診療科・部門

消化器疾患と治療について

消化器疾患と治療について

(1)肝疾患診療

当院は「大阪府肝疾患専門病院」及び「大阪府肝炎専門医療機関」に認定されております。肝炎・脂肪肝・肝硬変・肝臓癌を含む肝疾患の診療を高いレベルで実践するだけでなく、治療に関する最新のエビデンスを発信し、地域医療機関と連携して質の高い医療を提供する中核医療機関としての役割を果たすことが使命と考えております。日本肝臓学会指導医2名、日本肝臓学会専門医2名の計4名の肝疾患専門スタッフを有し、各種肝疾患の診断と治療に対応しております。特に、ウイルス性肝炎治療および肝細胞癌治療(ラジオ波焼灼療法; RFA)を積極的に行っております。また、当院は「日本肝臓学会認定施設」にも認定されております。若手医師に対する学会発表指導および論文執筆指導も積極的に行っており、次世代を担う肝臓専門医育成に努めております。

肝機能障害や肝腫瘤性病変の診療を行っており、対象疾患としては、急性肝炎、ウイルス性肝炎(A型、B型、C型、E型)、アルコール性肝炎、非アルコール性脂肪肝炎(NAFLD/NASH)、自己免疫性肝疾患(自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎、硬化性胆管炎)、肝硬変、肝癌などの肝疾患を幅広く取り扱っております。

肝臓は「沈黙の臓器」と言われ、異常があっても殆ど自覚症状がありません。これらの各種肝疾患を持たれる方は、「血液検査で肝臓の数値異常を指摘された」や「エコーなどの画像検査で肝臓に腫瘤を指摘された」と言って受診されるケースが大半です。治療は疾患ごとに異なるため、「どの肝疾患であるかを診断すること」が何よりも重要となります。特に肝機能障害の病態が長期的に進行する慢性肝炎では、無症状のまま気付かぬうちに肝硬変や肝癌を発症するので、適切な診断及び治療を受けることが大切です。当科は4名の肝疾患専門スタッフが、高い技術や知識、豊富な経験に基づいた質の高い診療を心がけております。検診などで肝臓に異常を指摘された方は是非受診下さい。

慢性肝炎

慢性肝炎は肝機能障害が6ヶ月以上持続している病態です。急性肝炎と同様に原因は様々で、肝炎ウイルス(B型、C型)の持続感染や、肥満・糖尿病などの生活習慣病を合併する非アルコール性脂肪肝炎(Non-alcoholic steatohepatitis; NASH)、アルコール過量摂取、自己免疫性肝疾患などがあります。これらの原因が複数重なる場合もあり、個々の病態を正確に把握して治療する必要があります。原因は何であれ、慢性肝炎は自覚症状が殆どなく、放置すると気付かぬうちに肝硬変に進展し、肝不全や肝癌を発症します。肝硬変に移行しないためにも、適切な診断、治療を受けることが重要です。この数年間で肝炎ウイルス診療は急速に進歩し、特にC型肝炎ウイルスは副作用が殆ど無く排除できるようになりました。当院でも400例以上の治療実績があり、経験も豊富ですので是非ご紹介ください。ただし、アルコール性肝疾患はアルコール専門クリニックでの診療をお願いしております。

慢性肝炎の原因となる病態の解説

肝硬変

慢性肝炎が長期間続くと、肝臓が線維化を来して硬くなり、肝硬変へ進展します。慢性肝炎が肝硬変へ進展すると、肝機能低下や門脈圧亢進による合併症として、食道静脈瘤や腹水貯留、肝性脳症などが見られるようになります。また、肝癌を発症しやすくなります。肝硬変では、原因(B型肝炎、C型肝炎など)に対する適切な治療を行うと共に、上記の合併症に対する治療を行います。

肝癌

肝癌とは、肝臓の細胞から発生した癌のことです。肝臓の細胞には、肝細胞と胆管細胞の2種類がありますが、日本では肝癌の約9割を肝細胞癌が占め、残りの1割を胆管細胞癌が占めます。ここでは肝細胞癌について述べます。慢性肝炎が長期間続くと、肝臓全体が癌になりやすくなります。そのような肝臓の一部から癌が発生し、次第に大きくなっていきます。たとえ癌を根治的に治療しても、癌になりやすい肝臓自体が良くならなければ、他の部位から新たな癌が何度でも発生します。肝癌を早期の段階で発見すれば根治性の高い治療を行うことが可能です。よって、肝発癌の危険性が高い慢性肝炎および肝硬変の方は、綿密なフォローアップを行い、肝癌の早期発見及び根治的治療を行うことが重要です。更に、慢性肝炎の治療も行い、肝発癌の危険性を減らすことに努めます。

肝癌の治療

当院での肝癌治療は、消化器内科、消化器外科、放射線科の3科で検討し、肝機能、癌の大きさ、数、部位を考慮して治療方針を決定しております。目安として、3cm、3個までの早期症例にはラジオ波焼灼療法(RFA)を行い、それ以上進行した症例では肝動脈化学塞栓術(TACE)を行っています。また、分子標的治療薬の早期導入にも取り組み、集学的治療を行っています。

  1. ラジオ波焼灼療法(RFA)

    豊富な治療経験に基づき、他院で治療が出来ない治療困難部位に対しても積極的にRFAを行っており、全国でも有数の症例数を手掛けております*。症例ごとにRFA施行スタッフ間で穿刺方法を十分に検討し、綿密な治療計画を立てております。人工腹水、人工胸水、体位変換、V-navi(Volume navigation system)など、安全で正確な治療を行えるよう工夫を重ねております。

    また当科では麻酔科標榜医の資格を有した医師により、RFA治療時の麻酔方法を工夫しているため、痛みが殆どなく、かつ安全に治療を行うことが可能となっています。患者さんの苦痛を最小限に抑えるよう努めています。
    (*朝日新聞出版社 週刊朝日MOOK「手術数でわかるいい病院 2019」より)

  2. 進行肝癌に対する治療

    RFAが行えない進行した症例では、TACEや分子標的治療薬を行います。TACEの場合は全症例で放射線科と検討し、TACEに用いる抗癌剤の選択など、治療方法を綿密に計画しています。

    また肝癌に対する分子標的治療薬治療は近年急速に進歩しています。使用可能な分子標的治療薬も増えており、出来るだけ早期に分子標的治療薬を使用し、その後RFA、TACEを含めた集学的治療も検討するといった工夫を重ねております。

    脈管浸潤を伴う進行肝癌に対する治療
    一般的に脈管浸潤(腫瘍が血管に入り込んだ状態)を伴う進行肝癌では癌の進行が早いことが知られています。脈管浸潤を伴う場合は手術やRFA、TACEなどの治療が困難なことが多く、また分子標的治療薬治療も効果が乏しいことが知られています。

    当院では高度の脈管浸潤に対しては、局所(血管に入り込んだ部位)に放射線療法(RT)を行い、またリザーバーカテーテルを皮下に留置して行う持続動注療法も積極的に併用しています。当院ではリザーバー動注療法の中でも特に治療効果が高いと言われるNew FP療法を行っており、脈管浸潤を伴う進行肝癌症例での高い治療効果が期待できます。

(2) 消化管疾患診療

消化管の診療は主として内視鏡を用いた検査による診断・治療であり、上部消化管(食道・胃・十二指腸)と下部消化管(大腸)、小腸を対象としています。当院は日本消化器内視鏡学会指導施設に認定されており、内視鏡専門医8名、うち指導医4名で診療に当たっています。平成30年度は約3800件の上部消化管内視鏡検査、約2600件の大腸内視鏡検査を行っております。近年では特殊染色やNBI(narrow band imaging、狭帯域光観察)といわれる特殊光に拡大内視鏡を併用するなどデバイスの進歩もめまぐるしく、より早期に癌の診断や病変の悪性度の評価が可能となりました。また、早期食道癌、胃癌、大腸癌の内視鏡的治療も積極的に行っています。内視鏡的切除方法として比較的小さな病変に対しては、内視鏡的粘膜切除術(EMR)を行い、従来のEMRでは一括切除が困難であった大きな病変に対しては、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を施行することにより、十分な病変からの距離をもって切除することが可能となっています。ESDや大腸ポリープ切除術(ポリペクトミー)など内視鏡診療の詳細につきましては内視鏡室のHPをご参照ください。

内視鏡室の診療実績はこちら

上部消化管(食道、胃、十二指腸)

取り扱う疾患は、食道では食道癌、食道静脈瘤、逆流性食道炎など、胃では胃癌、胃潰瘍、胃ポリープ、胃粘膜下腫瘍、胃静脈瘤など、十二指腸では十二指腸潰瘍、十二指腸腫瘍などで、内視鏡を用いて診断と治療を行っております。主治医だけでなく、グループで情報を共有しチーム医療を行っています。外科や放射線科とも密な連携を取り、問題症例は臓器別合同カンファレンスで相談して、最善の治療を検討しています。また、自施設のみならず、全国の先進施設とともに世界でもトップレベルの治療と臨床研究を行い、国内外で学会および論文発表も行っています。

下部消化管

大腸の腫瘍性病変(大腸癌や大腸ポリープ)、炎症性腸疾患、虚血性腸炎、大腸憩室の炎症や出血など、大腸の疾患を対象としています。大腸内視鏡検査で盲腸までの大腸と小腸の一部を直接観察し、病変の診断を行います。一人ひとりにあった鎮静、鎮痛剤を用い、検査後のお腹の張りをなくすために、炭酸ガス送気システムを導入し、苦痛のない検査を安全に行っております。また、当科では大腸ポリープを発見した際に、切除適応の病変に対しては内視鏡的切除を当日行い、1泊入院の上、切除後出血などなければ翌日退院いただく方針としております。

また、当院では、クローン病、潰瘍性大腸炎、ベーチェット病といった炎症性腸疾患の患者さんを数多く診療しています。早く確実に炎症を治めることが治療の目標となりますが、症状が軽快しても定期通院が必要となります。ペンタサ、アサコール、リアルダ、サラゾピリンの内服から治療を開始し、治療効果が不十分な場合は、副腎皮質ステロイド、免疫調整薬(イムラン、タクロリムスなど)、白血球除去療法(GMA、LCAP)、生物学的製剤(レミケード、ヒュミラ、シンポニー、エンタイビオ、ステラーラ)、JAK阻害薬(ゼルヤンツ)などを組み合わせ、疾患のコントロール、QOLの向上に努めています。

小腸

小腸は6-7mに及ぶ臓器であり、従来の内視鏡機器では到達不可能で、長らく「暗黒の臓器」と呼ばれていました。しかし近年、ダブルバルーン小腸内視鏡やカプセル内視鏡が開発されたことで、小腸疾患に対する様々な診断や治療が可能となりました。ただ、これらの検査機器が全て揃っている病院は未だに少なく、施設によっては診断や治療がしにくいことが実情です。

当院ではダブルバルーン小腸内視鏡とカプセル内視鏡の両方を常設しており、迅速な対応が可能です。これらの機器を駆使して、小腸出血や小腸腫瘍などの診断や治療を行っております。また大腸が長く、通常の下部消化管内視鏡では全ての大腸を観察することができない症例でも、当院ではダブルバルーン小腸内視鏡を用いて対応しています。

化学療法について

当院のがんに対する取り組みについては、最高水準の化学療法を提供できるよう医師、外来化学療法センターの看護師、薬剤師で協力体制を組み、がん患者様の診療をしております。がん化学療法の効果が最大限に発揮できるレジメン(化学療法の投与方法)での治療が継続できるように、副作用への対応にも十分配慮し、治療を行うことを常に心がけております。また、食道、胃、大腸、小腸、肝臓、胆嚢、膵臓と多くの臓器にまたがる腫瘍を相手にしていますので、病状に応じた対応ができるように、消化器外科、放射線治療科、耳鼻咽喉科、乳腺科、泌尿器科、整形外科、婦人科といった各グループと密に連携して診療にあたっております。

基本的にガイドラインに準じた標準的化学療法を行っておりますが、さらに優れた治療法の開発を目指した臨床研究にも積極的に取り組んでおります。また、標準的治療が確立していないがん種や一般的な治療が無効になってしまった場合には、新規薬剤の臨床試験(治験)などを行い、新しい治療法や新薬の開発にも、他科と連携を組みながら、努めております。また、がんの治療に対する不安や痛みなどの症状にも一人一人の患者さんに合わせた治療ができるように、がん診療を専門の看護師とともに診療を行い、化学療法と緩和ケアを同時に、そして早期に同じ場所で行えるように外来で緩和ケア医とも連携をとりながら診療をしております。

(3) 胆膵疾患

膵癌や胆管癌・胆嚢癌などの悪性腫瘍

高齢化に伴い我が国では、膵癌や胆管癌・胆嚢癌の罹患者数は年々増加しています。これらの胆膵領域の癌は未だに予後が悪く、早期に診断して治療に結び付けることが重要です。当院では、腹部超音波検査や腹部CT,MRIはもちろんのこと、必要に応じてERCP(内視鏡を用いて胆管や膵管を調べたり、治療を行う処置)、EUS(超音波内視鏡検査)やEUS-FNA(超音波内視鏡検査を用いて組織を採取する検査)を行います。また、肝胆膵外科、放射線科の専門医とともに毎週合同カンファレンスを行い、正確な進行度診断と適切な治療方針を検討し、チームとして膵癌・胆道癌の治療に取り組んでいます。さらに、悪性胆道狭窄に対する胆管ステント留置、切除不能がんに対しては最新のエビデンスに基づいた化学療法を積極的に行っています。

膵癌・胆道癌の治療成績を向上させるためには、治験や臨床試験による新たな治療法の開発が欠かせません。当科は、国内のがん専門病院で組織される日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)のメンバーとして多施設共同研究に参加し、新たな標準治療確立にも協力しています。

また、膵癌の前癌病変として慎重な経過観察が必要な膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)や膵囊胞についても多数の患者さんを診療しています。

総胆管結石

総胆管結石は、普段は無症状ですが乳頭という胆汁や膵液の排出口に詰まってしまうと胆管炎や膵炎を生じ、しばしば致命的な経過をとることがあります。ですので、総胆管結石は無症状であっても基本的には内視鏡を用いて取り除くことが推奨されています。

当院では、総胆管結石が乳頭に詰まってしまった症例に関しては速やかに内視鏡的処置を行い、胆管に細いチューブを入れてドレナージします。そして全身状態が落ち着いた時点でEST(内視鏡的乳頭切開術)およびEPBD(内視鏡的乳頭バルーン拡張術)を行い、内視鏡的に結石を採石しています。また、巨大結石や積み上げ結石に対しては、EPLBDという大きなバルーンを用いて乳頭を拡張する処置を行い、採石しています。

膵炎

急性膵炎の診療も行っています。ただ、アルコール性膵疾患に関しましては禁酒が大前提となりますので、アルコール専門クリニックでの診療をお願いしております。

腹部手術後の胆道疾患

主に胃癌や膵癌などの手術の際には、腸管をつなぎなおす必要があります。結果、腸管は迷路のように分岐し、かつ胆汁の排出口までの距離も長くなります。そのため、何らかの胆膵に対する処置(ERCP)を行う際には通常の内視鏡では目的部位まで到達することが困難です。当院では、このような症例に対してダブルバルーン小腸内視鏡を用いることで胆膵処置を行っています。また、出来るだけ迷うことなく輸入脚という処置を行う腸管に内視鏡を挿入するために、手術後のつなぎ直した腸管に対するダブルバルーン内視鏡の挿入の際の新たな輸入脚判定法を考案し、その有用性を検討した論文が、2019年のEndoscopyに掲載されました(Identification of retrograde peristalsis determines the afferent limb during double-balloon ERCP: tidal wave sign , Iwasaki T et al. Endoscopy. 2019; 51: E141-142)。