診療科・部門

骨・軟部腫癌(整形外科)

1.悪性骨腫瘍 | 2.悪性軟部腫瘍(軟部肉腫) | 3.骨軟部腫瘍の頻度 | 4.症状 | 5.検査と診断
6.進行度・病期 | 7.治療法 | 8.治療過程 | 9.治療成績 | 10.手術後の機能障害について
11.術後のフォローアップ | 12.治療による副作用と生活 | 13.予防と検診 | 14.遺伝子関連

1.悪性骨腫瘍

【悪性骨腫瘍】

このなかには骨肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫を代表とする原発性骨腫瘍と臓器の癌が骨に転移をおこした転移性骨腫瘍が含まれます。また、血液疾患が骨にできる場合もあります。

【骨肉腫】

骨肉腫は10歳台の膝関節周囲に好発する代表的な悪性骨腫瘍で原発性骨悪性腫瘍のなかではもっとも頻度の高い疾患です。
病名は骨を形成する肉腫という意味です。最も多い型は骨内通常型ですが他にいくつかの亜系があり、骨内高分化型骨肉腫、円形細胞骨肉腫(稀)、表在骨肉腫、傍骨骨肉腫、骨膜骨肉腫、表在高悪性骨肉腫があります。また、放射線照射後などにおこる2次性骨肉腫も知られています。治療は骨内通常型骨肉腫には化学療法と手術を行います。亜系により化学療法を行わないのもあります。転移部位は肺がもっとも多く、肺転移がおこった場合は化学療法と手術を行います。

Fig.1骨肉腫症例のレントゲン

【軟骨肉腫】

骨肉腫の次に多く、大腿骨や骨盤に好発します。組織学的悪性度はグレード1~3までの3つに分類されています。グレード1では良性の軟骨腫と区別がつきにくい場合があります。通常は手術のみの治療です。また稀に悪性度が急に高くなる脱分化型軟骨肉腫も知られています。

Fig.2 軟骨肉腫のレントゲン

【ユーイング肉腫】

小円形細胞肉腫といわれる疾患群の一つで難治性の腫瘍のひとつです。原始神経外胚葉腫瘍(PNET)は現在ではユーイング肉腫/PNET群として同一疾患群に入っています。骨肉腫よりやや年令が低く大腿骨、脛骨、腓骨、肋骨、鎖骨、脊椎などに発生し、しばしば発熱や白血球増多などの全身の炎症反応を伴います。治療の基本は化学療法で、手術、放射線を組み合わせていきます。転移は肺以外に骨にも多く治療中には厳重な管理をおこないます。当院では、血液内科の協力をえて、末梢血幹細胞移植を併用した超大量化学療法も行っています。

Fig.3 ユーイング肉腫のレントゲン

【臓器の癌】

臓器の癌が骨に転移をおこした病態を転移性骨腫瘍といいます。病変が小さい時には余り症状はありませんが、大きくなると局所の痛みを伴ったり、骨折をおこしたりします。また、脊椎の転移腫瘍が神経を圧迫すると麻痺症状をおこしてくる場合もあります。治療は放射線治療または手術で両者を組み合わせる場合もあります。原発巣は肺がん、乳がん、甲状腺がん、腎がん、肝臓がんが多くまた、骨の転移が最初の症状で後に元のがんが発見される場合もあります。

Fig.4 腎癌骨転移のレントゲン

【血液疾患】

骨に病変をつくる血液の病気としては、成人では骨髄腫とリンパ腫がよくみられます。治療は血液内科でおこないますが、骨の破壊が著しい場合に整形外科手術が必要な場合もあります。また、小児では白血病が発見される場合があります。

2.悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)

【悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)】

大腿部や上腕部などの軟部組織にできる悪性腫瘍。

【軟部組織】

皮膚、皮下組織、筋膜、筋肉、血管、神経などの臓器以外の軟らかい組織の総称です

【軟部肉腫】

皮下の脂肪組織や筋肉組織など軟部組織にできる悪性腫瘍の総称です。大腿、下腿、上腕などの四肢に多く、胸壁や後腹膜腔にできる場合もあります。腫瘍の種類は多く、悪性線維性組織球腫、脂肪肉腫、滑膜肉腫、平滑筋肉腫、悪性末梢神経鞘腫、血管肉腫、骨外性ユーイング肉腫が代表的な腫瘍でそれぞれにさらにいくつかの型が存在します。組織学的悪性度(グレード)は、細胞密度、壊死、増殖能により高悪性、中悪性、低悪性の3つに分類されます。転移部位は悪性骨腫瘍と同様に肺が最も多くなっています。

【小円形細胞肉腫】

骨にできるユーイング肉腫以外に、軟部にできるものとして骨外性ユーイング肉腫、横紋筋肉腫があります。病理組織学的にはリンパ腫や小児の神経芽細胞腫と鑑別を要します。

Fig.11 骨外ユーイング肉腫症例

3.骨軟部腫瘍の頻度

【骨肉腫】

10歳台(好発年令)人口10万人に対して男0.9、女0.7 (本邦) 1989年-1994年の間で1041例の登録。 

【軟部肉腫】

アメリカでは年間約4500人の発生。全悪性腫瘍の0.7%。

4.症状

骨腫瘍の場合は痛みを伴うことが多く、腫瘍の周囲の骨が弱くなって骨折をおこす場合もあります。また、一部の腫瘍では発熱などの全身症状を伴う場合もあります。
軟部腫瘍の場合は腫れやしこりが主な症状で痛みを伴うことはほとんどありません。腫れがひどくなってきたり、しこりの大きさが5 cm以上の場合は要注意です。

5.検査と診断

骨腫瘍の診断には単純レントゲン撮影、CT, MRI, 骨シンチグラムが必要です。単純レントゲンの所見だけで診断がつく場合もあります。また肺病変の検索のために胸部のCTもおこないます。骨肉腫ではアルカリフォスファターゼ値が高い場合、腫瘍マーカーになります。
軟部腫瘍の診断は画像診断のみでは確定は困難な場合が多いですがMRIは腫瘍の正確な大きさや部位の情報をあたえてくれるので手術前には必要な検査となります。
いずれの腫瘍も腫瘍の一部を採取して病理検査をする生検術により確定診断がなされます。

6.進行度・病期

A. Enneking によるSurgical Staging System

腫瘍の部位がコンパートメント内にあるか否か、組織学的悪性度(高悪性、低悪性)、所属リンパ節、遠隔転移の有無により病期を決定する。

病期 悪性度 悪性度部位
(コンパートメント内外)
転移
IA なし
IB なし
IIA なし
IIB なし
IIIA 内または外 リンパ節または遠隔転移
IIIB 内または外 リンパ節または遠隔転移

B. AJCC(American Joint Committee on Cancer) Cancer Staging (軟部肉腫)

軟部肉腫を腫瘍の大きさ(5 cm以下を小、それより大きいものを大とする。)と深さ(筋膜を含まずこれより表層にあるものを浅、筋膜より深層にあるものを深とする。

病期 悪性度 大きさ 深さ リンパ節転移・遠隔転移 遠隔転移
I 浅深 なし  
I なし  
II なし  
II 浅深 なし  
II なし  
III なし  
IV       あり  

7.治療法

骨肉腫とユーイング肉腫は化学療法が有効なので術前に化学療法を行い術後にも行います。全部で約10回の化学療法をおこないます。手術は腫瘍のできた骨と回りの筋肉を一塊として切除する腫瘍広範切除術を原則とします。切除後の再建法は人工関節を用いることが多いですが、小児で骨が成長期にあり人工関節が使えない場合には切除した骨に放射線を照射した後にその骨を戻して固定する術中体外照射法も行っています。また自分の骨(自家骨)や人工骨(ハイドロキシアパタイト)を使う場合もあります。
軟骨肉腫は原則として手術のみの治療となります。
軟部肉腫に対する化学療法の有効性については小円形細胞肉腫を除いて議論のあるところですがAJCCで病期がIIIで合併症のない方に対しては術前に行うことにしています。高齢者の方は合併症がでやすいので原則として化学療法はおこないません。軟部肉腫に対しても手術は周囲の筋肉組織を腫瘍につけて切除する腫瘍広範切除術が原則となります。

【骨シンチグラム】

テクネシュウムというラジオアイソトープを注射し、約3時間後に全身の骨を検索する方法です。骨肉腫では局所に強い取込みが見られます。原発巣以外の病変を検索するのに有効です。

Fig.5 骨肉腫の骨シンチグラム

【腫瘍マーカー】

骨軟部腫瘍の領域ではその腫瘍に特異的な腫瘍マーカーはほとんど知られていません。骨肉腫で、治療前にアルカリフォスファターゼが高値を示す場合はマーカーになります。またユーイング肉腫でLDHが上昇する時があります。

【生検術】

腫瘍の一部の組織を採取する手技を生検術といいます。生検針を用いる針生検と小切開を加えて行う切開生検の2つの方法があります。
骨腫瘍の場合は針生検で診断する場合もあるのですが、軟部腫瘍の場合にはしばしば組織診断が困難である程度の組織の量が必要で多くは全身麻酔下の切開生検を行うことにしています。また、軟部腫瘍で浅いところにあって小さい腫瘍は腫瘍を全部とってしまいます(切除生検)。病理組織診断が良性であれば治療は終了となります。悪性の場合ですと更に大きな追加の切除が必要となります。

【化学療法】

抗癌剤を用いた全身化学療法(点滴)のことです。骨肉腫では、アドリアマイシン、シスプラチン、イフォマイド、メトトレキセートを、軟部肉腫ではイフォマイド、アドリアマイシンを使います。

【腫瘍広範切除術】

Fig. 6  骨肉腫

【人工関節】

Fig.8 腫瘍用人膝関節(京セラ)

【術中体外照射法】

腫瘍広範切除した組織に放射線を照射し、その後その骨を戻して固定する方法。腫瘍は体外に出された状態で照射されるので切除が正しく行われていれば再発率は理論的には人工関節置換術と同じである。術後の合併症としては感染、骨の癒合不全(照射した骨は死んだ組織になるので生きた骨よりはつきにくい)、骨折がある。

Fig.9 照射骨

Fig.10 術後レントゲン

8.治療経過

【代表的な治療経過】
1) 大腿骨(膝)骨肉腫

術前検査(麻酔のための検査で血液検査、尿検査、心電図、呼吸機能検査、胸部レントゲン撮影を入院前に外来でおこないます。)
MRI, CT, 骨シンチグラム、タリウムシンチグラム、胸部CT, を外来または入院で行います。
入院3日目に全身麻酔下に生検術をおこないます。数日後には病理診断(確定診断)がでます。診断がつき次第、本人および御家族の方に病状と治療の説明が担当医により行われます。治療方針に納得されたうえで化学療法が開始されます。化学療法の副作用は、最初はむかつきなどの消化器の症状で、一週間ぐらいたつと末梢血液の成分が低下してきます。それらが回復してきたら次の化学療法が開始されます。4回の化学療法の後、化学療法の効果判定を行います。検査として、単純レントゲン撮影、CT, MRI, 骨またはタリウムシンチグラムを行い手術の方法を決定します。大体、最初の化学療法開始から3ヶ月後に手術となります。全治療期間は約8ヶ月となります。

 2) 大腿部軟部肉腫(病期 III)

術前の検査、生検および診断は骨肉腫と同様です。軟部肉腫の場合、術前の化学療法は原則として2回ですが効果がないと判断された場合には1回で手術を行うこともあります。
術後は原則として6回の化学療法をおこないます。

9.治療成績

【骨肉腫】

骨肉腫の最近の治療成績

(海外)
メモリアル スローンケタリング癌センター(アメリカ)
5年生存率 78% 
Institute Orthopedico Rizzoli (イタリア)
7年生存率 68%
(当院)
1995年~2000年 四肢発生の stage(監)B骨肉腫 16例
3年生存率 94%
5年生存率 83%

【軟部肉腫】

軟部肉腫の最近の治療成績
(海外)
UCLA 5年生存率 71%
(当院)
1995年~2000年 四肢発生の (AJCC stage(特)~(企)) 軟部肉腫 47 例
3年生存率 89%
5年生存率 71%

10.手術後の機能障害について

手術時には局所再発率と機能障害を最小限にするように計画しますが、切除された筋肉は再生することはないのでその部分については筋力が低下します。しかし、残された周囲の筋肉が代わりに作用する場合も多いので日常生活にそれ程障害を及ぼすものではありません。
例えば、大腿骨遠位部(膝)にできた骨肉腫では大腿骨とともに大腿四頭筋の一部を切除し腫瘍用人工関節に置き換える場合が多いのですが、術後の膝関節の筋力は約80%維持され、また膝関節の曲がりは約90度で、歩行には杖などの支持はいりません。一方、脛骨近位(膝)の骨肉腫では膝関節の伸展機構の再建が必要で大腿骨の場合に比べ少し機能は劣ります。
機能障害の程度は切除する腫瘍の部位、大きさ、深さまた神経切除の有無によって異なりますので手術前に担当医に充分な説明を聞いてください。

11.術後のフォローアップ

治療が終了した後は、外来通院となります。一般的に最初の1年間は一ヶ月に一回、局所再発、肺転移の有無、人工関節をチェックします。検査は局所の触診と単純レントゲン撮影で、必要に応じてMRI, CT,骨シンチグラムをおこないます。2年目以降は間隔をあけ治療終了後5年間は観察が必要です。

12.治療による副作用と生活

【化学療法の副作用】

急性期の副作用として食欲不振、嘔気、嘔吐という消化器症状がでてきます。最近は効果的な制吐剤が開発されこれを用いていますが充分とはいえないのが現状です。
点滴が終了して数日ぐらいで白血球の数がだんだん減少してきます。引き続いて血小板、赤血球が減少してきます。白血球が少なくなると感染に弱くなるので隔離や抗生物質の投与が必要な場合があります。白血球を上昇させる注射(GCSF)を併用し回復をはやめるようにします。血小板が減ると出血しやすくなるので血小板輸血が必要なことがあります。赤血球の減少は貧血です。だんだんと回復してくるので通常は様子をみますが重度の時は輸血を検討します。
その他、アドリアマイシンには心筋障害が知られています。イフォマイドには心筋障害、腎機能障害、脳症があります。シスプラチンには腎機能障害、神経障害(しびれや聴力障害)、メトトレキセートには肝機能障害、腎機能障害があります。性腺に対する障害は無精子症、卵巣機能障害が知られていますが詳しいことは分かっていません。また、治療後に2次発がんがおこることが稀ながら報告されています。抗癌剤は腫瘍に対する作用も強いかわりに副作用も多いのです。しかし、薬の投与量と投与方法の工夫、副作用の予防薬を用いることで重篤な副作用の出現は少なくなっています。

【人工関節の耐用性】

腫瘍用の人工関節の歴史は新しく国内では1980年頃より行われるようになりました。初期の頃は、合併症として人工関節のゆるみ、切損、感染、骨折が見られましたが、インプラントデザインの変更や手術手技の改善により合併症の頻度は減少しています。現在は主に骨セメントを用いず、制御型で術中に長さが自由に調整できるタイプの人工関節を使用しています。制御型の人工関節の場合、結合部のポリエチレンが5年から10年の間にどうしても磨耗が生じ、関節の不安定性がでてきます。従って磨耗がでてくるとポリエチレンだけの入れ替えが必要となります。若年者で手術をした場合、術後の経過期間が長いので合併症に対してなんらかの追加の手術が必要になるかもしれません。

13.予防と検診

現在まで骨軟部腫瘍に関連する予防はほとんど知られていません。しかし、多発性外骨腫では長期の経過中に悪性化(軟骨肉腫)が知られているので定期的な観察が必要です。また遺伝性の網膜芽細胞腫(小児の眼にできる悪性腫瘍)では骨肉腫の頻度が高いとされています。
病気の数が他のがんに比べて少ないため検診はおこなわれていません。症状が現れた時に早めに受診することが大切です。

14.遺伝子関連

骨軟部腫瘍ではいくつかの腫瘍で染色体の異常とそれに伴って腫瘍に特徴的な融合遺伝子が最近知られています。おもな腫瘍は、ユーイング肉腫、滑膜肉腫、脂肪肉腫(粘液型)で診断に役立っています。遺伝子治療はまだ実験段階で人に使える状態ではありませんが、近い将来、新しい治療法として確立されていくと思われます。