診療科・部門

疾患別治療方針

腎癌

腎癌は検診などを契機に発見される無症候性が大半を占めます。CT・MRI・骨シンチなどにより臨床病期を診断し、腫瘍の大きさや転移の有無によって治療方法を決定します。

A.小径(4cm以下)腫瘍

患側の腎機能を温存することを目的に腎部分切除術を基本的に行います。約1cmの傷4-6ヵ所で腫瘍のみを切除するロボット支援腎部分切除術を第一選択としています。腎機能を可能な限り温存するため腎動脈遮断による阻血時間を最短とする努力を行っています。癌制御・腎機能温存・合併症回避のtrifecta達成は極めて重要です。

B.4cm以上の腫瘍

癌の根治性を優先するため腎摘除術を行うことが基本となります。10cmを超える大きな腫瘍を除いて1—2cmの傷4−5ヵ所で腎を摘出する後腹膜鏡下腎摘除術・腹腔鏡下腎摘除術を行います。
今後は2022年保険収載されたロボット支援下手術も導入する予定です。

C.転移を有する場合

腎摘除術を先行して行うこともありますが、全身治療が必須となります。スニチニブ・パゾパニブ・アキシチニブ・エベロリムス・カボザンチニブ・レンバチニブなどの分子標的治療薬・免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブ・ペンブロリズマブ・アベルマブにより原発巣や転移巣の腫瘍縮小効果が認められています。
一次治療は免疫チェックポイント阻害薬2剤のイピリムマブ・ニボルマブ併用あるいは分子標的治療薬・免疫チェックポイント阻害薬のレンバチニブ・ペンブロリズマブ併用療法を積極的に行います。腎癌の治療薬が次々と保険適応となっており、最適治療が行える体制を整えています。

腎盂尿管癌

腎盂尿管癌は血尿を契機に診断されることが多い病気です。尿管癌は尿管の通過障害を来すことがあり、水腎症で発見されることもあります。尿細胞診・膀胱鏡検査などを外来で行い、確定診断のために腎盂尿管鏡検査を施行します。
CT・MRI・骨シンチなどにより臨床病期を診断し、腫瘍の深達度や転移の有無によって治療方法を決定します。

A.筋層非浸潤性腫瘍(T1以下)

内視鏡的に完全切除することは容易ではなく、再発のリスクもあるため根治性を優先にして腹腔鏡下腎尿管全摘除術が第一選択となります。腹腔鏡下に1—2cmの傷4ヵ所で腎臓を遊離した後下腹部に小切開をおき、腎尿管と膀胱の一部を一塊にして摘出します。
高度腎機能障害・単腎の場合は患側の腎機能を温存することを目的に経尿道的尿管腫瘍切除術を選択する場合もあります。

B.筋層浸潤性腫瘍(T2以上)

腎尿管全摘除術・リンパ節郭清が第一選択となります。腹腔鏡手術を行うことが基本ですが、浸潤性腫瘍・リンパ節転移を疑う場合は開腹手術を選択する場合があります。
癌制御のためには所属リンパ節郭清を正確に行うことが重要です。

C.転移を有する場合

化学療法の治療効果が予後を規定します。第一選択として抗がん剤治療(GC療法)が治療の主軸となります。術前補助化学療法が有効であれば、手術を選択します。また化学療法抵抗性の尿路上皮癌には二次治療として免疫チェックポイント阻害薬であるペンブロリズマブ療法を行います。三次治療としては年齢・病状・全身状態など総合的判断のもとエンホルツマブベドチンを選択します。

膀胱癌

膀胱癌は血尿を契機に診断されることが多い病気です。尿細胞診・膀胱鏡検査を行い、CT・MRI・骨シンチなどにより臨床病期診断を行います。
内視鏡を用いた経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-BT)で治療を行います。切除した腫瘍の異型度・深達度(細胞の性質や腫瘍の深さ)の病理組織診断によりその後の治療方針を決定します。

A.筋層非浸潤性腫瘍(T1以下, low grade)

経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-BT)を行うことにより完全切除が可能な病期です。膀胱内再発の可能性があることから再発防止のため術後抗がん剤膀胱内注入療法を行います。

B.筋層非浸潤性腫瘍(T1以下, high grade)

経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-BT)を行い、腫瘍の完全切除を目指します。また初回手術から2ヵ月以内に残存腫瘍の確認を目的とした経尿道的膀胱腫瘍切除術(second TUR-BT)を行います。異型度が強い(high grade)の場合は再発・進展のリスクが高いことから術後抗がん剤膀胱内注入療法・BCG膀胱内注入療法を積極的に行います。
上皮内癌・随伴性上皮内癌に対してはBCG膀胱内注入療法(週1回 計6回)を行います。

C.筋層浸潤性腫瘍(T2以上)

再発転移のリスクが高い腫瘍で膀胱全摘除術が標準治療となります。手術は腹腔鏡下またはロボット支援下膀胱全摘除術と尿路変向術を第一選択としています。腹腔鏡手術は開腹手術に比べ、出血量を低減する利点があります。尿路変向術は尿管皮膚瘻・回腸導管・回腸新膀胱など病状・年齢に応じて術式を選択します。
術前の臨床病期診断により術前後の補助化学療法を施行する必要があるかを判断します。また術後の病理組織診断により化学療法あるいは免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブ療法を追加施行します。
年齢や全身状態を判断し、手術施行困難な場合は抗がん剤と放射線療法の併用療法により膀胱を温存する治療を行います。

D.転移を有する場合

全身治療の効果が予後を規定することになります。第一選択として抗がん剤であるGC療法を、化学療法抵抗性の第二選択として免疫チェックポイント阻害薬であるペンブロリズマブ療法を基本としています。また治療抵抗性症例では年齢・病状・全身状態など総合的判断のもとエンホルツマブベドチンを選択します。

前立腺癌

前立腺癌は検診などのPSA検査で早期診断されることが多い病気です。診断を正確に行うことはきわめて重要です。直腸指診・超音波検査・multiparametric MRIを施行し、放射線診断医とカンファレンスで検討を行います。
前立腺生検術は1泊2日で経直腸12ヵ所生検に経会陰4ヵ所生検を追加した16ヵ所生検により確実に診断を行っています。また超音波検査・MRI陽性病変には狙撃生検を追加しています。腰椎麻酔(サドルブロック)で行うため、全く痛みがなく施行することが可能です。確定診断した後にCT・骨シンチなどにより臨床病期診断を行います。
前立腺癌の治療は無治療経過観察・手術療法・放射線療法・内分泌療法など多岐にわたり、合併症もそれぞれ特徴的といえます。
年齢・病状に応じて選択可能な治療法をすべて提示して、患者様の意思に基づいて治療を選択します。

A.前立腺限局癌(Stage A・B)→診療の特色を参照

PSA値・multiparametric MRIによる病期診断・前立腺生検術の病理診断によるリスク分類(NCCN分類)に基づき治療方針を決定します。

  1. 手術療法
    ロボット支援前立腺摘除術(RALP)
  2. 放射線療法(臨床病期により内分泌療法を併用)
    外照射:強度変調放射線治療(IMRT)
    内照射:高線量率組織内照射法(HDR-ISBT)
  3. 内分泌療法
  4. アクティブサーベイランス(1年後再生検術を前提とした経過観察)
  5. 無治療経過観察

当院で施行していない重粒子線治療・密封小線源永久挿入療法を希望される方は他施設への紹介を積極的に行います。

B.局所進行癌(Stage C)

転移は認めないものの局所で進行している病期で、高リスク群に分類されます。
被膜外浸潤のみであれば手術療法も選択肢の1つとなりますが、精嚢浸潤を認める場合は内分泌療法を併用した放射線療法が主軸となります。

C.転移を有する場合(Stage D)

内分泌療法(ホルモン療法)が第一選択となります。内分泌療法は注射薬と内服薬により男性ホルモンを抑える治療で、90%以上に有効性が認められます。しかしながら奏効期間は様々で、一次内分泌療法の効果がなくなる状態、いわゆる去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)となります。
去勢抵抗性前立腺癌に対する治療として抗がん剤(ドセタキセル・カバジタキセル)や新規ホルモン剤(エンザルタミド・アビラテロン・アパルタミド・ダロルタミド)など選択肢も増え、奏効期間の延長を期待できるようになっています。
また診断時転移を有するホルモン感受性前立腺癌に対しても第一選択として抗がん剤(ドセタキセル)や新規ホルモン剤(エンザルタミド・アビラテロン・アパルタミド)を積極的に使用します。

D.骨転移を有する場合

内分泌療法(ホルモン療法)を基本として、骨転移治療薬としてビスフォスフォネートのゾレドロン酸やRANKL抗体であるデノスマブの併用を行います。また放射線治療科と協力してα線核種であるRa223塩化ラジウム(ゾーフィゴ)内用療法を積極的に行っています。これらは骨痛や骨折などの骨関連事象を低減します。

E.がんゲノム医療

転移を有する前立腺癌において、BRCA遺伝子変異陽性であればPARP阻害薬であるオラパリブを使用することが可能となります。
遺伝子変異の有無はがん遺伝子パネル検査により確認が可能です。

MSI-highを有する固形癌

高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-high)を有する固形癌に対して免疫チェックポイント阻害薬であるペンブロリズマブが保険適応となりました。病理組織検査を行い、MSI-highを診断することが必要です。

尿路結石症

尿路結石症は尿路(腎・尿管・膀胱・尿道)に結石ができる病気です。腎結石は無症状であることが多いのですが、尿管結石は非常に激しい痛み(疝痛発作)を伴います。症状がない場合でも腎機能が悪化することもあり、正確な診断と治療が必要です。 一般的には4mm以下の結石は自然排石が期待できるため排石を促進する薬物療法を行います。4mm以上の結石は自然排石の可能性が低いため手術療法が必要となります。

  1. 体外衝撃波結石破砕術(ESWL)
    体外から衝撃波を当てて結石を細かくする手術です。無麻酔で施行可能で、負担の軽い治療といえます。外来での治療が可能です。
    しかし結石の部位や硬さにより破砕効果が得られない場合や排石までに時間がかかる場合、内視鏡手術を第一選択とします。
  2. 経尿道的腎尿管結石砕石術(TUL/f-TUL)→診療の特色を参照
    硬性・軟性尿管鏡を用い、レーザーによる砕石を行い、細かくなった結石を取り除く手術です。軟性鏡を用いたf-TULは従来の硬性鏡では治療できなかった腎結石にも対応可能で、治療効果の高い手術として近年増加傾向にあります。
  3. 経皮的腎砕石術(PNL)
    皮膚に小径の穴をあけて内視鏡を腎内に挿入して、砕石した後取り出す手術です。効率よく結石を除去できるため比較的大きな腎結石に行う治療です。
  4. TAP/ECRIS(TUL assisted PNL)
    サンゴ状結石などの大きな腎結石に対する体外衝撃波結石破砕術(ESWL)・経尿道的腎尿管砕石術(f-TUL)単独療法は手術時間も長く、治療期間も長期となり完全排石が困難です。
    経皮的・経尿道的アプローチで同時に砕石・抽出するTAPは短期間での治療が可能です。
  5. 開腹手術・腹腔鏡下腎尿管切石術
    ESWLやTULなど低侵襲手術の開発に伴い、第一選択で行うことは稀ですが、尿管狭窄や先天奇形を合併した尿路結石症には適応をなる場合があります。

前立腺肥大症

前立腺肥大症は良性疾患であり、前立腺が肥大することで尿道を圧迫して排尿困難・頻尿・残尿感・尿失禁などの症状をきたす病気です。残尿多量のため腎不全が生じることも稀にあります。
国際前立腺症状スコア(IPSS)により自覚症状の評価を行います。
超音波検査により前立腺サイズを測定し、尿流測定・残尿測定などにて排尿状態を評価して重症度を判定します。
軽症の場合は薬物療法でのコントロールが可能ですが、薬物療法の効果が乏しい場合は手術療法の適応となります。

  1. 薬物療法
    薬物療法が第一選択の治療となります。完治を期待するものでなく症状改善を目指す治療であり、服用を継続していく必要があります。
    尿道抵抗を低くするαブロッカー・PDE5阻害薬や前立腺の縮小効果を期待できる5α還元酵素阻害薬など効果をみながら治療を行います。
  2. 手術療法→診療の特色を参照
    開腹を行わず尿道から内視鏡を用いて前立腺を切除する経尿道的前立腺切除術(TUR-P)・経尿道的前立腺核出術(TUEB)のいずれかを選択します。
    経尿道的前立腺切除術(TUR-P)は標準的治療ですが、大きな前立腺の切除では出血量が多く、灌流液によるTUR反応などの合併症が問題となることがあります。
    経尿道的前立腺核出術(TUEB)は経尿道的に前立腺を外科的被膜に沿ってくり抜き、前立腺を一塊に膀胱内に遊離します。遊離した前立腺で細切・吸引する機能をもつモルセレーターを用いて体外にとりだします。TUEBは出血量を減少させるとともに確実な前立腺切除を可能とします。