リンチ症候群(遺伝性大腸がん・子宮体がん)について
リンチ症候群について
リンチ症候群とは、若年で大腸がんや子宮体がんになりやすい体質です。
一般的な大腸がんや子宮体がんは50代半ば以降に増加しますが、リンチ症候群ではより若い年齢(おもに20-40代)でがんと診断されることがあります。
そのほか、胃がん、卵巣がん、腎盂・尿管・膀胱がん、胆管がん、十二指腸がん、前立腺がん、脳腫瘍などにもなりやすいと考えられています。
これまでの研究で、一般集団の200-500人に1人がこの体質を有すると考えられていますが、多くのリンチ症候群の方が診断されず、必要なフォローを受けていないと考えられています。なお「リンチ症候群」という名称は、遺伝性大腸がんの家系を報告した、ヘンリー・リンチ医師の名前に由来しています。
リンチ症候群のご家系にみられる特徴
- ご本人や血縁者に大腸がんや子宮体がんと診断された方が複数人いる。
- 大腸がんや子宮体がんと診断された年齢が若い(50歳以下)。
- お1人の方が、何回もがんと診断されている。
(例:子宮体がんと大腸がんの両方に罹患した、大腸がんの診断を2回受けている…など) - 大腸がんや子宮体がんの手術時に行った組織の検査で、MSI(エムエスアイ)陽性※1またはMSI-H※1、MMR遺伝子の免疫染色検査でdMMR※2といわれた。
- 遺伝子の特定領域を調べる検査。陽性(MSI-H)の場合、リンチ症候群の可能性も考える(確定ではない)。
- 4つのタンパク質の発現を調べる検査。dMMR(一部のタンパク質の発現が認められない場合、リンチ症候群の可能性も考える(確定ではない)。
リンチ症候群と診断された場合の対策
遺伝性大腸がん診療ガイドライン2024をもとに作成
| 部位 | 検診方法 | 開始年齢 | 検診間隔 | 留意事項 |
|---|---|---|---|---|
| 大腸 | 大腸内視鏡 | MLH1,MSH2:20-25歳 | 1-2年 | - |
| MSH6:30-35歳 | ||||
| PMS2:30-35歳 | 1‐3年 | |||
| 子宮 | 子宮内膜組織診 (または細胞診) |
MLH1,MSH2,MSH6 :30-35歳 |
1-2年 | - |
| 卵巣 | 経腟超音波、CA‐125 | - | 担当医の判断で考慮 | |
| 胃・ 十二指腸 |
HP(ピロリ菌)感染 | 30-35歳 | - | 感染があれば除菌 |
| 上部消化管内視鏡 | 30-35歳 | 1-3年 | 胃がんリスクの高い集団または胃・十二指腸癌の家族歴がある場合に考慮 | |
| 尿路 | 検尿または尿細胞診 | 30-35歳 | 1年 | MSH2バリアント、または尿路上皮癌の家族歴がある場合に考慮 |
| 膵臓 | EUSまたは MRI/MRCP |
50歳 | 1年 | 膵癌の家族歴がある場合に考慮 |

大腸内視鏡検査は、大腸がんの予防効果が高く、とくに重要な検診となります。また、リンチ症候群の方がピロリ菌に感染していた場合、胃がんのリスクが高まるため、ピロリ菌の感染がある場合は、速やかな除菌をお勧めします。
リンチ症候群の原因
ミスマッチ修復遺伝子(MLH1, MSH2, MSH6, PMS2)と呼ばれる4つの遺伝子のいずれかに、生まれつき、“遺伝子の機能を損なう遺伝子の変化”(専門用語で病的バリアントと呼びます)がある場合、一般の方よりも、若い年齢で大腸がんや子宮体がんを発症しやすくなると考えられています。
リンチ症候群の診断
リンチ症候群の可能性がある方(ご本人の既往歴や家族歴、MSI検査などの結果に基づいて)でご希望があれば、遺伝子の検査で診断することができます。
リンチ症候群の原因となる遺伝子のいずれかに病気の発症に関わる遺伝子の変化を認めた場合、「リンチ症候群」と診断されます。
遺伝子の検査
リンチ症候群に関係する遺伝子(MLH1、MSH2、MSH6、PMS2、EPCAM※1)を調べます。
検査の前後に、遺伝カウンセリング※2を受けて、遺伝子の情報を知ることのメリットとデメリット、検査の限界、検査の方法、費用、ご家族への影響などを十分に理解した上で、検査を受けるかどうか、ご自身の意思で決めてください。遺伝カウンセリングの費用は、30分3,300円です。
- ミスマッチ修復遺伝子の他に、EPCAMという遺伝子も発症に関わることがわかってきています。
- 遺伝カウンセリングとは、遺伝について深く知るために遺伝の専門家と話し合う機会を指します。
検査の方法と所要日数

通常、少量の血液で検査を行います。結果が出るまでに1カ月ほどかかります。
検査の費用
リンチ症候群と診断するために必要な遺伝子の検査は、全額自己負担となります。
ただし、あなたと血縁のある方が、すでに遺伝子の検査を受けて「リンチ症候群」と診断されていて検査結果をお持ちの場合、検査費用は税込み1万6,000円程度です。
一方、家系内で、ご自身が最初に検査を受けられる場合、遺伝子1つを調べるごとに、税込6万6,000円かかります。
MMR遺伝子を含む、数十個の遺伝子(遺伝性のがんに関係するもの)を一度に調べる、「遺伝子パネル検査」を受ける方もいます。
この検査の費用は、10万円程度です(※2026年4月現在)。
血縁者への遺伝について
リンチ症候群と診断された方は、一部の例外を除き、ご両親のどちらかからリンチ症候群の体質を引き継いだと考えます。きょうだいやお子さんがいらっしゃれば、同じリンチ症候群の体質である可能性は50%です。遺伝のしやすさに性差はありません。血縁のある方と一緒にお話を聞いていただくことも可能です。
注意したい症状
| 大腸がん | 血便、便の色が黒い、便が細くなる、便秘と下痢を繰り返す、腹痛、おなかが張るなど |
|---|---|
| 子宮体がん | 不正出血、月経不順、下腹部痛、性交時の痛み、腰痛、下肢のむくみなど |
| 尿路系のがん | 血尿、腰・背中・わき腹の痛み、頻尿、排尿痛など |
大腸がんの予防について

大腸の内視鏡検査は、大腸がんの発生を防ぐ効果が高いといわれています。
(がん化する前のポリープの状態で見つけて摘除するため)。
- リンチ症候群の方が年に1度の大腸内視鏡検査を受けることにより、
大腸がんによって亡くなる確率(死亡率)を約62%低減できるという報告もあります。
参考文献:Järvinen HJ et al. Controlled 15-year trial on screening for colorectal cancer in families with hereditary nonpolyposis colorectal cancer PMID: 10784581 DOI: 10.1016/s0016-5085(00)70168-5
大腸がんのリスクを高める生活習慣
大腸がんは日本で一番罹患数が多いがんであり、年間15万人以上が大腸がんと診断され、5万3千人以上が大腸がんで亡くなっています。一般的な大腸がんの発生は、生活習慣と関わりがあるとされています。喫煙、飲酒、肥満、成人期の高身長により、大腸がんが発生する危険性が高まります。
国際的には、加工肉(ウインナーやソーセージ、ベーコンなど)、赤肉(牛、豚肉など)の摂取により、大腸がんが発生する危険性が高くなる可能性があるといわれていますが、日本人でのデータは限定的です。
(国立がん研究センター がん情報サービス)
国立がん研究センター 大腸がんファクトシート2024
(https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2025/0327/index.html)

大腸がんのリスクを下げる生活習慣
リンチ症候群であるかどうかに関わらず、身体活動を取り入れることによって大腸がんのリスクを下げられる可能性があると考えられています。
| 運動 | 長時間座ったままになるのを避け、各個人の健康や生活スタイルに合わせて適切な運動を行う (健康な方で、デスクワークなどが多い方は1日30~60分程度) |
|---|---|
| 生活習慣 | 飲酒や喫煙を避け、肥満に気を付ける。 |



リンチ症候群に関する問い合わせ先
当院で、リンチ症候群の遺伝カウンセリング、遺伝子の検査、大腸内視鏡検査などのサーベイランス(検診)を行っています。お気軽にご相談ください。医療機関様からのご紹介のほか、メールや電話での直接の相談も可能です。
メール✉:408-iden●mail.hosp.go.jp ※●の部分を@に置き換えて送信ください。
電話:06-6942-1331(代表)平日:8:30-17:15 遺伝カウンセラーの松山をお呼びください。