害、乏尿、②脈圧の低下などが重要となる。
原因疾患
心不全の原因疾患の頻度としては急性心筋梗塞症などの虚血性のものが、約半数を占めており、非虚血性のものとして特発性、弁膜症性、高血圧性、アルコール性、ウイルス性、産褥性、アミロイドーシスによるものなどがある。