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悪性リンパ腫(血液内科)

1.概説 | 2.分類 | 3.悪性リンパ腫の症状 | 4.悪性リンパ腫の診断 | 5.治療

1.概説

血液とは

血液は体重の約1/13を占め、体重50kgのヒトで約4リットル有り、心臓のポンプ作用で全身の組織に送られ細胞に酸素や栄養を送り、細胞からの老廃物を運び出す役目をしています。
血液は血漿と呼ばれる水の部分と血漿中に浮遊している血球で構成され、血球には赤血球、白血球および血小板の3種があります。
その寿命は赤血球が約120日、白血球(顆粒球)が6~8時間、血小板が7~10日で、何れも骨髄中で持続的に産生され常に新しいものと置き換わると共に赤血球は1mm3の血液中に約450万個、白血球は5000個そして血小板は15万個と一定に調節されています(造血)。
いずれの血球も一種類の細胞(造血幹細胞)に起源を発しています。
細胞内には遺伝子という細胞の形や働きに関するすべての情報が記録されている設計図のような部分があり、この遺伝子が正確に働いて細胞の分化、増殖を適切にコントロールしているのです。
その調節機構が破綻し、無制限に血球が増加する病気を白血病といいます。即ち、白血病には白血球が増加する病気だけではなく、赤血球や血小板が増加するものもあるのです。また細胞分化のいずれの部分で癌化が起こるかで、腫瘍細胞の性格は異なりリンパ腫にもなります(図1)。

悪性リンパ腫はリンパ性白血病と同様リンパ球に由来する悪性腫瘍です。白血病と異なるのは、血液やリンパ液にのって容易に全身に進展、特にリンパ節を中心に浸潤、リンパ節を増大させることです。

2.分類

悪性リンパ腫は大きくホジキン病(HD)と非ホジキンリンパ腫(NHL)に分類されます。
HDは欧米人に多く、比較的化学療法や放射線照射に対する感受性が高く、また、連続して進展、リンパ節外病変が稀という特徴があります。
一方、NHLは非連続的に進展することも多く、節外病変も稀ならず見られます。
リンパ腫は組織像により細分化され、これが予後と関連しています。

3.悪性リンパ腫の症状

悪性リンパ腫の最も一般的な症状はリンパ節腫大です。
HDでは頚部のリンパ節腫大で初発することが多いのですが、NHLではその他、腋の下や股の付け根のリンパ節腫大で見つかることも有ります。
また、リンパ節外(胃など)が初発巣となることも有ります。

4.悪性リンパ腫の診断

悪性リンパ腫の確定診断は病理組織学的検査です。
頚部など腫れているリンパ節の一部を取り出し、組織を確認します(これを"生検"といいます)。
生検で得られた組織は固定後、顕微鏡で確認します。腫瘍である事を確認するためには、通常のリンパ節の構造を破壊し細胞が増殖、増殖している細胞が1種類「単クローン」であることを証明する必要があります。
通常の組織診断(形態)のみで診断が困難な場合、特殊染色を行ったり、白血病の診断と同様に細胞表面の糖タンパクの構成や染色体分析の結果を参考にします。

悪性リンパ腫では組織型と同様にどれ位リンパ腫が広がっているのか、即ち臨床病期が予後や治療の選択に重要な因子となります。
そのため、診断確定後にCT、腫瘍シンチ(ガリウムシンチ)、超音波検査、MRI、骨髄穿刺などを行います。
血液検査では、LDHの上昇を伴います。最近、可溶性インターロイキン2受容体(sIL2‐R)の上昇が悪性リンパ腫腫瘍マーカーとして有用とされています。
しかし、まったくsIL2‐Rの変化を見ない悪性リンパ腫もあり、また、ウイルス感染症などでも上昇するため注意が必要です。

5.治療

悪性リンパ腫の治療方針

悪性リンパ腫の治療方針を決定する主な因子は組織型と臨床病期です。臨床病については主にAnnArbor分類が用いられます。

AnnArbor分類
病期 病変部位
I 一ヶ所のリンパ節領域または節外性部位
II 横隔膜の同側の2ヶ所以上のリンパ節領域
III 横隔膜両側のリンパ節領域
IV 1つ以上のリンパ節外領域へのびまん性の浸潤
悪性リンパ腫の治療

HDの場合

HDでは先に述べたように連続性に病変が進行する傾向にあり、組織型と共に臨床病期が重要です。臨床病期がⅠ期、Ⅱ期の早期群では放射線療法単独、その他の群では化学療法単独、化学療法と放射線照射の併用が行われます。HDの予後は良好で、早期で予後因子良好群では80%、進行期で予後因子不良群でも40%以上が長期生存しています。化学療法はABVD(アドリアシン、ブレオマイシン、ビンブラスチン、ダカルバジン)やMOPP療法のナイトロジェンマスタードをシクロフォスファミドに変更したC-MOPP療法(シクロフォスファミド、ビンクリスチン、プロカルバジン、プレドニゾロン)や両者の交代療法が多く行われています。

NHLの場合

NHLでは低悪性度群、中高度悪性群で治療方針が異なります。

1) 低悪性度群は増殖がゆっくりしている反面、薬剤感受性はあまり良くありません。あとで述べる中高度悪性群のように、化学療法のみで治癒は殆ど望めません。臨床病期ⅠとⅡでは通常放射線照射を行うことが多いようです。しかし、比較的早期に腫瘍細胞が全身に散布されることが多く、Ⅱ期では放射線と化学療法の併用が必要なことも有ります。Ⅲ、Ⅳ期の低悪性度群では現在一定の治療方針はなく、個々の施設や主治医により異なります。

2) 中高度悪性群は増殖速度は速い反面、薬剤感受性は良好です。臨床病期Ⅰ期のものについては病変部の局所療法(放射線照射や手術療法)、Ⅱ期のものに対しては局所療法に化学療法を組み合わせることが多いようです。Ⅲ期以上のものに対しては化学療法が主体となります。化学療法はCHOP療法(シクロフォスファミド、アドリアシン、ビンクリスチン、プレドニン)が標準的な療法であり、病期に関係なく本治療法が使用されることが多いようです。しかし、巨大腫瘤を伴うときは放射線療法と併用され、再発時など化学療法の感受性が悪い場合にはより強力な化学療法が選択されます。

その他の治療法

造血幹細胞移植

自家末梢血幹細胞移植(または自家骨髄移植)

自分の造血幹細胞を末梢血中に動員、採取し凍結保存したものを超大量化学療法の後、輸注し造血を再構築します。自分の細胞を用いるので移植に関連した危険性が少ないのですが、反面、同種移植のように免疫効果は期待できません。抗癌剤に対する感受性の高い症例に対しては、有効ですが、抗癌剤感受性の低い、低悪性度群についてはその適応は明らかでは有りません。

同種末梢血幹細胞移植(または同種骨髄移植)

HLAの一致した同胞および非血縁者から造血幹細胞を採取、超大量化学療法後、輸注し造血を再構築するものです。輸注した細胞が生着後、免疫を介してリンパ腫の腫瘍細胞を攻撃するので(移植片対リンパ腫効果)再発率は自家移植に比べ低いのですが、移植自体の危険性が高く、リンパ腫ではどのような症例に適応があるのか、いまだ定説は有りません。

ミニ移植

超大量化学療法を行うことなく、免疫反応に重点をおいた移植法です。化学療法の副作用が少ないため、高齢者や合併症を有する患者さんにも施行が出来るのですが、移植片対宿主病の可能性は通常の同種移植と同様です。最近、始められた手技でもあり、まだ明確な適応はありません。

モノクローナル抗体療法

Bリンパ球の表面にあるCD20という形質に対し、抗CD20抗体を用いて免疫反応で細胞を障害、抗腫瘍効果を期待した治療法です。このような抗体に放射性同位元素を付け、抗腫瘍効果を強化したもの(ミサイル療法)試みや、化学療法と併用する方法が試みられています。