診療科・部門

腎細胞がん(泌尿器科)

1.解剖 | 2.腎細胞がんとは | 3.症状 | 4.検査と診断 | 5.進行度・病期
6.治療 | 7.治療成績 | 8.手術後の障害・後遺症 | 9.予防と検診

1.解剖

腎臓は腸の入っている腹膜の背中側に位置し、左右にひとつずつある。ほとんど全体が肋骨により保護されるような高さにあり、右は左よりやや下にあるのが普通である。これは、右の腎臓が肝臓に押し下げられていることによる。息を吸うと約3cm下がる。血液は大動脈から直接枝分かれする左右の腎動脈から流れ込み、腎静脈、大静脈を経て心臓に帰る。腎臓でできた尿は左右の尿管を通り、下腹部にある膀胱に流れる。

2.腎細胞がんとは

腎に発生する原発性腫瘍には腎細胞癌、Wilms腫瘍、腎肉腫、腎盂腫瘍、腎血管筋脂肪腫等があり、その中で腎細胞癌は約90%を占めている。またすべての癌の約2%を占める。泌尿器科系悪性腫瘍の中では膀胱癌、前立腺癌についで多い腫瘍である。

3.症状

当科において1986年4月から1998年12月までの12年8カ月間に原発巣に対する手術を施行し、病理組織学的に151例が腎細胞癌と診断された。発見の動機として以下の4つが挙げられる。

1. 血尿、疼痛、腫瘤触知等の泌尿器科的症状によるもの——-55例
2. 体重減少、全身倦怠感等の非泌尿器科的症状によるもの——-11例
3. 転移巣が先に見つかりその原発巣精査中に腎細胞癌が発見されたもの——-12例
4. 検診・人間ドックあるいは高血圧等他疾患の精査中に発見されたもの(偶発癌)——-73例

4.検査と診断

検尿
血液検査;非常に有用な腫瘍マーカーとはいえないが、IAP、CRPなどがある。

エコー;場合によっては腫瘍の中の血流量を調べるドップラーエコーを併用する。

腎盂造影;造影剤を注射し、それが尿に出てくる様子をレントゲン撮影する検査。腎臓の働きを 調べたり、腫瘍による正常部分の変形を見たりできる。

CT、MRI;あたかも体を輪切り、縦切りにしたような画像がとれる。

血管造影;この検査だけは外来ではできないので、必要であれば入院後行うが、現在当科においてはあまり施行していない。

5.進行度・病期

進行度の分類方法はいくつかあり、時代によっても変遷する。以下は進行度を4段階に分ける方法である。前述の諸検査の結果により分類する。

ステージ1;癌は腎臓の中にのみ認められる。
ステージ2;癌は腎臓の周りの脂肪に浸潤しているが、それ以上は広がっていない。
ステージ3;癌が腎静脈、大静脈に進展している、あるいは、腎臓の近くのリンパ節に転移している。
ステージ4;癌は隣接臓器(腸や膵臓など)に浸潤している、あるいは遠隔転移(肺、骨など)を認める。

6.治療

腎細胞癌の治療法

手術で腎細胞癌を取り去ることが中心となる。
手術の方法は根治的腎摘除術(腎臓とその周りの脂肪、筋膜、副腎を一緒にとる方法)、腎部分切除術(腫瘍の部分のみを切除し、腎臓自体は温存する方法)、体腔鏡下腎摘除術(体の中を内視鏡で覗きながら腎臓を取る手術)などがある。
場合によっては、カテーテルを用い腎動脈塞栓術といった、手術以外の方法もある。
転移巣に対する治療としては手術、免疫療法(インターフェロンやインターロイキン2といった薬の注射)がある。
抗癌剤の化学療法は効果が薄い。

7.治療成績

当科の治療成績

累積生存率(Kaplan-Meier法)
151例のなかにはいろいろなステージの症例が含まれるが、全体として5年生存率71.8%、10年生存率63.3%であった。
参考;最近の他の病院からの報告では
5年生存率–59.0%, 10年生存率–59.0% (A病院)
5年生存率–55.9%, 10年生存率–63.4% (B病院)

8.手術後の障害・後遺症

根治的腎摘除術後では腎臓はひとつになってしまうが、働きとしては問題のない場合が多い。

9.予防と検診

約6ヶ月に1度、血液検査、胸部レントゲン、腹部CTで再発、転移の出現がないか様子を見ていく。
腎細胞癌の特徴として長期間経過した後でも再発、転移が出現することがあるので、何年経てば大丈夫、ということはいいにくいのが実際のところである。