臨床研究について

災害医療研究室

災害医療研究室 大西光雄室長


 台風のような予測可能な災害は少なく、多くの災害は突然発生し、病院機能は一旦低下する。しかし、同時に医療機関への需要が増大することが多いため、病院機能を維持することが求められる。一口に“災害”といってもさまざまな災害がある。
・ 地震や風水害に代表されるような自然災害
・ 化学物質による汚染、感染症、放射性物質、あるいは爆発といった事案が原因となるCBRNE災害(化学:Chemical、生物:Biological、放射性物質:Radiological、核:Nuclear、爆発物:Explosive)
・ 多数傷病者が発生するような、交通事故や火災、事件などの局地災害、および大規模イベントにおける医療対応
・ ライフライン(電気・水道・通信等)の途絶、停止による医療機関の機能低下や地域の衛生状況の悪化
・ 診療情報(検査、薬剤、給食などを含む)を司る診療情報システムの麻痺

など実にさまざまである。いずれにせよ、この機能低下を防ぐべく、医療機関の事業継続を念頭においた対応が望まれる。過去の災害を分析し、将来の可能性を想定し、準備・訓練することが重要である。

ここでいう“災害”という概念は、事業を継続するために必要な人的・物的・空間的な資源の需要と供給のバランスが崩れた状態を指す。このことを踏まえた上で、当研究室の災害研究は“オールハザードアプローチ(あらゆる危機・障害に対して事業を継続し続ける)”の方策を研究している。
特に化学物質が関連する災害に関して、世界安全保障イニシアティブ(Global Health Security Initiative:GHSI)における化学イベントワーキンググループ(Chemical Event Working Group:CEWG)の会議に参加しており、このWGで得た知見を活かし、日本における災害対応に取り組んでいきたい。

災害時に健康を失いやすい“災害時要配慮者”に対する研究・取り組みもおこなっている。東日本大震災における災害関連死の統計データより“病院の機能停止”によって“初期治療の遅れ”や“既往症が増悪”の発生、“避難所等への移動”、“避難所等での生活”における肉体・精神的疲労が災害関連死の原因とされていることから、平時より何が取り組めるのか、といった研究が必要と考えている。

また、大阪医療センターは以前より大阪市消防の有志とともに運営されている大阪EMS(Emergency Medical Service)研究会を通じて消防との連携のあり方など、15年以上にわたりプレホスピタルでの活動・研究に取り組んできた。COVID-19の影響により、WEB開催が主体となったことが幸いし、非常に広域、かつさまざまな職種からの参加者が得られるようになった。米国で救命士として活躍している人物との意見交換、米国の戦傷救護を学んだ自衛隊員を講師に招き、警察官、刑務官など救護を行う可能性のある多職種での研究会を多数開催でき、取り組みを研究発表してきた。当院の院内救命士も参加しており、医療の質の向上、各組織の視点を理解した上での連携を図るべく活動していきたい。また、対面の研究会開催が可能となってきたため、今後、さらに発展させる予定である。

大阪医療センターでは、以上を勘案した上で、災害訓練等をおこなってきた。COVID-19禍以前は放射性物質が関わる災害対応を含む広域災害への対応を地域医療機関との連携を考慮した上での大規模災害訓練をおこなってきたが、COVID-19の影響により訓練形式はワークショップや机上演習へ変更せざるを得なかった。しかし、その中でも自宅を避難所・救護所と見立て、自宅から災害訓練に参加可能なシステム、あるいは病院幹部(災害対策本部)の機能強化を目的とした訓練などさまざまな工夫、開発をおこなった。今後は、従来規模の災害訓練を再開すべく、地域(医師会・薬剤師会・訪問看護ステーション等)との連携を視野に入れた訓練を開催していく予定である。


現在の研究

・ 南海トラフ地震における災害医療対応シミュレーション・システムの開発(研究分担者 大西光雄 21K09087)
・ 大規模イベントの公衆衛生・医療に関するリスクアセスメント及び対応の標準化に向けた研究(分担研究者 大西光雄 22LA2002)
・ CBRNEテロリズム等に係る健康危機管理体制の国際動向の把握及び国内体制強化に向けた研究(分担研究者 大西光雄 22LA1012)
・ 化学テロ発生時に必要な薬剤の国家備蓄等の適正化の研究(分担研究者 大西光雄 23CA2019)
終了した研究

・ オールハザード・アプローチによる公衆衛生リスクアセスメント及びインテリジェンス機能の確立に資する研究(研究分担者 大西光雄 21LA2003)
・ CBRNEテロリズム等の健康危機事態における対応能力向上及び人材強化に関わる研究(研究分担者 大西光雄 19LA1010)
・ プレホスピタルでの心肺蘇生時における脳内酸素飽和度の推移に基づいた脳循環の解明(研究分担者 大西光雄 19H03758)
・ 高齢者施設の種類と特徴に応じた救急・災害医が関与した災害計画と訓練手法の開発(研究分担者 大西光雄 19K10532)
業績
オールハザードアプローチ・BCP(事業継続計画)関連
石田健一郎, 寺尾紀昭, 飯沼公英, 草深 進, 山本幸伸, 黒田愛実, 大西光雄【必要性が高まる災害・パンデミック対応とその見直し】BCPの見直しとワークショップを通じた職員の理解の促進(解説):病院経営羅針盤14巻234号 Page19-24 2023年6月


(口演・講演)
石田健一郎, 吉川吉暁, 飯沼公英, 平島園子, 太田裕子, 寺尾紀昭, 馬場和美, 上尾光弘, 大西光雄:当院におけるBCP策定後の取り組みと改定の工夫 COVID-19対応を包含したBCPと災害訓練。第76回国立病院総合医学会、熊本、2022年10月7日
石田健一郎, 飯沼公英, 坂本麻衣, 平島園子, 太田裕子, 上尾光弘, 大西光雄:コロナ禍における医療機関BCPの改定と訓練の工夫 BCP部門と感染攻御部門を柱とした当院のCOVID-19対策と災害訓練。第25回日本臨床救急医学会総会・学術集会、大阪、2022年5月26日
大西光雄:救急領域における役割分担と役割解放―働き方改革・BCPを意識しさらに深化した他職種連携へ―:第123回近畿救急医学研究会 メディカルスタッフ部会 教育講演、京都 2022年3月」26日
平島園子, 太田裕子, 畑中眞優子, 大西光雄 コロナ禍で再認識された多職種連携の重要性 コロナ禍での各専門職の視点を理解し業務継続のための共通認識を構築するための連携 ESW部門の取り組み 第24回日本臨床救急医学会・学術集会 WEB開催 2021年6月10日〜12日
・ 射場治郎, 大西光雄, 平井亜里砂, 若井聡智, 嶋津岳士 コロナ禍で再認識された多職種連携の重要性 救急・災害医が関与した高齢者施設における新型コロナウイルス感染症対策計画の策定にかかわる取り組み 第24回日本臨床救急医学会・学術集会 WEB開催 2021年6月10日〜12日
石田健一郎,河本昌雄,眞木良祐,小川晴香,小島将裕,田中太助,下野圭一郎,吉川吉暁,曽我部拓,上尾光弘,大西光雄:BCP 部門と感染制御部門を柱とした当院の COVID-19 対策本部。第48回日本救急医学会総会、学術集会、岐阜、2020年11月20日
河本昌雄、大西光雄、上尾光弘、島原由美子、曽我部拓、石田健一郎、小島将裕、吉川吉曉、小川晴香、下野圭一郎、田中太助:災害対応機能を強化した当院のドクターカー編成について。第48回日本救急医学会総会・学術集会、岐阜(WEB)、2020年11月18日~20日
・ 射場次郎、大西光雄、矢嶋祐一、宮里政史、若井聡智:令和2年度 施設におけるコロナ対策・対応研修「ほんとに怖い!施設での感染拡大~事前準備と早期対応で感染拡大を防ぐ~」文部科学省科学研究費事業「高齢者施設の種類と特徴に応じた救急・災害医が関与した災害計画と訓練手法の開発(19K10532)」大阪(WEB)、2020年12月12日

災害時要配慮者関連
曽我部拓、大西光雄 災害医療2020 大規模イベント、テロ対応を含めて 第IV章災害現場での医療判断と対応 災害時の慢性疾患への対応 透析 日本医師会雑誌 149巻特別1 P.S205-206、2020年6月
石田健一郎、大西光雄 災害医療2020 大規模イベント、テロ対応を含めて 第IV章災害現場での医療判断と対応 災害時の慢性疾患への対応 糖尿病 日本医師会雑誌 149巻特別1 P.S203-204、2020年6月
吉川吉暁、大西光雄 災害医療2020 大規模イベント、テロ対応を含めて 第IV章災害現場での医療判断と対応 災害時の慢性疾患への対応 高血圧 日本医師会雑誌 149巻特別1 P.S200-202、2020年6月
大西光雄 AMAT(全日本病院医療支援班)隊員要請研修における“災害時要配慮者”、“災害時に留意すべき疾病” 講義及び資料担当、2014年より

大規模イベント・CBRNE災害関連
大西光雄 特集4 CBRNE災害の対応に必要な医療従事者教育 「アニムス 特集 真夏の国際イベント」P.25-31 アニムス編集委員会 株式会社LSIメディエンス 東京、2020年4月1日
大西光雄 災害医療2020 大規模イベント、テロ対応を含めて 第X章事態対処医療 法執行機関との連携 日本医師会雑誌 149巻特別1 P. S350-352 2020年6月
大西光雄 事件現場における事態対処医療 標準ガイドブック 第3章 活動区域と資格 2「止血法」 日本臨床救急医学会監修 日本臨床救急医学会“法執行機関との医療連携のあり方に関する検討委員会 研修コース等検討小委員会”編集 へるす出版、2020年3月30日

(口演・講演)
大西光雄:大阪市消防集中講義、講演“爆傷などテロへの対応−過去の事例から学ぶ”、大阪、2023年3月6日
大西光雄:海上保安庁(第五管区海上保安本部)、講演“爆傷などテロへの対応−過去の事例から学ぶ”、大阪、2023年3月30日
・ 若井聡智、大西光雄 列車事故、列車内事件における多職種の連携 日本臨床救急医学会 2022年5月
大西光雄:吸入剤による中毒の基礎と臨床 化学テロと吸入剤による中毒 新しい脅威(Opioid)を踏まえて 第48回日本毒性学会学術年会(日本中毒学会合同シンポジウム)、神戸、2021年7月9日
大西光雄:大阪市消防症例検討会、講演“爆傷への対応 身近な脅威”、大阪、2022年7月29日

大阪EMS研究会・プレホスピタル関連
(口演)
・ 浦井健、大西光雄、大里幸暉、和田広大、吉川吉暁:救急搬送逼迫時における院内救命士による当院への救急搬送〜出動した事案から見えてきた課題〜、第26回日本臨床救急医学会総会・学術集会、東京、2022年7月29日
大西光雄、浦井 健、大里幸暉、和田広大、吉川吉暁:院内救命士のアイデンティティー確立のための当院の取り組み、第26回日本臨床救急医学会総会・学術集会、東京、2022年7月29日
・ 海谷雄一、三木大輔、大西光雄、島崎淳也、竹川良介、中島清一:プレホスピタルにおける負傷者対応能力向上と医療機器開発を視野に入れたwet lab trainingの開発、第26回日本臨床救急医学会総会・学術集会、東京、2022年7月29日
和田広大、浦井 健、大西光雄、吉川吉暁、大里幸暉:病院救命士の病院間搬送における技術向上への取り組み〜消防救急車同乗実習から学ぶ〜、第26回日本臨床救急医学会総会・学術集会、東京、2022年7月28日
吉川吉曉、和田広大、浦井 健、大里幸暉、大西光雄:院内救急救命士活用のための整備とシステム構築 -大阪医療センターの場合-、第76回国立病院総合医学会、熊本、2022年10月7日
浦井 健, 大西 光雄,吉川 吉暁, 和田 広大,大里 幸輝,:当院における救急救命士による転院搬送業務の現状報告 多職種におけるタスクシフトの効果、第76回国立病院総合医学会、熊本、2022年10月7日
和田 広大,吉川 吉暁,浦井 健,大里 幸輝,大西 光雄:院内救急救命士の活用-米国Emergency Medical Service Communication Specialistを参考に-、第25回日本臨床救急医学会総会・学術集会、大阪、2022年5月25日
・ 三木大輔、若井聡智、大西光雄:多職種参加による戦傷者救護研修会 各職種の視点を理解し連携を深めるために 第25回日本臨床救急医学会総会・学術集会 大阪 2022年5月


アンダーラインは大阪医療センタースタッフ(執筆・発表当時)を示す。

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