閉塞性動脈硬化症
病気の説明
「人は血管と共に老いる」という言葉を残したのはカナダの内科医師 ウイリアム・オスラーだと言われています。人間は年をとると身体の中のいろいろな臓器も年をとり、血管も例外ではなく老化していきます。動脈が老化すると動脈硬化をおこし、身体のいろんなところへの血流が悪くなってしまいます。足の血管も例外ではありません。足に血液を送る動脈が細くなったり、閉塞したりする病気の代表的なものが閉塞性動脈硬化症です。
心臓から出てきた大動脈は背骨の側を足にむかって走行して腰の辺りで左右に分かれます。下腹部(骨盤)の中を通って(腸骨動脈)太ももに出てきますが、足の付け根の辺りで皮膚に近いところを通ります。動脈は再び筋肉の中を通過して(大腿動脈)膝の関節辺りを通過します(膝窩動脈)。動脈は膝の下で3本に別れて(前脛骨動脈、後脛骨動脈、腓骨動脈)足先に向かいます(図)。
血管の病変の場所によって症状が変わってきます。また治療の方法も異なります。
症状
足の血流が低下すると歩いたときや階段を上ったときにふくらはぎ、太ももやお尻の筋肉に痛みを感じるようになります。この症状はしばらく休むと改善することがあり、また歩くことができるようになります(間欠性跛行)。
血流低下がひどくなると安静時にも痛みを感じるようになり、更に血流が低下すると足の指先などが壊死することもあります。糖尿病の人、御高齢の方などでは、血流が低下しているのに自覚症状がないこともあります。
これとは別に足の動脈が血の塊(血栓)で急に詰まって足が壊死してしまう人があります(急性下肢動脈閉塞症)。突然の痛み、しびれ、冷感を感じて、症状のある足や手の脈拍が触れにくくなります。放置すれば下肢の切断や死に至ることもありますので、早急に血流を再開させる治療をする必要があります。
検査
足の血流に問題のない健康な人では、足の甲やくるぶしの後ろ側で脈拍を感じることができます(正常なのに触れにくい人もいます!)。この病気の人は血流の悪い方の足で脈を触れなくなったり、足が冷たくなったりすることがあります。
血圧は動脈内の圧力のことで、通常は上腕(二の腕)で測定しますが、足首でも測定することができます。健康な人の足の血圧は上腕の血圧と同じか少し高いぐらいですが、足の血流の低下した人の場合は腕の血圧よりも低下します。足と腕の血圧の比のことをABIといい、比較的安全で簡便に行う事ができます。ただし血流の悪すぎる場合は血圧が測定できないこともあります。
ABIで足の血流低下が疑われる人は血管超音波検査、造影CT、MRIなどで病変の部位を推定します(図)。さらに入院の上でカテーテル検査を行う事もあります。
治療
閉塞性動脈硬化症の治療は大きく分けると薬物治療、カテーテル治療、外科的治療(手術)があり、血流低下の程度、場所によって適切な方法を選択します。
カテーテル治療は皮膚に近いところを走行する動脈(足の付け根、肘、手首など)から局所麻酔をしてから長いストロー状のカテーテルをレントゲンで見ながら挿入します(図)。細くなっているところあるいは閉塞しているところにガイドワイヤーを通過させて、風船で拡張したり、ステント(金属製のメッシュ状の筒)を血管内に留置します。関節部分の血管などステントの留置に向いていない場所もあります。(治療前後の図)
外科治療には人工血管や御自身の静脈を用いたバイパス手術や内膜摘除術があります。
カテーテル治療や外科的治療等の局所治療で血流が再開しても動脈硬化自体が治った訳ではありません。心臓や脳の動脈硬化を合併している確率も高いため、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、喫煙などの危険因子の治療も必要です。
急性の動脈閉塞症の場合は風船を使って血のかたまりを取り除く手術(フォガティーカテーテル)を行います。速やかに血流を再開させる必要がありますので、すぐに病院あるいは救急にご連絡ください。