診療科・部門

主な疾患と検査・治療

主な疾患と検査・治療

  • 原発性肺がん

    肺がんの検査としては、肺がんであることを調べるために、喀痰細胞診、気管支鏡を用いた検体採取(生検)をしています。当科では、2泊3日(水曜日に入院、金曜日に退院)の入院管理下で、毎週木曜日の午前中に気管支鏡検査を行っています。一方、胸水が貯まっている場合には、針を胸腔内に刺して胸水を採取(胸水穿刺)して、細胞診を行います。これらの検査で、がん細胞やがん組織が採取できれば、さらに肺がんの組織型(小細胞がん、扁平上皮がん、腺がん、大細胞がん等)を分類していきます。また採取したがん組織は、必要時には、肺がんに関連した遺伝子変異やがん免疫に関連した物質についても検査しています。

    肺がんの進行度(がんの広がり)を調べる検査としては、胸部・腹部・頭部CT、PET-CT検査(当院に設備がないため、検査専門施設に紹介しています)、頭部MRI等を用いています。

    小細胞がんと非小細胞がん(小細胞がん以外の癌)では、進行度に応じて治療法が異なります。肺がんの治療としては、手術、放射線治療、薬物療法(抗がん薬)があります。また、これらを組み合わせた治療を行う場合もあります。毎週金曜日、呼吸器外科、放射線診断科、放射線治療科、臨床検査科などと合同で検討会を開いて、治療方針を決定しています。なお呼吸器内科では、主に薬物療法(抗がん薬)治療を行っています。抗がん薬にはがん細胞を直接攻撃する薬(細胞障害性抗がん薬)、遺伝子変異に合わせた薬(分子標的治療薬)、がんに対する免疫の働きが低下することを防ぐ薬(免疫チェックポイント阻害薬)があります。がん細胞の種類(組織型)と遺伝子変異などの検査結果、病気の拡がり、全身状態、年齢、合併している病気などを考慮して、最も適した治療方法を選択しています。

  • 胸膜中皮腫

    壁側胸膜の中皮細胞から発生するがんで、壁側胸膜および臓側胸膜に急速に広がっていきます。肺がんに比べると頻度の低いがんですが、アスベストを吸い込んでから25~50年 程度で発症すると言われています。

    診断に関しては、胸水が貯まっていれば、細い針を胸に挿入して、胸水の一部を採取します(胸水穿刺)。胸水中に、がん細胞、細菌、結核菌などが含まれているかどうかを調べます。ただし、悪性胸膜中皮腫かどうかは、胸水を調べるだけでは不十分なことが多く、大きな組織検体を採取(胸膜生検)するために、さらに太い針を使うこともあれば、呼吸器外科にて胸腔鏡を使った手術をすることもあります。進行度を調べるために、全身CTやPET-CTを撮影します。

    全身状態が良好で、病気が片方の胸だけに限局している場合には、手術が可能なこともありえます。しかしながら、多くの場合には、薬物療法を行っています。従来は、殺細胞性抗がん剤のペメトレキセドとシスプラチンを併用するレジメンが一般的でした。最近では、がん免疫療法も使えるようになっていて、薬剤選択に問題がなければ、初回治療から積極的に投薬しています。

  • 慢性閉塞性肺疾患(COPD)

    あまり聞き慣れなれない病名かもしれませんが、従来、「慢性気管支炎」や「肺気腫」と呼ばれてきた病気の総称です。タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することで生じた肺の慢性炎症性疾患です。喫煙者の15~20%がCOPDを発症します。日本の40歳以上の人口の8.6%、約530万人の患者が存在すると推定されています。しかしながら、大多数が診断も治療もされないままと考えられています。

    労作時呼吸困難(歩行時や階段昇降など、身体を動かした時に息切れを感じる)や慢性の咳や痰が、特徴的な症状です。一部の患者さんでは、気管支喘息の様な症状(喘鳴や発作性呼吸困難など)を合併することもあります。

    確定診断には、スパイロメトリーといわれる呼吸機能検査が必要です。胸部X線では早期診断は難しく、胸部CTでは早期に肺胞の破壊は検出できますが、気道病変型のCOPDを見落としてしまいます。基本的には、閉塞性換気障害を確認するためにも、呼吸機能検査をお薦めしています。

    治療としては、まずは禁煙です。喫煙を続けていたら、呼吸機能の悪化が加速します。現在も喫煙を続けている患者さんには、禁煙するように粘り強く指導しています。一方、薬物療法としては、気管支拡張薬(抗コリン薬、β2刺激薬)です。気流閉塞が重症で増悪を繰り返す場合には、吸入ステロイド薬も追加することがあります。吸入療法には、各種さまざまな吸入器があります。吸入器を使いこなせないと、肺内に薬剤が到達せず、薬効が得られません。各々の患者さんが上手に使いこなせそうな吸入器を選択するように努めています。

  • 気管支喘息

    気道に慢性的に炎症が持続して、さまざまな刺激に気道が敏感になって、発作的に気道が狭くなることを繰り返す病気です。

    診断としては、スパイロメトリーといわれる呼吸機能検査と呼気NO濃度測定を行うようにしています。呼吸機能検査では、気道が狭くなっていないかを調べます。さらに気管支拡張薬を吸ったあとに、気道が拡がって改善すれば、喘息の可能性が高くなります。また吐いた息(呼気)の中の一酸化窒素(NO)濃度が上昇していたら、気道の炎症があると考えられ、喘息の可能性が高まります。そのほか、血液検査で、アレルギー体質か、特定のアレルゲンがないか、なども検査します。

    治療としては、基本的には吸入療法で、その主体は吸入ステロイド薬です。症状が強い、あるいは不安定なために受診される場合には、気管支拡張薬(β刺激薬や抗コリン薬)も加えて、2剤あるいは3剤の吸入から開始します。症状が落ち着いていても、継続的に吸入を続けて、徐々に吸入薬を減量したり、減薬したりしています。またこの吸入療法をもってしても、症状のコントロールがつかないときには、生物学的製剤の適応がないかを検討しています。

  • 間質性肺炎

    「肺炎」が病名についていると、ワクチンで予防できたり、抗生剤で治りそうな誤解をされるかもしれません。この病気は、肺胞の壁に炎症や損傷が起こって、壁が厚く硬くなるため (線維化)、次第に酸素を取り込みにくくなっていく病気です。原因は様々で、ウイルス感染によるものであれば「ウイルス性間質性肺炎(ウイルス性肺炎)」、使用中の薬剤との相性が合わなくて起こるものであれば「薬剤性間質性肺炎(薬剤性肺炎)」、有機物の粉塵や化学物質を繰り返し吸い込んだことによるアレルギー反応が原因となる場合には「過敏性肺炎」、免疫異常による膠原病といわれる疾患に合併する場合には「膠原病肺」、などと呼ばれます。原因不明のものを特発性間質性肺炎(IIPs)と総称していて、さらにいくつもの病型に分類されています。IIPsのなかでは特発性肺線維症 (IPF) が80~90%と最も多く、次いで特発性非特異性間質性肺炎(NSIP)が5~10%、特発性器質化肺炎(COP)が1~2%程度です。

    問診、身体診察、胸部X線、胸部CT、呼吸機能検査、運動時の血液中の酸素の量の低下の割合などから病状を評価します。気管支鏡検査によって、肺胞洗浄検査や気管支鏡下肺生検等を行うこともあります。病型によっては、これだけでも診断に至ることもあります。しかしながら、より正確な診断には、全身麻酔下での肺生検の手術を必要とするものもあり、かなり侵襲的な検査になるので、患者さんの状態によって施行すべきかどうかを検討しています。

    治療としては、病型、進行速度、患者さんの状態によって、対応は異なります。線維化の進行した間質性肺炎に対しては、抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテダニブ)内服の導入を検討します。すりガラス陰影主体、気管支肺胞洗浄液中のリンパ球割合が高いなどの所見を検討して、ステロイド剤をお薦めすることもあります。急速に進行してきた場合には、患者さんの呼吸状態などが持ちこたえられるならば、少なくとも気管支鏡検査だけでも施行してから、速やかにステロイド投与を行うかもしれません。いづれにしても、副作用対策にも配慮しながら、長期的な投薬治療になります。

    ちょっとした風邪等をきっかけとして急激に病状が悪化すること(急性増悪)がありえます。これは、非常に致死率の高い状態です。このようなことを防ぐために、普段からの日常の手洗いやうがいなどの感染予防対策を指導しています。また地域の先生方にお願いして、肺炎や各種ウイルスのワクチンを受けるように薦めています。

  • 気胸

    肺の表面に穴が開いて、肺の空気が胸膜腔に入ることが原因となって、胸の中で肺を包む胸膜腔の中に空気がたまります。こうなると息を吸っても肺が広がりにくく、呼吸がうまくできなくなります。最も多い症状は、突然の胸痛と呼吸困難です。そのため前もって予約して受診に来られるよりも、緊急的に救急受診されるほうが多いでしょう。また症状から推測して、まずは循環器内科に紹介されることもあるかもしれません。

    診断には、いち早く胸部X線写真を撮影することです。胸部の胸膜腔内に空気があること、肺がしぼんでいることを見つければ診断できます。引き続いて、胸部CTを撮影して確認することもあります。

    軽度の気胸であれば、経過を診るために複数回にわたって外来受診して頂きますが、安静のみで改善することもありえます。胸膜腔内の空気が多い場合は、入院の上で、胸の外からチューブ(トロッカー カテーテル)を入れて、持続的に胸膜腔内の空気を抜く必要があります。救急的な疾患ですので、救命救急科などでこのような初期治療をされることもあります。万一、上記のような治療でも空気の漏れが止まらない場合には、呼吸器外科で手術をして穴を塞ぐ治療が行います。そのため、気胸患者さんは、呼吸器内科医が入院主治医になることもあれば、呼吸器外科が入院主治医になることもあります。いづれにしても、当院では早期から、呼吸器内科と呼吸器外科で共同診療するようにしています。なお手術困難な患者さんには、チューブから胸膜の癒着を起こす目的で血液や薬を入れて胸膜を癒着させることもあります。

  • 肺炎(呼吸器感染症)

    肺炎は、細菌やウイルスなどの病原微生物が感染して、肺に炎症を起こす病気です。咳、痰、息切れ、胸の痛み、発熱、疲れやすい、発汗、頭痛、吐き気、筋肉の痛み、さらには、お腹の痛みや下痢といったさまざまな症状がみられることもあります。急に発症して、急速に悪化しうる病気ですので、まずはお近くの医療機関に速やかに受診して下さい。

    診察所見、胸部X線、血液検査、必要に応じて胸部CT等で診断していきます。肺炎と診断した場合には、さらに原因微生物を調べるために、鼻やのどの奥をこすりとったり、痰・尿・血液などの検体を採取して調べていきます。

    軽症肺炎であれば、抗菌薬を服用してもらって、外来通院下で治療するかもしれません。重症肺炎であれば、入院してもらって、連日 抗菌薬を点滴します。

  • 肺結核

    結核菌という細菌が肺に感染して起こる病気です。症状としては、咳、痰、血痰、だるさ、発熱、寝汗、体重減少などがあります。特に咳、痰が出ている場合には、他人にうつす可能性が高くなります。「2週間以上 咳が続く」場合、「血痰がある」場合には、お近くの医療機関に受診して、胸部X線を撮影してもらいましょう。

    結核と診断されると、3~4種類の抗結核薬の内服治療をします。治療は6ヶ月間以上と長く、途中でやめずに治療終了まで続けなくてはなりません。治療を途中でやめてしまうと、薬剤耐性結核になってしまって、薬が効かなくなる恐れがあります。

    喀痰から結核菌が検出されると、周囲に感染させる可能性があります。当院は結核専門病院ではありません。そのため、感染性のある患者さんには、結核専門病院へ紹介をして、菌が減ってくるまで入院治療して頂いています。早期に診断して感染の恐れがない場合、結核専門病院での入院加療の後に感染性が低減した場合には、外来通院下でも治療継続を行います。

  • 非結核性抗酸菌症

    結核菌以外の抗酸菌が肺に感染して起こる病気です。非結核性抗酸菌とは、150種類以上あるさまざまな菌を総称しています。その中でも、マイコバクテリウム・アビウム菌とマイコバクテリウム・イントラセルラーレ菌が80%を占めるので、これらをまとめてマック症(MAC症)と呼んでいます。結核菌とは異なって、人から人には感染しません。

    咳、痰、血痰、だるさ、発熱、寝汗、体重減少などが症状として出るかもしれませんが、症状がなく、健康診断の胸部X線や胸部CTでたまたま発見されることも多くあります。

    喀痰検査にて、2回以上同一菌種が検出されることが診断確定に必要です。何回も喀痰検査に提出してもらっています。喀痰がなかなか出ない場合には、気管支鏡検査にて検体を採取しています。

    菌種によって治療薬が異なりますし、患者さんの年齢・全身状態・併存疾患・希望などによっても治療適応は異なってきます。マック症では、症状や肺の陰影が悪化してくる場合には 薬による治療を行います。クラリスロマイシンと 抗結核薬2種類を毎日内服し、少なくとも1年半(菌 が培養されなくなってから1年間)続ける必要が あります。人から人への感染はないので、隔離入院は必要ありません。