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悪性黒色腫

1.皮膚の構造 | 2.悪性黒色腫

1.皮膚の構造

皮膚は表皮、真皮からなりその下に皮下脂肪織があります。
表皮は数層の細胞からなる薄い組織で、表面から、角層、顆粒層、有棘層、基底層からなります。基底層は1層の細胞より成り、この基底層の細胞(基底細胞)が分裂してそれより上の有棘層の細胞(有棘細胞)になります。有棘層は数層の細胞からなり表皮の大部分を構成します。有棘層の細胞は1~数層の顆粒層の細胞になり、さらに角化した物質になって最外層の角質を形成します。基底層での分裂で生じた細胞が角質になるまでを皮膚のターンオーバーといい,これに要する時間はおよそ14日間とされています。基底細胞の間にところどころメラニン細胞があり、メラニン色素を産生します。
真皮はコラーゲンなどの線維組織からなり、微小な血管網、神経を有しています。毛や脂腺、汗腺などの皮膚の附属器は表皮から真皮さらに皮下にかけて存在します。皮膚はこのように様々な組織から構成されており、これらの組織から悪性腫瘍が生じますので,皮膚癌には多くの種類があります。
ここでは、代表的な皮膚癌、および前癌状態(表皮内癌)について紹介します。

図1 皮膚の構造

図2 表皮の構造

2.悪性黒色腫

表皮基底層のメラノサイト、もしくはほくろ(色素性母斑)の細胞由来と考えられてい手,全身どこにでも生じますます。(図2)

原因

紫外線や機械的刺激の関与が考えられています。また、先天性の巨大な色素性母斑(黒あざ)内に発生することがもあります。

症状

一般的には新たに出現した色素斑(シミ)や以前からあるホクロに似たシミが徐々に拡大し、ある時点から急に大きくなるといった経過をたどる場合が多いです。
多くは皮膚に発生し、色や形,発生する部位などから以下の4つのタイプに分類されます。
 1 末端黒子型黒色腫
 2 表在拡大型黒色腫
 3 悪性黒子型黒色腫
 4 結節型黒色腫

1 末端黒子型黒色腫

四肢末端、即ち手のひら、足の裏、爪部などに発生し,特に足の裏に好発します。黄色人種では他のタイプが少ないこともあって,このタイプの占める割合が多く,日本人の悪性黒色腫の40~50%を占めます.はじめは扁平な褐色や黒褐色の色素斑として発生し、拡大とともに色調が均一でなくなり,進行するとしこりびらん・潰瘍が生じることがあります。爪でははじめ黒褐色の縦の筋が生じ、拡大して爪全体からさらには周囲の皮膚へと拡大してゆきます。


(図12 ALM)

2 表在拡大型黒色腫

全身どこにでも発生します。少し隆起したシミとして生じ、境界が不鮮明になり、濃淡のまじったまだら状の色調になります。白人では最も多く見られるタイプですが、日本人でも増加してきています。進行は比較的ゆるやかです。


 (図13 SSM)

3 悪性黒子型黒色腫

高齢者の顔面に多いタイプで、境界が不整で色調もまだらな黒褐色の平らな色素斑で、ゆっくりと成長していきます。高齢者の日光に曝露する部位に生じます。

 
(図14 LMM)

4 末端黒子型黒色腫

全身どこにでも発生します。はじめ、黒色またはまだらな色の結節や小腫瘤として発生し、速く成長しますが,初期には周囲に色素斑を生じません。他の病型よりも悪性度が高い傾向があります。


(図14 NM)


●悪性黒色腫は皮膚以外にも生じることがあります

* 粘膜部黒色腫:鼻、口、肛門、消化管などの粘膜に生じ、皮膚に生じるものよりも予後が良くないタイプです。
* 眼球悪性黒色腫:主に眼球のぶどう膜(脈絡膜)に生じます。
 
* その他

●診断

視診での特徴が重要で、悪性黒色腫の発生を示唆する臨床的な特徴としては、後天的に生じた色素斑ないしは爪の色素線条(線状の色素斑)や生まれつき存在する色素斑の一部が、徐々にあるいは急激に大きくなってきた、形や色に変化が生じてきた、潰瘍や出血を生じてきたなどの点があります。下記に示すABCD(E)診断基準が参考になります。これらの肉眼的な変化で通常のほくろやシミと見分けますが、ダーモスコピー検査によってより正確に診断することができます。これらの肉眼的検査で診断できない場合には、病変の全てや一部を外科的に切り取って、病理組織検査(顕微鏡による検査)を行う場合があります。確定診断に至ったら、他の部位への転移の有無や治療の可否を調べるために、画像検査(CT、MRI、PET、X 線検査、 超音波検査など)や心機能、肺機能、腎機能検査、血液検査などが行われます。血液検査で腫瘍マーカーの値を参考にすることもありますが、腫瘍マーカーはかなり進行した状態で高値を示し経過観察に役に立ちますが、ごく早期の診断にはあまり有用とはいえません。早期診断に有用な腫瘍マーカーは今の ところありません。

●参考:ABCD(E)診断基準

良性の病変でもこれらの基準に当てはまる場合はあるが,該当する項目が多いほど,悪性を疑って慎重に対応する必要がある。

Asymmetry(非対称性の病変) : 形態が非対称である。 

Border irregularity(不規則な外形):端がギザギザしており,境目がはっきりと鮮明な部分と不鮮明な部分がある。

Color variegation(多彩な色調):黒褐色主体として色調にむらがある。

Diameter enlargement (大型の病変) :長径が6mmを越えたもの。

Evolving lesion (進行性の変化)) : 大きさ,形態,色調,表面の状態などの症状に変化が見られるもの。


●ダーモスコピー検査

肉眼所見による診断の他に、現在ではダーモスコピーという拡大鏡を使用する検査が行われます。これはエコージェルや偏光レンズなどで光の乱反射を抑え、強い光線を照射することにより皮膚病変を10~30倍に拡大して観察する機器(ダーモスコープ)を使った診断法です。この検査によって皮膚の色素沈着や血管のパターンを調べることによって,他の疾患と悪性黒色腫との鑑別がより容易になります。

●悪性黒色腫の病期

進行の度合いによって0期からⅣ期に分類されます。この病期は腫瘍組織の厚み,臨床症状(潰瘍の有無),リンパ節や周囲の皮膚および他の臓器への転移の有無などによって決定されます。下記に簡略に示しますが,この病期が治療や経過観察を決める目安となります。

 0期 がん細胞が表皮内のみに存在する
 Ⅰ期 リンパ節や他の臓器に転移が無く
     A:がんの厚みが1mm以下で表面に潰瘍がない
     B:がんの厚みが1mmを越えるが2mm以下で潰瘍がない
 Ⅱ期 リンパ節や他の臓器に転移が無く
     A:がんの厚みが1mmを越えるが2mm以下で潰瘍がある
       がんの厚みが2mmを越えるが4mm以下で潰瘍がない
     B:がんの厚みが2mmを越えるが4mm以下で潰瘍がある
       がんの厚みが4mmを越えるが潰瘍がない
 Ⅲ期 所属リンパ節や原発部周囲の皮膚に転移がある
 Ⅳ期 他の臓器に転移がある


●治療

リンパ節以外の臓器に転移がない0~Ⅲ期では手術で病変を全て切除することが治療の基本です。病期によって切除する範囲の目安が決められています。本格的な手術を行う前に、診断と腫瘍の厚み(病期)を確定するために腫瘍の一部や全体を切除する生検が行われます。以前は生検を行ってはならないとされていましたが、現在ではこの考え方は否定的になっています。生検によって診断と厚みが決定されたら、病気に応じてさらに大きく切除します。臨床所見であきらかに黒色腫と診断され、腫瘍の厚さが推定できるものは、生検せずに初めから拡大切除を行うこともあります。切除部位が広範囲に及ぶ場合には、患者さんの体の他の部位 (わき腹、太もも、おしりなど)の皮膚を移植することがあります。所属リンパ節転移が存在するⅢ期では、それらのリンパ節をひとかたまりに切除する手術(リンパ節郭清)を行います。しかし、リンパ節廓清は患者さんに体力的負担をかけがちなことや、手術後にむくみなどの後遺症が残ることがあるため、現在ではセンチネル(歩哨)リンパ節生検によってリンパ節転移の有無を診断する方法が一般的になっています。

●各病期における癌の辺縁から外方の切除範囲

 0期 およそ3~5mm
 Ⅰ期 およそ1cm
 Ⅱ期 およそ1~2cm
 Ⅲ期 およそ1~2cm (周辺の皮膚に転移があればそれらも含める)
 Ⅳ期 原発腫瘍からの出血や感染などを生じる際には可能な限り切除する

●センチネル(歩哨)リンパ節生検

触診や画像検査などによって転移が無いと診断された場合でも、Ⅰ期以上の厚みのある場合には,手術中にセンチネルリンパ節生検を行うことが推奨されています。センチネルリンパ節はがん細胞が最初に到達して転移するリンパ節で、このリンパ節に転移が無ければそれより先の転移は無いと考えられます。一方、このリンパ節に転移があれば、その先のリンパ節へも転移している可能性があるため、リンパ節郭清手術を行います。この生検を行うことで不要なリンパ節郭清を避けることやがんの病期を正確に判定することができ,正しい治療法の選択に役立ちます。

●術後補助療法

1 )化 学 療 法

手術後に再発の危険性が高いと判断された場合に、手術で取り除けなかったがん細胞を死滅させ、再発や転移を予防する目的で、手術後に抗がん剤を投与する「術後補助化学療法」が行われてきました。しかし現在では、術後補助化学療法を見直す方向で進んでいます。(使用することは少なくなってきています)

2)インターフェロン療法

再発・転移を予防する目的で、術後にインターフェロン製剤を切除部位の周辺の皮膚に注射することがあります。インターフェロンは、がんや体内に侵入した病原体を死滅させるために細胞が分泌する物質で、免疫に作用してがん細胞が増えるのを抑える働きをします。

●進行期の治療

他の臓器への転移があるIV期や種々の身体条件によって手術不可能な場合には、抗がん剤を使った化学療法、標的療法薬(抗PD-1抗体,BRAF阻害薬など)による治療、放射線療法などを行います。症状を軽くするために緩和治療を同時に行うこともあります。
従来の抗がん剤では悪性黒色腫に対して高い効果を示すものはありませんでしたが、近年開発されている標的療法薬では,有効性が高いものや効果の持続が長いものが出てきており,悪性黒色腫の薬物治療は急激に進歩しつつあります。

●セルフチェック

悪性黒色腫では早期発見・早期治療が大切です。臨床病期のⅠ期では95~100 % の治癒率が期待できます。 患者さん自身、またご家族の方が全身を観察して、ほくろの変化や皮膚の異常がないかをチェックすることで、早期に発見できる可能性があります。皮膚科への受診とあわせて、自己診察を実行してみてください。 また、過度な日焼けを避けることも日常生活における大切な予防法のひとつです。