診療科・部門

子宮内膜がん(婦人科)

1.概説 | 2.治療

1.概説

子宮体癌(内膜癌)はI期からIV期の4つの進行期に分類されます(0期もありますが少し特殊です)。子宮体癌は子宮頚癌や卵巣癌と比較すると放射線療法や化学療法の効果が乏しいので、手術療法が主な治療法です。
 
術式は子宮頚部に癌が及んでいない場合は準広汎性子宮全摘出術、頸部に及んでいる場合は広汎性子宮全摘出術が行われるのが一般的です。また、体癌は、骨盤の中のリンパ節だけでなく腹部大動脈(みぞおちの付近の高さで、背骨のすぐ前を走っている大きな血管)の周囲(傍大動脈)のリンパ節へ直接転移を来すことがありますので、当院では骨盤内および傍大動脈リンパ節郭清(かくせい)術を行うのを原則としています。
ただし、癌の子宮の筋肉への浸潤がわずかで腫瘍が2cm以下と小さく高分化のものでは、リンパ節への転移をおこす可能性がほとんどなく、郭清を省略しています。
 
ただし、以上の体癌の手術に対する考え方には、病院によってかなりの差があります。
 一番の問題点はリンパ節郭清で、リンパ節は全く取らない病院、骨盤内だけ取る病院もたくさんあるのです。その理由についてですが、以下に、婦人科の雑誌に掲載された当科のリンパ節の取り扱いについての文章を載せましたので、参考にしてください。

2.治療

”従来、婦人科癌がPAN(傍大動脈リンパ節)に転移することは知られていたが、このような転移が始まっているような症例はすでに手遅れで全身病であり、PANの治療をしても予後の改善につながることはなく、徒労に終わるだけであるという考え方が一般的であった。しかし、麻酔技術や術後管理の進歩向上によって長時間の手術が可能となり、前述した化学療法という治療の選択の幅が広がり、さらに何よりもFIGO(世界婦人科連合)で卵巣癌、体癌の進行期分類にPANの転移の有無が盛り込まれたことによって、PANへの取り組みへの関心が高まってきたのである。
リンパ節転移のある症例の予後が悪いことは周知の事実であり、これをいかに改善して行くかが今後の癌治療の大きな一つのポイントであることは間違いない。
現在でも、いかなる進行期の婦人科癌であってもPANの郭清は行わないという施設を多数見受ける。その理由の多くは、冒頭に述べたようにPANに転移のあるものは手遅れではないか、また、PAN郭清の手技的・技術的・時間的問題が大きすぎる、PAN郭清後の副作用が大きすぎるといったものである。
頚癌ではPeN(骨盤内リンパ節)に転移したものは次第にPANに向かって転移する、体癌ではPeNとPANにそれぞれ別ルートで転移するものがあるということは、すでに広く認知されていることである。そうであれば、ある程度の進行癌においては、その完全な寛解治癒を目指そうとする限り、PANの状態を把握しこれを制御する必要性のある症例が存在するのは自明の理である。過去においては、PANに転移するのはIII・IV期癌になってからであろう、そしてそれも稀なことであろうから、あえて検索する必要はない、と考えられていたと思う。ところが実際にPAN郭清を行ってみると、I・II期癌でもPAN転移陽性の症例が発見されてきたわけである。ただし、これらリンパ節に転移した後に、あるいは同時に、さらに他臓器への転移が始まっている様な症例(特に体癌)があるわけで、当然このような症例はかなりの難治例と考えなければならず、その見極めが肝心と思われる。しかし、転移PANを郭清して他に転移巣がなく、寛解導入に成功したという症例を実際に経験しなければ、PANの検索に対する興味も湧かず、こういった見極めは難しいと言わざるを得ない。現在まだ一般的には、このような見極めが十分になされていないものと想像される。”

少し硬い表現の多い文章ですがいかがでしたか。
体癌は、昔から、子宮と卵巣さえ取れば70%は大丈夫、といわれてきました。確かに、これは本当です。70%という治癒率が治療する本人にとって高いか、低いか。
私たちは、もっと治癒率を上げるために、リンパ節を調べる必要のある人を選び出して、リンパ節郭清を行ったほうがよいと考えています。ただ、この”選び出し”がむずかしく、今はまだ私たちも試行錯誤の段階なのです。
手術は大きくなればなるほど、手術を受ける側の負担、つまり患者さん自身に対する手術の悪影響(副作用)が増えていきます。その悪影響を越えるほどの恩恵がないと手術を受ける意味がありません。今後さらに、リンパ節郭清を行わなくても良い患者さんをたくさん選びだせるように努力してまいります。
さてまた、体癌は頚癌と違って卵巣転移の頻度が高いので、両側の卵巣を摘出するのが原則です。
術後の組織検査でリンパ節転移があるなどのハイリスク例では、後治療として化学療法(主にシスプラチンを使ったCAP療法。最近は、特に予後が心配な場合にはタキソールを使用)を行いますが、手術で腫瘍が完全に摘出されておれば再発の予防効果があるようです。またリンパ節の転移の状態によっては、放射線療法を行うことがあります。