臨床研究について

エイズ先端医療開発室

エイズ先端医療開発室 渡邊大室長


大阪医療センターは薬害HIV裁判の和解に基づく恒久対策の一環として、平成9年にエイズ診療における近畿ブロックのブロック拠点病院に選定され、診療、研究、教育・研修、情報発信の機能が求められています。その中で、当研究室は、HIV感染制御研究室および院内設置の感染症内科やHIV/AIDS先端医療開発センターと連携し、HIV感染症の診療におけるさまざまな問題に対して研究を行っております。この10年でHIV感染の発生率は低下したものの、CD4数が低い状態で診断される患者さんも少なくはなく、より早期の診断が必要です(J Epidemiol. 2023, J Int AIDS Soc. in press)。一方で、治療に関しては多くの症例でウイルス抑制が得られるようになりました(Jpn J Infect Dis. 2017)。しかし、潜伏感染細胞を駆逐できないが故に、一生の内服加療を強いられます。我々は潜伏感染細胞数に相当する残存プロウイルス量の測定を行い、早期に治療を開始した症例では残存プロウイルス量が低く抑えられていることを明らかにしました(BMC Infect Dis. 2011)。残念ながら、抗HIV療法を行っても免疫系は完全に回復しません。ウイルス抑制が得られた症例で血中インターフェロンγが持続的に高値を示す症例(Viral Immunol. 2010)が存在し、それらの症例ではCD4数の回復が不十分であること(BMC Infect Dis. 2019)や、水痘・帯状疱疹ウイルスに対する免疫能は抗HIV療法のみでは回復しないこと(J Med Virol. 2013)を報告しました。抗HIV薬の副作用の課題も残されています。テノホビルDFによって血中ミトコンドリアCK活性が上昇すること(J Infect Chemother. 2012)やドルテグラビル投与例における腎機能評価が困難であること(J Infect Chemother. 2018)を報告しました。

また、薬剤耐性HIV(Antiviral Res. 2010)、急性HIV感染症(AIDS Res Ther. 2015)、ヒトヘルペスウイルス8型感染症(J Infect Chemother. 2017, Inter Med. 2014)、急性A型肝炎(Hepatol Res. 2019)、悪性リンパ腫(J Clin Immunol. 2018)、市中感染型MRSA感染(J Infect Chemother. 2020)、脳構造への影響(J Neurovirol. 2020, J Neurovirol. 2022)などにも取り組み、厚生労働省エイズ対策政策研究事業を中心に、多施設共同研究を行っています。

抗HIV療法は完成の域に達しましたが、永続的な治療が必要であり治癒はありません。併発した造血器腫瘍に対する幹細胞移植により、HIV感染症が治癒した症例が報告されています。この治療法はHIV感染者全員に応用できませんので、より簡単に提供できる治癒・機能的治癒を目指した新しい治療法の開発が求められています。本研究室では強力な細胞性免疫を誘導する治療ワクチンや新しい宿主因子についても共同研究を行っています。

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