専門分野のご案内 網膜硝子体疾患
「網膜の構造」
網膜は網膜色素上皮を含めて10層から成っています。従って感覚網膜は9層からなり、眼球の内側の硝子体から外側の脈絡膜に向けて順に、内境界膜、神経線維層、神経節細胞層、内網状層、内顆粒層、外網状層、外顆粒層、外境界膜、杆体錐体層(外節)となっています。
「裂孔原性網膜剥離」
この網膜を内側から支えているのが「硝子体」です。眼球の大部分を占める硝子体は、水分を含んだ無色透明なゼリー状で、眼球の形を保つ役割を持ちます。この硝子体は、老化や強度の近視などによって、縮んでしまい、この際に硝子体を包む網膜が一緒に引っ張られて裂け鉤状の孔が開くことがあります(裂孔)。また、栄養障害によって網膜そのものが萎縮し、小さな孔が開くこともあります(円孔)。
このように、網膜が硝子体に引っ張られて裂けたり、網膜が萎縮して孔が開いたりしたものを、「網膜裂孔」と言います。このように形成された網膜裂孔は、そのまま放置しておくと網膜剥離へと進行し、その部分に一致した視野欠損を自覚するようになり、黄斑部に及ぶと著しい視力低下を来たします。
「網膜剥離の治療」
●網膜裂孔
<網膜光凝固術>
網膜裂孔だけで剥離には至っていない場合は、裂孔周囲をレーザーで凝固して孔を塞ぎます。網膜剥離が起こっている場合は、他の治療法と組み合わせて治療する必要があります。
網膜剥離を生じていない網膜裂孔であればレーザー光凝固で治療できます。レーザーを裂孔の周囲に照射し、網膜とその外側の脈絡膜を焼きつけて孔をふさぐ治療法です。
レーザー光凝固は、点眼麻酔だけで施行することができ、治療時間も20分程度なので患者さんにかかる身体的負担も少なく、もっとも簡便な治療法と言えます。
凝固法はその他、冷凍凝固やジアテルミー凝固がありますが、外来で行える比較的簡便な方法はレーザー光凝固です。ただし、網膜の黄斑部に裂孔がある場合は、直接凝固の適応はありません。
●裂孔原性網膜剥離
<硝子体内気体注入術>
硝子体の中にガスを注入し、裂孔が上になるようにうつ伏せの姿勢をとることで、剥離網膜を復位させ最終的に凝固術を併用して治療する方法です。ガスの浮力によって網膜下液が硝子体内に押し戻され、神経網膜が網膜色素上皮と接するようになります。その状態を3~4日保つと、剥離網膜は一時的に復位します。その後、光凝固や冷凍凝固で裂孔を塞ぎます。硝子体内に注入したガスは、時間が経てば自然に吸収されていきます。
ただし、この治療法が適するのは、原因裂孔が眼球の上方にある人に限られます。
<強膜内陥術(部分バックリング・輪状締結術)>
裂孔原性網膜剥離に対する治療法で、光凝固や冷凍凝固と組み合わせて行います。具体的には、裂孔ができた強膜の外側に、柔らかいシリコン等の素材でできたバックルを縫いつけ、これで眼球を内側にへこませて、網膜色素上皮とはがれている(神経)網膜を接着させます。
ただし、多発裂孔症例や眼球の圧迫を強化したい場合は、眼球全周にシリコンバンドを巻きつける輪状締結術を行います。
<硝子体切除術>
網膜を牽引している部分の硝子体を切除して、硝子体から網膜を切離する手術です。
ただし、硝子体の牽引を除去しただけでは、剥離網膜は復位せず原因裂孔から入り込んだ下液が勝手に抜けることはありません。
そこで硝子体切除後に眼内に特殊なガスを注入し、風船のように膨らませて網膜を内側から押し付ける「ガスタンポナーデ」を行います。この場合は網膜をガスにより圧迫する為に、網膜を上方になる様につまり眼球を下に向けるようにする必要があります。すなわち、術後はうつ伏せ(腹臥位)安静となります。凝固した裂孔周囲が瘢痕化するまではこの体位での安静が必要です。