各種心筋症
病気の説明
心筋症とは、心臓の筋肉(=心筋)の病気を指す病名です。 心臓はおもに筋肉でできており、この筋力が心臓の収縮力を生みます。ただし筋肉は栄養と酸素を十分含んだ血液が流れないとその筋力を発揮できません。これはもちろん腕や足にも言えることですが、心臓も胃腸も同様なのです。そして筋力を十分に発揮できないと慢性心不全となってしまいます。
コラム
心臓が血液を全身(あるいは肺)に送るために十分な動きを保つには
- 正常な心筋であること(心筋障害)
- 十分な血液が心筋全体に流れ渡ること(冠動脈疾患;狭心症、心筋梗塞)
により規則正しく力強い心筋収縮が生まれ、その機能・運動を維持できます。
(※冠動脈:心臓を栄養する動脈)
反対に何らかの原因で心筋が障害される(①の障害)と、あるいは正常な心筋でも血流が悪くなる(②の障害)と、心筋の筋力は低下する=心臓の収縮力は低下する、わけです。もちろん実際には①心筋自体の異常・変性、②冠動脈疾患 以外にも、不整脈や心室内伝導障害、あるいはその他心臓内外からの負荷(弁膜症、先天性心疾患、高血圧症、肺高血圧症、脚気心など)なども複雑に関与して、それぞれの心筋症が起きているわけです。
一時的な原因であったために心筋症が治ったというケースも中にはありますが、ほとんどが原因治療しても多少は負担が残るため、その後もしっかりとした管理の下で通院治療が必要なことが多い心臓の持病になります。
検査
心筋症と言っても様々な原因があり、それにより病名も細かく分類されています。まず心電図や胸部レントゲン、心エコー検査などで心筋症であることを発見し、さらに運動負荷試験・薬剤負荷試験や心筋シンチグラフィ、心臓MRI、FDG-PET、心臓カテーテル検査、心筋生検などで、心筋症の原因精査を行うことになります。 今後の経過や治療内容が変わりますので、心筋症の病名を調べることは重要なことです。
当院では心臓精査に必要な各種検査機器が充実しており、実績も十分に積み重ねています。
ここでは特に代表的な心筋症についてご紹介していきます。
各種心筋症とその原因・検査・治療
虚血性心筋症
虚血性心筋症とは慢性的な②冠動脈疾患があり心筋に十分な血液が行き渡らない(虚血といいます)ために、高度な心筋障害が起きた心筋症です。冠動脈造影や心筋シンチグラフィなどを組み合わせて総合的に診断します。治療はもちろん血流障害のある血管部位を治療することで改善することもありますが、血管部位によっては血行再建治療(カテーテル治療 / バイパス治療)が困難であることも少なくありません。その場合は、不足気味の血液量に見合った心筋の需要になるようにβ遮断薬と言われる内服薬を中心に調整します。進行すれば新たな心筋梗塞や心不全、重篤な不整脈、血栓症を合併する可能性があります。心筋梗塞にはカテーテル治療・バイパス治療、心不全には強心薬や両心室ペーシング、心臓リハビリ、不整脈には抗不整脈薬やカテーテルアブレーション治療、除細動器付きペースメーカ植込み、血栓症には抗凝固剤や血栓除去術 などが必要になる場合があります。
拡張型心筋症
拡張型心筋症とは左心室の収縮力低下に加えて、徐々に心室腔が拡張してしまう進行性の病気です。もともとこぶし大程度の心臓なのですが、なんと握り拳3~4個分にまで拡大してしまうこともあります。この原因は十分には明らかにはなっていませんが、ウイルス感染、自己免疫異常や遺伝子異常などが複数関与していると言われています。心筋シンチグラフィや心臓MRI、冠動脈造影、心筋生検を組み合わせて総合的に診断します。
十分な血液が心筋に流れているにも関わらず心筋の筋力が低下しているため、その治療は薬物治療(β遮断薬、アンギオテンシンⅡ受容体遮断薬/ACE阻害薬、抗アルドステロン薬、利尿剤など)が中心になります。根気強い通院治療が進行抑制には必要になり、進行すれば心不全、重篤な不整脈、血栓症を合併する可能性があります。心不全には強心薬や両心室ペーシング、心臓リハビリ、不整脈には抗不整脈薬やカテーテルアブレーション治療、除細動器付きペースメーカ植込み、血栓症には抗凝固剤や血栓除去術 などが必要になる場合があります。
肥大型心筋症
肥大型心筋症とは左室・右室の心筋のある部分が徐々に肥大してしまう進行性の病気です。心臓とは筋肉でできた内腔のある、いわゆるポンプの役割を果たすものです。心筋が肥大すると筋肉量が増えるのですが、心臓自体は内腔が狭くなってしまうのでポンプ容積は低下し、結果的には効率の悪い心臓になります。遺伝子異常やウイルス感染(とりわけC型肝炎ウイルスなど)などが原因に関与していると言われています。遺伝する場合も報告されており、もし若くして突然死された血縁関係の親族がいた場合、注意して治療を行う必要があります。心エコー検査で概ね診断できますが、心筋生検などを組み合わせて総合的に診断することもあります。
治療は薬物治療が中心になりますが、進行すれば徐々に筋力は低下し心室内腔は拡張してしまい、拡張型心筋症のように心拡大を呈する状態になります(拡張相肥大型心筋症)。そのような進行性に経過する中で心不全、重篤な不整脈、血栓症を合併する可能性があります。心不全には強心薬や両心室ペーシング、心臓リハビリ、不整脈には抗不整脈薬やカテーテルアブレーション治療、除細動器付きペースメーカ植込み、血栓症には抗凝固剤や血栓除去術 などが必要になる場合があります。
コラム
肥大型心筋症の中には、さらに心筋肥大の場所が悪くポンプの出口を狭めてしまうためさらに効率の悪い心臓になる病型があります。特に流出路(出口)が狭い肥大型心筋症を「閉塞性肥大型心筋症」と称し、逆に流出路に障害のないものを「非閉塞性肥大型心筋症」と称します。閉塞性を呈する心臓は脱水に弱い、強い運動に弱い、失神しやすい、など流出路が狭いがゆえの注意点が多く、特別に治療を追加することが多いため、両者を区別することは病気と付き合っていく上で大事なことです。あまりに流出路狭窄の程度がひどい場合は、肥大した部分をカテーテル治療したり開心術で切除したりペースメーカで治療したりすることもあります。
上記3つの代表的な心筋症の他にも、高血圧性心筋症、タコツボ型心筋症、心筋炎による心筋症など、原因によって様々な病名があり治療内容も少しづつ異なります。
以上のように、治療内容はそれぞれの患者さんによって異なりますが、心筋症は大部分が慢性的な原因の持病ですので継続的な通院治療を行い付き合っていく必要がある心臓疾患になります。