診療科・部門

脳神経内科で診療している主な疾患

脳血管障害

脳はその働きを行うために心臓から流れてくる血液と酸素や糖分などをやりとりする必要があります。この脳を取り巻く血管に異常をきたす疾患を脳血管障害といいます。脳血管障害の中核に位置する疾患群が脳卒中で、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血が含まれます。当科では脳梗塞を中心に診療を行っています。

脳梗塞

脳梗塞は脳の血管が詰まり脳組織に血液が流れなくなることによって発症します。血流が途絶えると1分ごとに190万もの神経細胞が死んでしまうといわれており、細胞が完全に死んでしまうことを「脳梗塞」といいます。脳梗塞をできるだけ軽くするためには、まだ梗塞に至っていない神経細胞(生きている神経細胞)がある間に詰まった血管をできるだけ早く再開通させることが重要です。詰まった血管を再開通させる方法として、t-PAという薬を点滴し血栓を溶かす治療(血栓溶解療法)やカテーテルによって詰まっている血栓を回収する治療(血栓回収療法)があります。
これらの治療は時間との勝負となります。従って、早期の来院と来院後の治療体制が極めて重要です。当科は脳神経外科と協力して24時間専門医による診察可能な体制をとっており、病状に応じて応援の医師を呼び、迅速に脳外科手術、血栓溶解療法や血管内治療が行える万全の体制を整えています。

頸動脈狭窄症

動脈硬化によって頸動脈が狭くなる頸動脈狭窄症は脳梗塞の原因となります。頸動脈狭窄症は狭心症などと同じく全身の動脈硬化の一症状であり、最近は人間ドックや糖尿病患者のスクリーニングとして施行される頸動脈エコー検査で見つかることが多くなっています。頸動脈狭窄症はその程度に応じて外科治療が必要になることがあります。治療には手術によってプラークを除去する頸動脈内膜剥離術(CEA)とカテーテルを用いてステントを留置し狭窄部位を広げる頸動脈ステント留置術(CAS)があります。
当科では、血管超音波、MRI検査、脳血流SPECT検査や血管造影検査などを行うことで、脳梗塞発症リスクを評価し、外科的治療が必要かどうかを判断します。どのような治療がベストかを患者さんとも相談していき、必要があると判断した場合は、脳外科と協力して頸動脈ステント留置術を施行しています。

神経救急

神経救急と一口に言っても、対象となる症状や疾患は非常に多彩です。意識障害を始め、麻痺、しびれ、ふらつき、ふるえ、めまい、頭痛など、神経救急の外来には様々な症状でお困りの患者さんが来院されます。これらの症状の中には、心臓の不整脈による失神や、耳の病気によるめまい、貧血によるふらつき、薬の副作用による意識障害など、脳や神経が直接の原因ではない患者さんも多く含まれます。
当科では、こうした幅広い病態も含めた神経救急に対応できるように、脳神経内科領域だけではなく、広く総合内科的な知識や経験を身につけ、臨床に応用できるように日々トレーニングを行っています。関連する診療科の先生方と緊密な連携を取りながら、緊急性の有無を判断し、適切な診療科に振り分けたり、軽症の場合はかかりつけ医に紹介したりすることも、我々の重要な役割です。当科では、脳卒中はもちろんのこと、けいれんや脳炎・髄膜炎、ギラン・バレー症候群など様々な神経救急に対応できる体制が整っています。

神経変性疾患

神経細胞が何らかの理由で変質してしまい機能が廃れていく病気を総称して神経変性疾患といいます。代表とされるのがパーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症とよばれる病気です。異常なタンパク質の蓄積や神経細胞の老化などが原因とされていますが、まだはっきりしたことがわかっていないものも多く、それらは神経難病として現在も研究が進められています。

パーキンソン病

パーキンソン病とは、脳内のドパミンを作る細胞が減ってしまう進行性の病気です。手足がふるえる、体の動きが遅くなった、歩くのが遅くなった、ちょこちょこ歩きになった、バランスが悪くなったなどの症状が続いている場合、パーキンソン病の可能性があります。このような運動症状以外にも、便秘や頻尿、意欲の低下(アパシー)、立ち眩みなど様々な非運動症状を起こすことがあり、生活に大きな影響を及ぼします。しかし、これらの症状が全ての患者さんでみられるわけではなく、症状や経過に個人差が大きい病気です。50歳以上で起こることが多く、人口10万人当たり約150人の方が発症します。
パーキンソン病は、症状、画像所見、治療の効果などから総合的に診断されます。薬を用いることで症状の改善がみられるかどうか治療反応性を確認することも診断において重要です。少なくなったドパミンを補う薬剤治療により、症状を抑えてなるべく不自由のない生活を目指すことが出来ます。症状に応じて複数の薬を組み合わせて治療します。最近は皮膚貼付剤(貼り薬)も使用されています。
発症から早い時期にきちんと治療をうけることが重要ですので、気になる症状があるかたはかかりつけの先生へ相談してみてください。

筋萎縮性側索硬化症

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、脳・脊髄にある運動神経細胞が徐々に障害されることにより、身体を動かす筋肉がやせて力がなくなっていく進行性の神経難病です。一般的には、はじめに手足が動きにくくなるタイプと、しゃべったり飲み込んだりといった口の中が先に動きにくくなるタイプとがありますが、最終的には手足、口の両方に障害が進み、呼吸に必要な筋肉にも障害が現れます。
当科では、詳細な神経学的診察、筋電図をはじめとした専門的検査を駆使し診断を行っています。残念ながら現時点でALSを完全に治す薬はありませんが、必要に応じ進行を少し遅らせることができる飲み薬、点滴を使用し、リハビリテーションを行います。患者さん、ご家族の希望に寄り添いながら、食べ物の飲み込みが難しい場合には胃瘻の作成、呼吸が難しい場合には人工呼吸器の装着なども相談していきます。

神経免疫疾患

免疫とは、ウイルスなど微生物に対する防御機構として備わっているからだの働きです。本来外敵に対して作用する免疫が誤って自己を攻撃してしまう病気のことを自己免疫疾患といいます。この自己免疫疾患のうち神経に作用する病気が神経免疫疾患と称され、多発性硬化症や重症筋無力症、ギラン・バレー症候群などが含まれます。

多発性硬化症

多発性硬化症は、脳や脊髄など中枢神経系と呼ばれる部位で、神経細胞や神経線維の構造を支えて電気信号が伝わっていくのを助ける髄鞘と呼ばれる構造に障害が出る病気です。中枢神経系は場所によって機能が分かれており、どこが障害を受けるかによって症状が異なり、筋力低下、しびれ感、視覚障害、認知症など様々な症状が見られます。類似疾患として、視神経脊髄炎やMOG抗体関連疾患など、以前には多発性硬化症と同一疾患と考えられていたものの、病態や治療反応性などの差から独立して考えられる疾患もあります。
当科ではまず脱髄型中枢神経免疫疾患に対する鑑別精査を行って診断をつけます。症状が出現してきた急性期にはステロイドパルスとよばれる免疫を抑える治療を行います。その後診断結果に合わせて疾患修飾薬を選択し再発予防を行っていきます。治療薬には昔から使われているインターフェロンβから比較的新しい抗体医薬まで、患者さんごとの全身状態や病状にあわせて検討しています。

重症筋無力症

重症筋無力症は、神経と筋肉の接ぎ目(神経筋接合部)が障害されることで、全身の筋力が低下する、疲れやすくなるなどの症状が現れる病気です。特に眼瞼下垂(まぶたが下がる)、複視(ものが二重にみえる)などの眼の症状をおこしやすいことが特徴で、手足の筋力低下のほか、飲み込みの障害を生じることもあります。重症化すると呼吸筋の麻痺を来すこともあります。重症筋無力症は神経筋接合部が自己抗体(自己の細胞や組織を攻撃してしまう抗体のこと)によって障害されることで起こるのですが 、自己抗体がなぜつくられるのかについて、詳しい原因はまだよく分かっていません。治療は神経筋接合部に対する自己抗体の産生や破壊的な作用を抑える薬が中心となり、当科では患者さんとご相談しながら最適な治療法を提供します。早期に治療が開始できれば比較的予後が良い病気で、治療を行いながら支障なく日常生活を送れる方も多くいらっしゃいます。

機能性疾患

脳神経内科で診療を行っている疾患の中には脳の構造自体には問題がないものの、その働きの中で異常が生まれた結果症状として出てくることがあります。当科では頭痛、めまい、てんかん等を扱っていて、問診と診察を中心に、MRI検査などの各種検査も参考にしながら診療を行っています。

頭痛

頭痛には急性発症のものと慢性発症のものがあり、中でも頭痛の原因となる疾患がある場合(二次性頭痛)と片頭痛のように器質的な疾患がない場合(一次性頭痛)があります。一番重症なのは脳卒中や髄膜炎等に起因した急性発症の二次性頭痛であり、そういった疾患を見逃さないことが大切です。当院では専門医による迅速な身体診察や画像的な評価を通じて二次性頭痛の鑑別・診断・治療に当たっています。また、緊急性がないと判断された慢性的な一次性頭痛であっても、頭痛による日常生活への障害は人それぞれです。当院では片頭痛や群発頭痛といった一次性頭痛に対しての最新治療も可能であり、患者さんと相談していきながら、患者さんそれぞれの生活にあわせた薬剤調整を行っています。

めまい

めまいは日常的によくみられる症状のひとつですが、非特異的な症状でもあります。一般的にめまいとは平衡感覚のミスマッチや統合異常で生じる異常感覚を指し、「目の前がぐるぐる回る」といった訴えがみられます。ところが失神による眼前暗黒感を「めまいがする」と訴える患者さんも多くいらっしゃいます。そのためめまいの診療には問診、身体診察、それらによって生じた鑑別疾患に対する検査が重要です。
脳神経が関係する疾患は、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害や脳腫瘍などが代表として挙げられ、めまいの他に「頭が痛い」、「ものが二重に見える」、「呂律が回らない」、「手足が動きにくい、しびれる」なども伴うことがあります。場合によっては早急な対応が必要になりますので、救急での受診も検討してください。
三半規管・前庭の障害によるめまいは末梢性とも分類され、良性発作性頭位めまい症、メニエール病、前庭神経炎などが知られており、耳鼻咽喉科による専門的な判断が必要になることもあります。失神の原因には起立性低血圧や不整脈などの循環器疾患が多く含まれます。それらが疑わしい場合は循環器内科にご紹介する場合もあります。