診療科・部門

遺伝性乳癌卵巣がん(HBOC)と診断された方の
予防的手術(RRM・RRSO)について

予防的手術の種類

・予防的乳房切除術(RRM, risk reducing mastectomy)
・予防的卵管・卵巣摘出術(RRSO, risk reducing salpingo-oophorectoy)

当院では、HBOCと診断された女性への予防的手術が可能です。
(詳細は、表1をご参照ください)

  1. 乳がんまたは卵巣がんと診断されたことがある方
    →保険適用で「卵管・卵巣摘出術」、「乳房切除手術」、「乳房再建手術」が可能です。
    ※詳細は①をご覧ください。
  2. 乳がんまたは卵巣がんと診断されたことがない方
    →自費診療での「卵管・卵巣摘出術」、「乳房切除手術」、「乳房再建手術」が可能です。
    ※詳細は②をご覧ください。
  3. 他の医療機関でHBOCと診断された方、血縁者の方
    各診療科の専門医と相談の上、当院で予防的手術を受けていただくことができます。
    詳しくは、主治医または当院の認定遺伝カウンセラーにお問い合わせください。
  4. ①過去に、乳がんまたは卵巣がんの既往歴があり、HBOCと診断されている方

    • 過去に一方の乳房の温存・切除手術を受けられた方:
      主治医と相談の上で、温存した乳房および、もう一方の乳房の予防的切除を保険診療で受けていただくことができます。
    • 卵巣癌の既往歴がある方:
      予防的に乳房や卵巣を切除する手術(希望があれば、左右両方の乳房切除から再建まで)を保険診療で受けられます。
    • がんの転移や再発がある方、抗がん剤などで治療中の方:
      治療を中断することの不利益(現在の病状が進行する可能性)が予防的手術の利益(二次がんの予防)を上回る可能性があります。治療が落ち着いてから、主治医と相談の上で適切な手術実施時期を検討します。
    • 当院への通院歴がない方:
      かかりつけ医からの紹介状をお持ちいただき、当院の担当診療科を受診することで手術を受けていただくことができます。
      ※遺伝子の検査でHBOCと診断されていることが条件となります。条件を満たす方であれば、当院で保険適用にて遺伝子の検査を受けていただくことが可能です。

    ②乳がんまたは卵巣がんと診断されたことはないが、HBOCと診断されている方

    • 2023年1月現在、予防的手術は自費診療(健康保険が使えない)となります。
      ※民間のがん保険の特約において、一部、予防的手術代金をカバーできるものがあるようです。詳しくは、ご自身が加入されている保険会社にお問合せください。
    <乳房の予防的手術について>

    乳がんは、HBOCの方に特化した適切な検診(サーベイランス)によって早期発見できることが多く、予防的に健康な乳房を切除される方は多くないのが現状です。

    <卵管・卵巣の予防的切除手術について>

    卵巣がんには早期発見できる検診がありません。卵巣癌の予防、卵巣癌による死亡を低減するために、適切な時期(BRCA1遺伝子が陽性の方は35-40歳、BRCA2遺伝子が陽性の方は40-45歳)での予防的手術が推奨されます。リスクの低減を目的とした予防的手術では卵巣と卵管を切除し、子宮は温存します(子宮内膜症や子宮筋腫などの症状ある場合は同時切除を考慮することがあります)。卵管・卵巣切除後に起きる更年期症状の緩和を目的にご希望に応じてホルモン補充療法などを用いることがあります。

    <卵管・卵巣予防的切除術の種類とメリット>

    手術方法には、腹腔鏡手術と開腹手術の2種類があります。腹腔鏡手術は身体への負担が少なく、入院日数も短いという利点があります(傷跡も小さくなります)。ただし、開腹手術に比べて手術費用が20万円ほど高額となります。適切な時期に卵管・卵巣を摘出することの利点として、卵管・卵巣がんだけでなく、将来の乳がん発症リスクも半分ほどに下げることができるといわれています。

    費用・入院日数の目安

    自費の場合:

    保険適用で手術を受けられる方は、上記金額の1-3割負担になります。

    両側乳房の予防的切除の手術費用 80万~200万円 入院日数:5~7日程度
    両側乳房の予防的切除+再建術の手術費用 150万~300万円 入院日数:計2週間程度
    卵管・卵巣の予防的摘出術の費用 100万(開腹手術)~120万円(腹腔鏡手術)
    入院日数:腹腔鏡手術 約5日、開腹手術 約1週間

    ※費用は、入院費を含めてのおおよその試算です。費用は多少前後することがあります。
    高額療養費制度の対象となります。

    手術後の留意点

    予防的に切除した乳房や卵管・卵巣組織の病理検査を行います。この病理検査で、手術前の検査や目視では確認できなかった早期のがんが見つかった場合、抗がん剤、根治手術などの追加治療が必要になることがあります。※この治療は保険診療となります。

    利用できる社会的資源について

    保険で行った予防的手術の費用は、「高額療養費制度」および確定申告の「医療費控除」の対象になります。自費で行った場合は、「高額療養費制度」の対象にはなりませんが、確定申告の「医療費控除」の対象として申告できます。詳しくは、管轄の税務署にお問い合わせください。

    よくある質問

    Q1. 卵巣の予防的手術をすれば、将来の卵管・卵巣・腹膜がんのリスクはなくなりますか?

    わずかですが、腹膜がんのリスク(卵管から発生すると考えられているがんで、患者数は10万人に6人程度の希少がん)が残ります。しかし、卵管・卵巣がんの発症リスクはゼロに近づけることができます。一方、乳房や卵管・卵巣を切除しても、他の臓器のがんについては一般的ながん発症リスクが残るため、一般的な検診は必要です。

    Q2. 予防的手術はどこでも受けられますか?

    現時点では、乳腺や婦人科の専門医が在籍し、遺伝カウンセリング体制が整った施設のみに限られています。転居の予定があるなどの理由で遠方の施設での手術を希望される場合、他都府県の手術可能な施設をご紹介することも可能です。詳しくはお問い合わせください。

    Q3. 手術は何歳から受けられますか?

    ガイドライン(※)で推奨されている予防的手術の目安年齢は下記のとおりです。しかし、家系内にこの目安よりも若い年齢で、乳がんまたは卵管・卵巣・腹膜がんと診断されている方がいらっしゃる場合はより若い年齢での手術の実施を検討することがあります。 ※ガイドラインは数年ごとに改訂。推奨年齢や手術内容は変更されることがあります。

    <乳房に関して>

    成人後に応相談。乳がんはHBOCの方に特化した適切な検診(サーベイランス)によって早期発見できることが多く、予防的に健康な乳房を切除される方は多くありません。しかし一方の乳がんが見つかった場合には、もう一方の健康な乳房も含めた全摘を検討します。

    <卵管・卵巣に関して>

    国内外のガイドラインで推奨されている手術実施年齢

    BRCA1陽性の場合 35-40歳(挙児希望がある場合、お子さんを産み終えてから)
    BRCA2陽性の場合 40-45歳(挙児希望がある場合、お子さんを産み終えてから)

    ※実施推奨年齢はあくまで目安です。血縁者の方の中にこれよりも若い年齢で卵巣癌をされた方がいらっしゃる場合、より若年での手術が推奨される場合があります。
    またこの推奨年齢を過ぎていても、手術によって卵巣癌の発症予防や早期発見できる可能性があります。

    Q4. 高齢でHBOCと診断されました。手術は受けた方がいいですか?

    ご自身の体力、持病やご希望に応じて相談となります。70-80代になっても卵巣癌の発症リスクは残るため、「これから元気に過ごしたい」と60代、70代以降で予防的手術を受ける方もいらっしゃいます。

    Q5. 手術の副作用にはどんなものがありますか?

    乳房切除では、乳房をなくしたことに対する喪失感や違和感、乳房を再建した場合には人工物を入れたことによる異物感などを訴える方がいらっしゃいます。卵管・卵巣の摘出後においては、早期閉経による更年期症状(ホットフラッシュ、関節痛、不安感、不眠、骨粗しょう症など症状は人によってさまざま)があげられますが、ほとんど影響がなかったという方もいらっしゃいます。更年期症状を緩和するために、ホルモン補充療法を行うことがあります(乳がんの既往歴がある方は不可となります)。また、すべての外科手術に感染症のリスクが伴います。当院では、手術で起きうる副作用について、事前にそれぞれの専門医と時間をかけて十分に話し合っていただくようにしています。

    Q6. 遺伝子の検査を受けずに予防的手術を受けることはできますか?

    遺伝子の検査でHBOCと診断された方のみが予防的手術の対象となります。遺伝子の検査で陰性またはVUS(病的かどうか現時点ではわからない遺伝子の変化がみつかった)の結果となった方も、予防的手術の対象にはなりません。

    表1:予防的手術までの流れ

    予防的手術までの流れ

    不明な点は、主治医にお問い合わせいただくか、代表番号から遺伝診療センターまでお問い合わせください。

    遺伝診療センター 申込み、問い合わせ
    https://osaka.hosp.go.jp/department/iden/apply/index.html